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第二部2話目・幼馴染とは遠慮なく言い合える仲


 俺が待ち合わせ場所の喫茶店に行くと、偉そうな態度でコーヒーを飲んでいる女がいた。


 こいつの名前はティナ。

 一応俺の幼馴染になる女だ。


 もっとも、本当に幼い頃からの付き合いというわけではなく、俺が10歳ぐらいの時に俺の生まれた町にやってきた。


 当時から常に偉そうで、尊大で、俺のことを貴様とか呼んだりするやつだが、バカではないのでなんだかんだ付き合いが続いている仲だ。


 俺がその幼馴染に声をかけると、ティナは時計を確認してから嫌味ったらしく言う。


「ふん。相変わらずピッタリ5分前に来る奴だな」


 まぁな。

 早すぎても遅すぎても迷惑になるからな。


「ちなみに私は15分ほど前から待っている。この意味が分かるか?」


 もちろん、分かってるよ。


「お前が相変わらず時間調整が下手くそだってことだろ」


 だから待ち合わせに遅れないか不安になって、早めに来てるわけだ。


「違う! それだけ貴様にする話が重要だということだ!」


「はいはい。そうですか」


 俺は席に着きながらブラックコーヒーを注文し、どうせ無理してブラックで飲んでいるであろう幼馴染のカップに角砂糖を2個放り込んだ。


 スプーンでくるくるかき混ぜてやると、幼馴染は「勝手なことを! ……だが、残すのも勿体無いから仕方なく飲んでやろう」とか言いながら甘くなったコーヒーを飲み、少しだけ頬を緩める。


 そんで?

 何があったんだ?


「……うむ。実はな」


 ティナの話を聞くに、どうやらティナには血のつながらない妹分がいる(初耳だ)らしい。


 そしてその妹分はたいそう元気が有り余っているようで。


 探索者をしている姉貴分(ティナ)に憧れて探索者をしたいと言っていて、通っている学校を辞めようとしているのだとか。


 ほうほう、それはたいへんだな。

 それで、俺にどうしてほしいんだ?


