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第二部3話目・ポンコツ娘を仮弟子にする


「実はわたくし憧れの探索者様がおりまして。その方のようになりたくて、はるばるこの町にやって来ましたの!」


 風呂上がりで顔を火照らせるラナ(生身で泥だらけだったので、家の風呂に入らせて服を貸してやったのだ)が、俺に言う。


「憧れの探索者?」


「わたくしのお姉様、ティナ姉様のことですわ!」


 ラナは、それはもうキラキラとした目をしている。


「ティナ姉様から、何度もお手紙で教えていただきました。迷宮攻略というものの複雑さや面白さ、探索者というものの素晴らしさを! そして、探索者として第一線で活躍するティナ姉様のお話をお手紙で読むにつれ、わたくしも探索者として頑張ってみたいという気持ちがムクムクと湧いてきましたの!!」


 どうやらティナのやつは、ラナにずいぶんと慕われているようだ。

 そして慕われすぎているせいで、この娘はここまで来てしまったらしい。


 なるほどな……。


「なぁ、ところで。そのお姉様とやらからの手紙には、初心者講習のこととかは書いてなかったのか?」


「……しょしんしゃこうしゅう?」


 キョトンと首を傾げる。


 その仕草がツバサに似ていて、俺は「悪気のないバカってやることも似るんだな」と思った。


「新人探索者向けにやってる無料講習で、これを受けると新人が知っとくべきことをだいたい教えてくれるってやつなんだが」


「……ああ! 退屈なお話を聞くと装備品代を貸してくれるという、あれですか! ふふふ、イヤですわ。あんなもの受けなくても、お金ならありますもの」


 ……そうか。


 ティナが講習を受けたときはまだ旧体制のころだったからな。


 その頃の話しか知らなくてカネ持ってるやつからすれば、受ける価値のない講習だと思われてるのか。


 うぅむ……、周知徹底が足りてないな。


 しかし、どういう話をしてくれるかの説明もするはずだが、……エリーゼさんの愚痴を聞くに、たぶんコイツは話を聞かずに協会を飛び出したな。


 つまり、やっぱりコイツは人の話を聞かないタイプということだ。


 ……俺が一番苦手なタイプじゃねぇか!


 くそっ、ティナ子のやつめ……!


 こんなポンコツのことを気にかけろとか俺に言ってきてたのか……!?


「……これでも俺は、この街で7年ほど探索者をしているんだが。最近の初心者講習は、ちゃんとタメになる内容を教えてくれてるんだぞ」


「まぁ、そうなのですか?」


「ああ。だから、悪いことは言わないからもう一度協会に行って、講習を受け直してきたほうがいい」


 地雷ガマの初見殺しに引っかかるような奴は、この先も絶対何かしらのトラップに引っかかる。


 だから、心構えのところからきちんと学び直す必要があるわけだ。


 だというのに。


「いえいえそんな、ご心配には及びませんわ! わたくしこれでも、一人で白ダンをクリアできましたの! いまさら初心者のためのお話など聞かなくても大丈夫ですわ!」


 と、このラナとかいうポンコツ娘は、俺の話を一笑に付した。

 しかも、


「それよりも、もっとたくさんダンジョンに潜ってレベルを上げようと思います! たくさん潜ってたくさんエネミーを倒して、あの爆発にも負けないぐらいもっと強くなろうと思いますわ!」


 と、完全にまたやらかすであろうことを言っている。


 そこから俺が、何度かやんわり忠告をしてみたのだが、いずれものれんに腕押し、馬の耳に念仏状態だ。


 ……コイツ、面倒くせぇな!


 嫌味とか悪意抜きで、ナチュラルにダメなほうの選択肢を選ぶタイプだ!


