第二部9話目・ヤっちまったことは、なかったことにはならない
「貴様、集めた連中から話を聞き出すために、しこたま酒を飲んだり隠し芸などをして場を盛り上げていたな。それでやり過ぎて酔いが回って前後不覚になっていたわけだが」
ああ。
「最後は思いっっきり吐き散らかして、私も貴様も服が吐瀉物まみれになった。で、私が酔い潰れた貴様を介抱しながら店を出たわけだが、私は貴様のパーティーハウスもパーメンの連絡先も知らんから、とりあえずこの私の宿に連れてきたのだ」
……なるほどな。
とりあえず、服を汚したのは悪かった。今度弁償する。
「弁償だから、当然今度一緒に買いに行くぞ。……それはそれとして。連れ帰ったはいいもののこの部屋には一つしかベッドがないし、貴様が汚した服を着たまま寝たくないしということで、貴様の服を脱がせてベッドに放り込み、私も服を脱いで貴様の隣に潜り込んだのだが」
お、おう。
「……よ、酔い潰れているはずの貴様の、……キサマが、す、す、すごいことになっていてな」
……まぁ、最近ちょっとバカ弟子たちから色々やられて、発散できていなかったからな。
「あ、あんなふうになっているのは初めて見るものだったし、なんだかパツパツで苦しそうだったから……」
そう言ってまた顔を赤らめる幼馴染。
俯いたまま、ボソボソと話を続ける。
「……悪いとは思ったのだが、私も酔っていたから、……ちょっとその、アレだ。……触ってみたく、なってな? ……その、な?」
……な、じゃねーんだよ。
その先を言えよ、その先を。
「うぅ……。わ、私だって、一応オンナだしな? き、貴様のことは昔からよく知っていて、悪いやつじゃないことも分かっていたしな? それに、私の不始末の尻拭いのために色々動いてくれていることも、分かっているしだな。……だからその、私もあれこれ触っているうちに、盛り上がってしまってだな……」
俺の幼馴染は、体に掛かったシーツの上からそっと自分のお腹のあたりを撫でた。
「気がつけば、半分意識のない貴様に跨っていた。…………すまん。ハジメテがこんな形になるとは、私も予想外だった」
…………。
「だ、だが、これはもう事故みたいなものだ! お互い様ということで、お互いに忘れてしまったほうが……!」
「お互い様、……じゃねーよ!?」
俺は、ボケナス幼馴染に全力でツッコミを入れた。
ティナ子がビクリと肩を震わせた。
「なんだなんだ! 黙って聞いてりゃあ、テメーが勝手に盛り上がって酔い潰れた俺に跨ったってことじゃねーか!? 何を半分俺のせいみたいにしようとしてんだよ!!」
10割テメーが悪いだろうが!!
そもそもティナ子テメー、酔っててもやっていいことと悪いことがあるだろうが!!
「き、貴様のせいでもあるだろう! あんなものを見せておいて! それに最後はお互い気持ち良くなって達したんだから、共犯だろう!」
知らねーよ!!
こっちは気持ち良かった記憶なんて一切残ってねーんだぞ!?
じゃあこっちは襲われ損じゃねーか!!
「お前、マジで……! ……いや、待て待て待て。……ふぅー。……おい、先に一つだけ確認させろ」
「な、なんだ」
俺は、内心でたぶんダメだろうなと思いながら、一応確認する。
「最後、お前、俺が出す前にちゃんと抜いたんだろうな? さすがに、いくらなんでも、そこぐらいは自制してるよな??」
すると幼馴染は、プイっと顔を背けた。
「……努力はした。……が、最後同時に達してしまって、足腰に力が入らず……」
……そうかよ。
俺は、頭を抱えながらベッドに倒れ込んだ。
「お前なぁ〜〜……、マジでどうすんだよ……」
そういうのが、パーティー崩壊の一番の理由になり得るって、お前だって重々承知してんだろ……。
つーか俺は、俺のバカ弟子たちに、なんて弁明すれば良いんだよ……。
「酔い潰れて異性と一晩過ごしたら襲われちゃいましたって……。お前これ、俺の弟子たちが黙っちゃいないぞ……」
これ、最悪の場合は辺境伯家の連中と昇竜会の猛者たちが出張ってくるぞ。
「しかもお前、性別逆だったらマジの事件だぞ……」
婦女暴行なら少なくとも5年は強制労働刑だし、刑に処される前にパーメンの前に連れて行かれて袋叩きにされるやつだ。
襲われたのが俺だから、まだいいけどよぉ……。
「だ、だから、お互いに忘れよう、と言っているのだ」
「いや、俺もそうしたいところだけどよ……。また近いうちに一緒にダンジョン潜ったりするんだぞ。絶対意識しちまうだろ」
少なくとも俺は意識するぞ。
お前みたいな美人相手にそういうことを致したと思うと、絶対無意識にお前の胸とか尻とか目で追うと思う。
「なっ!? はっ!? 貴様、何を……!?」
「だから俺は、今までこの街でそういう話にすごく気を遣ってたわけだし、できることなら探索者じゃない女性とそういう仲になりたかったんだが……」
けど、シオンさんとは全然そういう感じにならないしなぁ……。
一緒に住んでるってのに、なんの進展もないもんなぁ。
そしたら、なんか知らんうちにバカ弟子たちもストライクゾーンに入ってくるしよぉ……。
そんで調子こいたバカ弟子たちが挑発してくるから、最近はマジで目のやり場に困るし、自室にいても気が休まらないし……。
……正直言うと、だ。
俺だって性欲に負けそうになったことは、一度や二度じゃない。
探索者になったばかりの時はヤバい女に引っかかりかけたし、どうしても我慢できない時は色街に行ったりもした。
「で、ここ最近はマジで弟子たちの誘惑に負けそうになったりもしたが、そこに手を出すのだけは我慢してきた」
なんでか分かるか?