「知恵を借りたい。どうすればあの子の自主退学を翻意させられるだろうか」


「そんなもん決まってるだろ。お前がその妹分のところに行ってやって、直接話してやればいいんだよ」


 探索者なんて学校辞めてまでなるもんじゃねーぞ、ってな。

 お前の実感がこもった話をその子にしてやればいい。


「お前がその子からちゃんと姉貴分として慕われているなら、お前の言葉がよく効くはずだろ」


「そう言ってやりたいのはやまやまだが、あいにく私は探索で忙しくてな。他に何か案はないか」


「案っつってもなぁ……」


 両親からの説得とか、先生や学友からの説得とか、そういう普通の方法はもう試してて、それでもどうにもならないから苦肉の策で俺に相談してるわけだろ。


 だったらもう、お前が行かなきゃ無理だろ。


「簡単に言ってくれるなよ。私が普段からどれほどの気持ちで日々の探索をしていると思っているんだ」


「簡単になんて言ってねーよ。それに、そこまでしてでも止めたいかどうかって聞いてんだよ」


 お前の探索にかける熱意は俺も知ってる。


 で、それと天秤にかけてもそっちに傾くんなら良いが、そうじゃないぐらいの熱意なら、どうせ行かせても無駄だろうからな。


「……私のことを試したのか?」


「けしかけたんだよ。お前の本気度を知りたかったからな。で、そこまでのことじゃないみたいだから、じゃあもう仕方ないだろ」


 お前は「可愛い妹分の将来のために」ってことでは、自分を曲げられないわけだ。


 だったらお前の妹分も、そんじょそこらの説得には耳を貸さないだろ。


「お前みたいなクソ面倒臭い女の妹分になるような奴だろ。絶対クソ面倒臭いに決まってる」


「おい。私とラナをまとめて罵倒するとは良い度胸だな。このスカポンタンが」


 うるせー。

 突然人のこと呼びつけておいて、しょーもないことを相談してきやがって。


「俺は一応お前の幼馴染ではあるが、召使いではないからな? 立場ってのはきちんと自覚しといたほうがいいぞ?」


「それはこちらのセリフだ。貴様は私に跪いて、はいかイエスで返事をすべき立場だろう」


「んな立場、ねーよ」


 その後も俺はこの女としばらくダラダラ言い合いを続けたが、


 らちが明かないので、最後は俺が折れた。


「わぁーった、わぁーったよ。その妹分とやらをこの街でみかけたら、それとなーく気にかけてやれば良いんだろ?」


 それぐらいなら、初心者講習のついででできる。


「お前の妹分ってことは、それなりに話はできるんだろ? だったらこの街に来て探索者登録をしたときに講習の説明を聞けば、必ず講習を受けるはずだ」


 今日から一月ぐらいは、講習の日程を調整してなるべく俺も講習に同行するようにするよ。

 それでいいだろ?


「うむ。最初からそう言っていれば、すぐにこの話は済んだのだ」


「たくよー……。んで、その妹分とやらの、名前と見た目の特徴は?」


「名前はセントラーナ。愛称はラナだ。金髪に青い眼で、常に元気ハツラツとしている」


「ふーん。じゃあ本当に血は繋がってないんだな」


 俺は銀髪緑眼の幼馴染を見て、そう言った。


「ああ。……あと、ラナには一つ伝えていないことがあってな」


「なんだよ」


「それは言えない。だが、それをきちんとラナに伝えるまでは、私はラナに会わない」


 なんだそりゃ。

 まぁ、いいけどよ。


「あと、私の名前を出すときはメイベルのほうで呼べ」


「メイベルぅ? ……ティナ子じゃくてか?」


「絶対に、その名前をラナの前でだすなよ、セリ男」


 誰がセリ男だ、誰が!

 その間の抜けた名前で呼ぶんじゃねーっつってんだろ!!


「じゃあ、私のこともティナ子などどいうババ臭い呼び方をするな。次、その呼び方をしたら、貴様のその邪魔くさい髪を刈り上げて丸坊主にしてやるからな」


 髪はやめろよ!!

 俺の親父がどういう髪型になってるか、お前も知ってるだろーが!!


「ふん。大事なのは長さでなく、太さと固さ、そして濃さと量だろうに」


 やかましい。

 ……あとお前、今の発言はギリアウトだからな?


「? なんのことだ?」


 俺は、分かってなさそうな幼馴染に「なんでもねーよ」と言って話を切り上げた。


 そしてその日からしばらく、講習に来る新人たちの中にティナ子の妹分がいないか探しながら講習に同行した。




 ……だと言うのに。


「危ないところをお助けいただき、感謝感激ブチ上がりですわ! わたくし、ラナと申しますの。貴方のお名前をお聞きしても?」


 サラサラストレートロングの金髪に、くりくりと大きな青眼。


 今までよほど良いものを食ってきたのか、しっかりと上背があって肉付きの良い体。


 丁寧なのか豪快なのか分からん言葉遣いに、元気で裏表のなさそうな大きな声。


 そして名乗ったラナという名前。


 全ての事実が、ひとつの真実を指し示していた。


「……コイツが、か?」


「うひょー! それにしてもわたくし、バカヅキでしたわね! まさかまさかあのような危機一髪の場面で、さながら物語の王子様のような御方が颯爽と現れて、命を救っていただけるなんて!!」


 感謝感激ですわ〜、と、間抜けな笑みを浮かべてぴょこぴょこ動いているこの娘。


 なぜか、いつぞやのバカとまったく同じ行動をして同じ結末になっていたバカを助けたら、


 なんと、先日話した幼馴染の妹分だということが判明した。


 コイツ、講習も受けずにのこのこダンジョンに潜っていたのか……!?


 そしてそれで死にかけていたのか!?


「……ヤベェ」


「? 八兵衛(やべぇ)様と仰るのですか? ずいぶんとハイセンスなお名前ですわね?」


 ……ちげーよ、バカ!


「俺は、セリウス・タキオンだ!」


 俺は、幼馴染とは似ても似つかないボケっぷりを見せるこの少女に、なんだか果てしなく嫌な予感がしたのだった。


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