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第二部7話目・ここから先は幻想強度が上がるらしい


 四闘神(てんじょうしらず)とは、四人の武芸の達人たちによって結成された、生身でもクソ強いオッサンたちのパーティーだ。


 鬼神ユウギさん。

 剣神ムサシさん。

 雷神トオルさん。

 そしてリーダーの弓神ヨイチさん。


 今、俺の目の前に座っているヨイチさんは、肉体でも幻想体でも百発百中の矢を放つ弓の達人だ。


 放つ矢は全身鎧を着た騎士3人をまとめて串刺しにできるほどの剛力で、100メートル先でブンブン飛ぶ蜂を撃ち落とすこともできるのだとか。


 俺なんかとは比べものにならないほど分厚い体、太い腕。

 それでいて繊細な長い指と、決して獲物を逃さない鋭い眼を持っている。


 間違いなく、この街最強の弓士(アーチャー)だ。


「お前、今でも弓を使ってるんだってな? かはは、少しは上達したか?」


「はい、おかげさまで。今では六連速射までやれるようになりました」


 俺が答えると、ヨイチさんは嬉しそうに破顔する。


「そうか! その歳でそこまでやれりゃあ、まぁ上等なほうだな!」


「いえいえそんな。俺はあくまでも幻想体でしか弓をやりませんから。幻想体のステータスでこれぐらいできなければ、お話にならないでしょう?」


「まぁな! だが、それでもお前は上等なほうだ!」


 俺は少しだけ驚く。

 この人、見かけと言動のわりには、俺みたいな小僧にもリップサービスができるんだな。


「ははは。……ところで、ですね」


「おぅ! 銀ダンだろ! お前もとうとう潜りたくなったんだってな?」


「そうですね。必要に迫られまして」


「それなら、今からちょっと潜りに行くか」


 え。


「……あー、はい」


「おいおい、そんなに不安そうにするな! 大丈夫だよ。いまさら銀ダンぐらい、オイラがついていれば散歩みたいなもんだ!」


 かはは、と笑うヨイチさんに一抹の不安を覚えつつも、俺は素直に従うことにした。


 まぁ、この人は銀ダンどころか金ダンすらクリアして虹ダンに潜り続けてるバケモノだ。


 俺が新人を連れて白ダン黒ダン潜るのと同じような感じで、マジで散歩気分で銀ダン内を歩けるんだろーよ。


「あ、それならついでにお願いが。俺の知り合いで銀ダン潜ってる奴がいるんですけど、そいつも攻略に行き詰まってるみたいでして。俺と一緒に潜らせてもいいですか?」


「おぅ、良いぞ。何人ついてきても問題ないからな」


 ということで、銀ダンに行く準備をしながら通信を飛ばしてティナ子を呼び出す。


 そして銀ダン前で合流したティナ子とともに、俺は初の銀ダンに突入したのであった。




 ◇◇◇


 銀ダンに入った俺が最初に感じたのは、間違えて生身で入ってしまったのかと思うほどの、強い威圧感(プレッシャー)だった。


 なんだこれ?

 俺、今ちゃんと幻想体だよな??


 俺は確認のためにステータスを開こうとしたが、それより先にヨイチさんとティナ子が、何かをしているのが目に入る。


「すぅーーーっ、ふぅーーーっ。……コォォォーーーッ、……ヌゥン!」


「……保護印の、壱」


 ヨイチさんは、大きく深呼吸をしてから気合いを入れた。


 ティナ子のやつは、両手の指を変な形で組んでごにょごにょと呟く。


 すると、2人の幻想体が、薄い膜のようなもので覆われた。


 ……なんだ、そりゃ?


「これは、印だ」


 ティナ子曰く。


 ティナ子が使ったのは「(イン)」と呼ばれる、幻想力を扱うための技術だそうだ。


 手指の形と組み合わせによる掌印。

 音階とリズムによる音印。


 このどちらかまたは両方を使って、自らの幻想力を自らの望む形に整えるのだとか。


「私が今使っている保護印の壱は、最小限の厚みの保護膜を作り出し、身体を包むものだ。幻想体の強度にはほぼ影響しないが、ダンジョンからの威圧感を打ち消すことができる」


「……銀ダン以上のダンジョンは威圧感が強まるから、それを使えないと話にならないってことか?」


「そのとおりだ。……貴様ぐらい図太い性格をしているなら、もしかしたら使わなくても大丈夫かと思ったが、そうはいかなかったか」


 誰が図太い性格してるって?


 つーかテメーこそ、分かってて黙ってるとはいい根性してやがるな。

 そういうことは先に言えっての。


「何を言う。ダンジョンの外ではこの話はできんだろうが」


「はあっ?」


「印は、聖奉天教会の秘術の一つだ。本来であれば会員でない者の前で使うことは許されていない」


「聖奉天教会って……、あの?」


 教義の厳しさでは並ぶもののない、あの宗教ぐる、……信仰に熱心な信者の多い、アレか?


「その、アレだ。……まぁ、私は両親が入信していた関係で、名前だけ在籍していたわけだが」


 そうなのか?


「ああ。いずれにしても、こうやって人目のないダンジョン内なら使ったり教えたりしても見咎められないが、街中ではどこで誰が見ているか分からんからな。不用意に教えることはできないのだ」


 なるほどな。

 それならまぁ、分かった。


「で、ここでその話をするってことは、俺にも教えてくれるってことでいいのか?」


 するとティナ子はニヤリと笑いやがった。


「もちろん良いぞ。その場で貴様がひざまずいて、どうかこの卑しいヘナチョコにお情けを下さい、と言えばな」


 ……ほーん?


 俺は、ティナ子を無視してヨイチさんに向き直る。


「ヨイチさんのは、そっちのボケが使ってる印ってのとは別の技術なんですか?」


「そうだぜ! オイラのは錬氣って言って、ある程度以上の武芸者ならだいたい皆使えるやつだ」


 なるほど……?


「なんて言えばいいかな。装備品を使うときって、装備品に氣を込めるだろ? あんな感じで、練り上げた氣を幻想体そのものに込めて強化するんだ」


 ふむ……。

 氣を練る、というのはイマイチ感覚がよく分からんが。


 練った氣、つまり幻想力を身体に纏わせて戦うのは、見たことはあるな。


 2年ほど前にこの街にモコウを探しに来ていた、昇竜会のコン師範とかが使っていた。


 つまり、あの時のコン師範ぐらい武芸の練度があれば、使えるようになるわけか。


 ……無理じゃね?

 少なくとも、今すぐには。


 なので俺は、もう一度ティナ子に向き直る。

 それから10秒ほどかけて自分に言い聞かせると、頭の血管がブチ切れそうなほど腹が立つのを我慢してティナ子の前にひざまずいた。


「どうか、この卑しいヘナチョコにお情けをください」


 くそっ、コイツ。

 今度絶対泣かせてやるからな……!


 クソニガ薬膳料理フルコース、絶対騙して食わせてやる……!!


 俺は、目の前の幼馴染のことを内心でめちゃくちゃに罵倒しながら、ニッコリ笑って教えを乞うた。


「……貴様、プライドとか無いのか?」


「……」


 テメーが、やれって、言ったんだろが!!


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