第二部6話目・俺は、伝説に会いに行く
◇◇◇
「ター師父。言われたとおり、ラナの白ダンフルマピしてきたヨ」
その日の夕方。
モコウが俺の部屋に報告に来た。
「おう、お疲れ。どうだった?」
「アイヤー……、ハッキリ言うと、たいへんだたヨ。人の言うことの聞かなさ具合は、ツバサ以上ネ」
だろうな。
ツバサはバカだけど、まだ素直だからな。
人を疑うことを知らない、とまでは言わないが。
深く考えずに俺の話を聞くし、何か指示しても疑問も持たずに従う。
最近はそこそこ頭を使うようになったが、本質的なアイツの素直さは変わっていない。
だからいろんな奴とすぐに仲良くなれるし、俺に言われたことをちゃんと守る(ポカする時も多いけどな)から成長も早い。
それに対してあのポンコツは、根っこのところにお貴族様特有の傲慢さがある。
自分は色んなことを知っているし色んなことができる、と心のどこかで思っている感じがするんだよな。
だから他人から間違いを指摘されたりより良い方法を示されても、まず自分の中の常識に照らして考えるから、それを素直に受け入れられなかったりする。
要するに、面倒臭い奴ってわけだ。
「だが、そんな面倒臭い奴でも、悪い奴ではないだろ?」
「そうネ。あれは単にポンコツなだけヨ。時間をかけて丁寧に教えてあげると理解してくれるし、ター師父みたいにヒネくれてもないネ」
……誰がひねくれ者だって?
「鏡を見たいなら、持ってくるアルヨ?」
「……まぁ良い。その調子で、黒ダンフルマッピングも頼む」
なんなら黒ダンフルマッピング中、もう一回ダンジョン内で生身にしてやってもいいぞ。
泊まり込みで黒ダンに入って、幻想力が枯渇寸前になるまで歩かせてやれよ。
そうすれば、もう少しダンジョン内の危険さが分かると思うんだが。
しかし、モコウは首を振った。
「それは、ちょと難しいかナ。測定してみたけど、ラナの幻想力とんでもないヨ。少なくとも、ユミィの倍以上はあるネ」
なに、そんなにか?
「ヤー。たぶん、ラナより先にワタシたちのほうがPP切れなるヨ」
それなら仕方ないな。
普通に黒ダンフルマッピングしてくれ。
ああ、けど。
やっぱり泊まり込みでもいいかもしれないな。
明日は休んで、明後日からゆっくりめに行って、2泊3日ぐらいで帰ってこい。
「なぜアルカ?」
「あのポンコツ、絶対泊まり込み中にも何かやらかすだろうからな。それなら、絶対に泊まり込みが必要になってくる上の級に行く前に、低級ダンジョンでお試しキャンプしてこい」
余裕がない時にやらかすとリカバリーが大変だからな。
リカバリーできる余裕のあるうちに、一回やらかしをさせとけ。
「なるほどネ」
「あと、探索中は3人のうちの誰か1人がラナの動向を見ていろ」
アイツ、蝶々が飛んでたらフラフラついて行きそうだぞ。
だから絶対に目を離すな。
「いや、ター師父。さすがにラナもそこまでポンコツじゃないと思うヨ……?」
「分からんぞ? というか、現時点のラナに関しては、同じパーティー内にいる落ち着きのない護衛対象だと思っていたほうがいい」
背中を任せるんじゃなく、背中に隠して庇ってやらなきゃダメな奴だ。
「いつぞやの決闘のとき、フレスピークのやつが牽引探索をしてもらっていただろ。あれよりももっと危機感がなくて自分に自信のある奴だからな」
躾のなってない犬コロみたいなもんだよ。
ちゃんと首輪の紐を持ってないと、とっとこ走ってどっか行っちまう。
「まぁ、せっかくできた可愛い妹弟子だろ? ちゃんと面倒見てやれよ」
「ウゥー……、可愛い妹弟子なのは間違いないアルけど、ター師父に押し付けられてる感がありありヨ。どうしてター師父は一緒に来ないアルカ?」
俺は俺で、色々忙しいんだよ。
ポンコツの姉貴分の面倒まで見なきゃならなくなったしな。
「……姉貴分?」
「……おい、なんだその表情は」
何をお前、いっちょまえに「この人、ワタシたちを放っておいて別の女と会ってる……?」みたいな表情してんだよ。
別にそんなんじゃねーよ。
ただちょっと、幼馴染として手を貸してやるだけだ。
「ふぅーン……?」
「それにだ。これはラナのためでもあるし、お前たちのためでもあるんだぞ」
「……どういう意味ネ?」
「俺たちはもう、銅ダンを何度もクリアしたが。まだ銀ダンには一歩も足を踏み入れていないだろ?」
それは何故だと思う?