 俺は、内心でめちゃくちゃにティナ子のことを罵倒してから、考えた。


 それから、このポンコツ娘の姉貴分(ティナ)に通信をする。


『おい、お前の妹分が今俺の目の前にいるんだが、あまりにもポンコツだから叩いて治していいか?』


 返信は、すぐに来た。


『……そんなことで治るなら、私も苦労はしてない』


 ……そうかよ。


『じゃあもう、うまいこと言いくるめて俺に弟子入りさせるぞ。そんで、このポンコツにイチから探索者のイロハを叩き込む』


 じゃねぇとコイツ、今後も絶対俺の話を聞かないだろうし、俺の話を聞いてくれないと、この先また絶対すぐ近いうちにヤバいことをやらかす。


 そんなの火を見るより明らかだから、なんとしてもこの場でコイツに首輪をつけないとダメだ。


『……正直言うと、願ったり叶ったりだ。貴様になら、ラナを任せてもいいと思っていたからな』


『おい、上から目線で言ってんじゃねーよ。今後の面倒臭さを考えたら、これはお前への貸しだからな。それだけは、忘れんなよ?』


『……分かった』


 俺は通信を終え、あらためてこのポンコツ娘に向き合う。


 そして、超社交辞令モードの笑顔を浮かべた。


「ところでラナは、今後も探索者として活動を続けるんだよな?」


「はい! もちろんですわ! わたくしも早く最前線で攻略しているティナ姉様に追いついて虹ダンに潜り、そしてクリアしてやりたいんですの!」


 ……虹ダン、ね。


「それなら、この街の探索者の流儀として、先輩探索者への弟子入り制度というものがある。これは、上を目指す新人を先輩が鍛えてやって、早く一人前になれるようにしてやる制度だ」


「まぁ、そんな決まりが!」


「そして俺は、探索者でありながら協会員としての立場もあり、新人にあれこれ教えてやるのは得意中の得意だ」


 ほんとは、得意かどうかはさておき、バカにモノを教えるのは疲れるから嫌なんだが、


 コイツは放っておくほうが面倒臭いだろうから、目の届くところに繋いでおいて、もう少しまともに活動できるようにする。


 ティナ子のやつに「なんでラナを見捨てた」とか「お前はやはり人の心がない鬼畜だな」とか言われるのもシャクだしな。


「そこでどうだろう。こうして助けてやったのも何かの縁だ。ラナさえ良ければ、しばらくお前を俺の弟子として面倒をみてやってもいい」


「マジですの!?」


「マジマジ。……どうする?」


 ラナは、なにやらぶるぶると全身を震わせたかと思うと、


「ーー〜〜っ、いやっほい!! やりしたわ!!!」


 と、耳がバカになりそうな大声で叫びやがった。


 うるせぇ!?


「ありがとうございますセリウス様! わたくし、爆裂感激ですわ!」


「お、おう」


「ぜひともお願いいたします! わたくし、セリウス様の弟子になりますわ〜〜!!」


 そう言って手を差し出してきたので、握手(このポンコツめっっちゃ握力が強くて、俺の手を握り潰されそうだった)をしてやる。


「よし。ひとまず今日からしばらくは、お前は俺の仮弟子だ! 師匠の俺の言うことをよく聞いて、きちんと従って、ちゃんと強くなれ!」


「了解ですわ!!!」


 ということで、俺に新しい弟子が増えた。


 あんまり気は乗らないが、幼馴染への義理を果たすのと、このポンコツが他の探索者に迷惑をかけないように、微力を尽くそうと思う。




 ちなみに。


「おい、さっきからうるさいぞ! バカみたいに叫んでるのは誰だ!?」


 と、自室で寝ていた俺の姉が、ポンコツ娘のデカい声に堪りかねて起きてきた。


「珍しいな姉貴。まだ昼過ぎだぞ」


「誰かさんがさっきからうるさくてねェ!? ……まったく、こんなに騒がれたらおちおち寝てられないじゃあないか」


 俺は、ラナの声なら姉貴も目を覚ますことが分かり、今後は毎朝ラナに姉貴を起こしてもらおうかな、と思ったのだった。


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