「今の俺は、昔のザコだったころと違って、上でもやっていけるようになったからだ。そして、だからこそ俺は、この街のダンジョンの全てを解き明かしてみたくなった」
虹ダンまで攻略したらこの街はどうなるんだろう、全てのダンジョンをフルマッピングクリアしたらどうなるんだろう、ってな。
「だがそのためには、あの不肖の弟子たちの力が必要不可欠だ。アイツらは俺よりよほど才能があるからな」
俺が調べて、アイツらに教える。
そしてアイツらにもっと成長してもらって、さらに上を目指す。
そういうことを、やっていきたいんだよ。
「だから今は、アイツらの誰かと深い仲になるとか、そういうのはやめとこうと思っているわけだ」
アイツらの中から誰かを選ぶと、絶対パーティー内でギスギスするからな。
そうなりたくないんだよ、俺は。
……だってのによぉ。
「思わぬところからパーティー崩壊の火種が出てきてしまったわけだ」
「それに関しては、……すまなかった」
いやまぁ、謝られるのもなんか違うというか……。
……んー、というかさ。
「お前、俺のことが好きなのか?」
「……っ!? んな、バ、バカ! 貴様、言うに事欠いて何を……!?」
ちなみに、な。
「俺の初恋の相手って、お前だぞ?」
「どぅうえぇっ!?」
ティナ子が、顔を真っ赤にして口をパクパクさせる。
コイツでも、こんな顔するんだな。
「えっ、えっ、……ええっ?? なん、……はあっ??」
いや、マジでマジで。
俺の少年時代に周りにいた女の子の中で、お前が一番可愛くて賢くてキリッとしてたからな。
好きにならないほうがどうかしてんだろ。
「じゃなかったらお前、わざわざ幼馴染ってだけでこんな手間とカネと労力かけて手伝ったりしねーよ」
「そ、そうなのか?」
当たり前だろーが。
誰が親切心だけでお前みたいな面倒臭い女に手を貸すんだよ。
なんだかんだとあって少しでもお前からの評価が上がったら良いなって、そう思ってたに決まってんだろ。
「そうか……。そうなのか……」
「だってのによぉ。人が酔い潰れてるところに跨ってきやがって。しかもハジメテだっただあ? ……バカかテメー」
俺は手を伸ばすと、ティナ子の頬にそっと触れた。
触れた瞬間、少しだけティナ子が震えた。
「そんなハジメテがあってたまるかよ。……おい、イヤなら避けろよ」
それからゆっくり顔を近づけて、困ったような照れたような表情のティナ子にそのままキスをする。
「……〜〜〜〜っっ!!?」
唇を合わせたままたっぷり十数秒。
唇を離すとティナ子は、今まで見たこともないぐらい混乱した表情で俺を見つめていた。
気にせず俺は、ティナ子を押し倒す。
「お、おい……」
「もっかい、ちゃんとやるぞ」
覆い被さるようにして見下ろし、ティナ子が被っているシーツを取り払う。
恥じらう様子の、生まれたままの姿の幼馴染に、俺はゴクリと生唾を飲んだ。
「俺もお前も、もっかいちゃんと気持ちよくなれるように、……頑張るよ」
俺はもう一度ティナ子と唇を合わせ、そこから徐々に首筋、鎖骨と口付けの位置を変えていき……、
そこから俺は、幼馴染のなまめかしい肢体をたっぷりと貪ったのだった。
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