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第二部4話目・ポンコツ娘は自己紹介でも波乱を起こす


 ◇◇◇


「皆様、お初にお目にかかります! わたくし、ラナと申します! 年齢は17歳! 本日からセリウス様に弟子入りいたしました! 以後お見知りおきを!!」


 と、晩飯で皆が揃っているタイミングで、仮弟子ポンコツ娘のラナに自己紹介をさせた。


 相変わらずバカデカい声だったので姉貴は嫌そうにしたが、モルモさんは給仕をしながら静かに頭を下げる。


 そして3弟子たちは、


「ラナちゃんね! よろしく!」


「またタキ兄ぃは……、まぁ、よろしく」


「オォー、とうとうワタシにも、妹弟子ができたネ」


 と、三者三様の反応だった。


 人見知りのユミィが少しばかり嫌そうな顔をしていたが、すぐに切り替えてあいさつをしたのでそこまで嫌がっているわけでもないだろう。


 それからシオンさんが「よろしくね、ラナちゃん」と慈愛の女神のような笑みを浮かべて言った。


「少し個人的な事情があって、しばらくラナの面倒を見ることになった。ひとまずは仮弟子として扱って、探索者のイロハのイから教えていく」


「ガッテン承知ですわ!」


「……成長具合を見てみて、今後正式に弟子にするかどうかを決める。ラナ、しばらくの間は来客用の部屋で寝泊まりしてくれ」


「分かりましたわ!」


 うん。ラナも返事は良いんだよな、返事は。

 返事が良すぎて、ちゃんと聞いているのか逆に不安になる。


「はーい、ラナちゃん! 質問良いかな!」


「バッチ来いですわ!」


「ラナちゃんって、どうして探索者になろうと思ったの?」


 コイツはまた、そういうことをズケズケと……!


「それは、お姉様に憧れてですわ〜!」


「お姉様? ラナちゃんのお姉さんも探索者なんだ!」


「はいですわ! ティナお姉様といいまして、それはもう、とっても優秀な探索者様なんですの!」


「へぇー! すごーい!」


 幸い、と言っていいのかは分からんが。

 バカとポンコツで波長が合うのか、2人して楽しそうにおしゃべりを続ける。


 そしてお互いに地雷ガマへの恨み言が出たあたりで、手を取り合ってはしゃぎ合う。


「そっか! ラナちゃんもガマの自爆で吹っ飛んだんだ! あれ、びっくりするよね〜!」


「ツバサ様も、その後ヌルヌルになってるところをセリウス様に助けていただいたのですね! なんという奇遇!」


「ほんとだね! あ、あと、様付けなんてビックリしちゃうからやめてよ!」


「それでは、なんとお呼びすれば?」


「同い歳なんだから、呼び捨てでいいよ! あたしもラナちゃんって呼ぶし!」


「で、では……。ツ……、ツバサさん?」


 ラナが照れたように、ツバサの名をさん付けで呼ぶ。


 ツバサが「うん!」と返事をすると、さらに恥ずかしそうにして、手をモジモジさせ始めた。


「じゃあ、ボクのこともユミィって呼んでよ。ボクはラナより歳上だけど、様付けは恥ずかしいから」


「ワタシのこともモコウでいいアルヨ、ラナ。ワタシ、妹弟子ができたらたくさん可愛がる決めてたネ」


「ユミィさん、モコウさん……!」


 そうして弟子たちがキャッキャと仲良くし始めたので、俺はとりあえずラナも席に着かせて、配膳の終わった晩飯を皆で一緒に食べ始めた。


「まぁ! とっても美味しいですわ! このお料理はどなたがお作りに!?」


 と、ラナが目を輝かせて問うと、ドヤ感を出したニコニコ笑顔のモルモさんが、スッと手を挙げた。


「素晴らしい腕前ですわ! わたくしの家のコック長にも負けていませんわ〜! パクッ、もぐもぐ!」


 肉団子を頬張りながら褒めるラナに、モルモさんも「お褒めに預かり光栄です」と返す。


「……コック長?」


 と、ユミィが首を傾げたが、俺が耳を縫う仕草(聞かなかったことにしてくれ、の意)をしてやると、黙って頷いて食べるのに戻った。


 ふぅ。やっぱりこのポンコツ、口が軽いな。


 自己紹介の前に、()()を晒すようなことを無闇に言うなよ、と念押ししておいたが、すぐにこうやってボロが出そうになる。


 そう、正体だ。


 このポンコツの弟子入りが決まったときにステータスを見せてもらったのだが、名前の表記が「セントラーナ・ベルメントス」となっていた。


 ベルメントス家。


 このアカシアの街や、俺の実家のある町など、このあたり一帯を丸ごと統治する()()()()の家の名前だ。


 つまりこのポンコツ娘は、お貴族様ん(トコ)のお嬢様というわけだ。


 だから、バカっぽいわりにモノは知ってるし、なんかチグハグだが丁寧な言葉遣いができるし、要点だけは押さえた礼儀作法を扱えるわけだ。


 ぶっちゃけ言うと、マジで面倒臭い。

 またユミィのときみたいに捜索隊が来て一悶着あるんじゃないかと、内心ヒヤヒヤしている。


 だから俺はティナ子のやつに「ラナの実家に話は通しておけよ?」と念押ししたのだが、それがどこまで通じるのかは分からん。


 なのでいざという時はティナ子に唆されたことにして、責任をなすりつけてやろうかとは思っている。


 というか、それを考えるとティナ子のやつも、なんでこのポンコツお嬢様の姉貴分になってるのかとか色々疑問はあるのだが、


 とりあえず今は、気にしないことにする。


 一度にたくさんワッと情報を流し込まれても、対応に困るからな。


 まぁ、弟子たちを見るに、ツバサはいつものごとくすぐに仲良くなったし、ユミィはなんとなく事情を察したようで色々考えているようだし、モコウは初めてできた妹弟子に喜んでいるようだしで、弟子同士で仲良くはやってくれそうだ。