「答えは簡単だ。俺たちは銀ダンのことを知らなすぎる」
B級ダンジョン「銅の監獄ブロンズプリズン」。通称、銅ダン。
銅ダンまでなら俺もある程度の知識があった(実際にソロで潜ってみたこともあった)し、俺たちの練度とレベルと装備なら問題なく潜れることは分かっていたが。
銀ダンから上のダンジョンは、マジで表面的な知識以上のことを知らん。
B級ダンジョン「銀の要塞シルバーフォートレス」。通称、銀ダン。
B級ダンジョン「金の王城ゴールデンキャッスル」。通称、金ダン。
そして、A級ダンジョン「虹の最果てパラレルレインボー」。通称、虹ダン。
銀ダン以上のダンジョンは、今までのダンジョン探索とはまた違った能力が必要になってくるらしい。
「だから確かめてくる」
「……何をネ?」
「銀ダンというのが、実際にどういうところなのかを、だ」
今も現役で最果ての先を目指してる、バケモノたちと一緒にな。
「だからまぁ、もしかしたらしばらく帰ってこないかもしれん。もし、黒ダンフルマッピングが終わっても俺が帰ってこなかったら、しばらくは白ダンと黒ダンでラナの練度上げをしてやってくれ」
俺がモコウにそう伝えると、何を思ったのかモコウのやつは、俺のベッドにダイブしてうつ伏せになった。
おい、何してる……?
「あーー、今日はワタシもクタクタになたヨ。誰か、優しいお師匠様が労わってくれないかナー?」
と、スラッと長い脚をパタパタさせ(行儀が悪い)ながら、暗に俺に「脚を揉め」と言ってくる。
このバカ弟子め……!?
「おいお前。あんまり調子に乗るんじゃないぞ。俺がなんでもかんでもお前らの言うことを聞くと思ったら大間違いだからな?」
「ふーーん。そうアルカ。じゃあ揉まなくて良いネ。……かわりにワタシが、お疲れ気味のター師父の全身を揉みほぐしてあげるヨ!」
そう言ってピョンと飛び起きたモコウにピョンと飛びつかれ、俺は逃げる間もなくクソ痛マッサージを受けるハメになった。
今度こそ絶対叫ばん、と思ったがやはり無理だった(痛みのあまり死ぬほど悲鳴が出た)し、
途中とちゅうでモコウが、ムギュッと胸(コイツもかなり大きくなった)を押し付けてくるので、俺は逃げるに逃げられなかったのだった。
◇◇◇
久しぶりに全身クソ痛マッサージを受けて身体中が軽くなった。
なので翌日の俺は、予定通り銀ダン潜りの準備をすることにした。
俺はテクテク歩いてとあるパーティーハウスに赴き、呼び鈴を押す。
「セリウス・タキオンです。今日はよろしくお願いします」
出てきた家政婦さんに手土産の黄ダンモナカ(黄ダンの10階層のボスのレアドロップだ。めちゃくちゃ美味い)を渡して応接室に通してもらい、茶を飲みながら待つ。
そしてキッカリ5分後。
「おう。よく来たなター坊」
現役で虹ダンの最先端攻略を進めている伝説級パーティーのうちの一つ、四闘神のリーダーが姿を現した。
俺は椅子から立ち上がり深く頭を下げた。
「ご無理を言ってすみません」
「いいさ。お前には色々教えてもらったからな」
ということで俺は、生きる伝説から話を聞くことにしたのであった。
ここまでゴールデンウィーク連続更新でした。
ここからは書き溜めもなくなってきましたので、数日に一回の頻度で更新できたら良いな、と思います。
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