第二部14話目・一歩前進、関係更新
◇◇◇
翌日。昼頃。
俺たちはパーティーハウスに帰った。
……はぁ、疲れた。
俺は重いため息とともに、自分の背中と腰の間のあたりをトントンと叩く。
昨日は生身の体を使いすぎてしまった。
気怠さと疲労感が合わさったような鈍い痛みが、起きたときからずっと腰に残っている。
「おかえりなさいませ、皆さん。……おや?」
出迎えてくれたモルモさんが、俺たちの姿を見たとたんニコニコとした笑顔のまま首を傾げる。
モルモさんは、俺の後ろにいる弟子3人が、揃ってちょっと変な歩き方をしていることに気づいたようだ。
「セリーさん?」
モルモさんが、人差し指と中指の間に親指を入れた形の握り拳を右手で作り、左手は人差し指と中指と薬指を立てると、その指を弟子たちのほうに向けた。
俺は無言で頷く。
モルモさんは「まぁっ!」と驚きの声を出した。
「お赤飯、炊きますか?」
「やめてください。……夕方まで部屋にいますので、晩飯の準備ができたら呼んでくれませんか?」
「ふふふっ、分かりました。今日は腕によりをかけて作りますね」
俺は肉体疲労と寝不足により出てくるあくびを噛み殺しながら、自室に向かう。
すると、途中でシオンさんに会う。
シオンさんは、片手に紙切れのようなものを持っていた。
「あ、セリー君。ちょうど一つ目の試作品ができたから見てもらおうと思ってた、ん……、だけど……?」
シオンさんは、眠そうにしている俺と、俺の後ろをついてくる弟子3人を見て、不思議そうな顔をした。
するとユミィが「シオン。アレ、すごく効いたよ」と言う。
そのとたん、シオンさんが恥ずかしそうに顔を赤らめた。
うん、素晴らしく可愛い。
だが、アレというのはもしや……?
「お前ら。……まさかとは思うが、昨日俺に飲ませた紫色の変な汁は、シオンさんに作らせたものじゃないだろうな……?」
あの、飲んだら訳分からんぐらい元気になって、全員ヘトヘトになるまで何回でもヤれてしまった、あのヤバい汁を。
まさかまさかとは思うが、この清楚の化身のようなシオンさんに、錬金術であんなものを作らせたりしてないよな??
「セリー君。その……、なるべく飲みやすい味にしたつもりだったけど、どうだった?」
だが、シオンさんのその発言で、俺は理解せざるを得なかった。
昨日飲んだあの汁は、シオンさんお手製のものであるということを。
俺は、後ろの馬鹿3人を怒鳴りたい気持ちをぐっと堪えて、答える。
「……ちょっとクセのある味でしたけど、不味くはなかったです」
「ほ、ほんと? 良かったぁ」
「……」
そんな、ホッと安心してはにかんだような笑顔を見せられてしまうと、俺にはもう何も言えなかった。
シオンさんが「次作るときは、もう少し飲みやすくしてみるね!」と言うのにも、黙って頷くしかない。
そして試作の護符を受け取ると「今度試しに使ってみます」と告げて別れた。
俺は歩きながら、後ろの3人に文句を言う。
「あんなもん、いつの間に作らせてたんだ」
「えっと、黒ダン入る前にお願いして、昨日帰ってきたときに受け取ったの」
「けど、あんなに効くとは思わなかったよな……。ボクらも少しだけ舐めてみたけど、お腹の奥がカッと熱くなって、ヌルヌルにあふれてきたもんな」
「メイベルが一番たいへんだた思うヨ。ギンギンになたター師父に組み伏せられて、獣のようにずっと啼かされてたネ」
まぁ、俺も抑えがきかなかったからな。
というかお前ら。
いまさらながら言うけどよ、俺とアイツがヤってるところを見たいとか、頭おかしいんじゃねーのか?
しかもひとしきり見たあとはお前らまで順番に混ざってきやがってよぉ……。
……お前ら、3人ともハジメテだったんだろ?
良いのかよ、ハジメテがあんなので。
すると3人は顔を見合わせる。
「まぁ、この3人でなら」
「抜け駆けされるよりは、よっぽど」
「仲間ハズレになるよりは、全然マシネ」
……あぁ、そうかい。
そんなわけで俺と弟子たちの関係が、少しだけ変化したのだった。
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