 これなら明日以降のラナの白ダン黒ダンのフルマッピングについては、3弟子たちに任せてもいいかもしれない。


 希望の星(ドリームスター)としての活動にラナを同行させる形にして、リーダーユミィ指揮の元で頑張ってもらおうか。


 その間に俺は、今後に備えてちょっと色々調べ物をしておこう。

 念の為に、な。


 とかなんとか考えていると、食事が終わってデザートになった。

 俺は、ツバサが作ったらしいプリンを食べて(美味しかった)から、モルモさんの淹れてくれたコーヒーを飲む。


 うん。美味しい。


「そういえば、セリウス様にお聞きしたいのですが」


「なんだ?」


「この中のどなた様が、奥方様になられるのですか?」


「ぶっ、」


 俺はコーヒーを吹き出した。

 そのコーヒーがかかった姉貴が「ぎゃあっ!? 熱っっづ!?」と飛び上がった。


「ごほっ、ごほっ! ……お前は、何を言ってるんだ??」


「いえ、だって。このような大きなお屋敷に住まわれているということは、セリウス様も探索者として成功なさっているのですよね? であれば当然、将来を誓い合った御方とご結婚なさっているものかと……」


「……お前なぁ」


 俺は、分かりやすく大きくため息をついてみせた。


「良いか。これはパーティーハウスと呼ばれる建物だ。この街である程度以上に活躍している探索者パーティーなら、パーティーメンバーと一緒にこういう家に住んでいるんだ」


 だから別に、一般的な意味での成功の証として家を買ったわけでも、安定のために所帯を持っているわけでもない。


 俺はまだまだ、探索者としてやることがあるからな。

 色恋沙汰にうつつを抜かしているヒマはない。


「ですが、これだけ多くの異性を囲ってらっしゃるのであれは、この中のお一人や二人、良い仲になっているものでは?? 何もないというのであれば、逆に理由が知りたいぐらいですが…….?」


 ……ケンカ売ってんのか、このポンコツ娘は。


「……ねぇ、ラナちゃん。ラナちゃんから見て、タッキーってどんな人?」


「タッキー……? ああ、セリウス様のことですか? それはもちろん、素晴らしい御方だと思いますわ! ダンジョン内でピンチになっていた見ず知らずのわたくしを颯爽と助けてくださいましたし、物言いは少しぶっきらぼうなところもありますが思慮深さと優しさが垣間見えますし、……なにより!」


 と、ポンコツ娘がいきなり立ち上がった。

 そしてズンズンと俺のところに寄ってきた。


 な、なんだよ。


「……お顔が、よろしいですわ」


 ……はぁっ?


「わたくし実は、面食いでして。……セリウス様のお顔は、ドタイプなんですわ!」


 きゃー、言っちゃいましたわ!


 と、このクソボケポンコツ娘は赤らめた頬に両手を当てて嬌声をあげた。


「いやほんと、わたくしはもうここで果てる運命なのかと覚悟したところに、まるで白馬に乗った王子様のように現れて颯爽と助け出されて……、しかもそれがドタイプのお顔の素敵な男性だったとあっては、惚れないほうがどうかしていますわ!!」


 3弟子たちが、ひどく動揺したように身じろぎした。

 あまりに明け透けな発言に、シオンさんが恥ずかしがって俯いてしまっている。


「……おい」


「あ、もちろん! わたくしとしましては、この淡い恋心は誰にも知らせずにそっと胸の内にしまいこんでおこうと思っていたのですが! しかしなにやらセリウス様は未だフリーのご様子。ならばわたくしも、ワンチャンあるなら狙いたいと思いまして!!」


 ねーよ。

 ワンチャンもネコチャンも無い。


 だがこのポンコツ娘は何を思ったのか、あまりのクソボケ発言に頭の痛くなってきた俺の手をそっと取ると、


 そのまま両手で握り締めて(今回は、優しく包まれて痛くなかった)、自身の胸元に引き寄せた。


 俺の手が、むにゅんとした感触に包まれた。


「……おい!?」


 感触の意味を理解した瞬間、俺は全力で手を引いた。


「あ、すみません。つい我慢できなくて」


 つい、じゃねーよ!

 お前、ナチュラルに色仕掛けしてくるんじゃねーよ!?


 やめろよ!

 お前もわりとストライクゾーン入ってるんだからよ!!


 ちょっとでも反応しちゃったような姿見せたら、馬鹿弟子どもにまで波及するだろーが!!


「……ふーん。そんな感じなんだ」


「意外とちゃんと反応するんだね」


「それなら今後もガンガン行くネ」


 ほら見ろ!

 バカたちがなんか理解したような顔してるじゃねーか!!


 くそっ、こんなクソボケばかりの部屋にいられるか!

 俺は自室に帰らせてもらうぞ!!


 俺は内心で捨て台詞を吐き、他の皆を残して自室に戻ってカギをかけてベッドに入った。


 そして手に残る感触に悶々としながら夜を過ごしたのだった。


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