外伝・とある少女は夢を見る
私がいつも夢に見るのは、幼き日の私の罪についてだ。
我が家に代々伝わる秘宝。
決して立ち入らぬように、父から厳しく言いつけられていた宝物庫の中で見つけたそれは、
古アルブ族の錬金王が創り出したとされる、華美な装飾の施された小箱だった。
言い伝えでは、小箱の中には美しい箱庭が作られていて、
その箱庭は、見るものを魅了してやまない美しさなのだとか。
だから、それを奪い合うために古来から多くの血が流されてきたということで、
もう決して誰も小箱を開かぬようにと、保管というよりは封印の意味を込めて、我が家の宝物庫に納められていたのだ。
私は、その小箱を、開いてしまった。
その結果がどうなるのかを、考えることもせず。
そうして、私たちの町は箱庭に飲み込まれた。
箱庭から新しく飛び出してきたのは、私たちの街を模したまがいものの街並みで、
まがいものの町のあちこちに、不思議な門が現れていた。
私は、幼い妹分とともに、まがいものの町から逃げ出すことしかできず、
それからしばらく町に帰ることはできず、その日以来、父に会うことはできなかった。
私たちの町は、私のいない間にどんどんと大きくなり、近隣の町すら飲み込んでいき、
しばらくして、門の奥を調べる探索者と呼ばれる者たちが現れるようになった。
探索者たちは、しだいに多くの利益を得て地上に戻ってくるようになったが、
いつまでたっても、私たちの町が元の町に戻ることはなかった。
だから私は、今日もダンジョンに潜る。
私の罪は、私自身の行動で贖うしかない。
私は、必ず私の手で、虹の最果てにたどり着く。
そしてこのアカシアの町を、私が元の町に戻すのだ。
「朝、か」
そうして私は目を覚ました。
さぁ、今日も探索だ。
償いのために、私は今日も探索をする。
A級ダンジョン「虹の最果てパラレルレインボー」。
これをクリアすることが、今の私の全てだ。
クリアさえすれば。
私はまた、あの子に誇れる姉に戻れる。
そうでなければ。
私はきっと、もう二度と誰にも顔向けできないまま、日陰を生き続けることになるだろう。
「……ラナは、ちゃんと学校に行っているかな」
私は、元気な妹分の健やかな成長を祈りながら、探索着に着替え始めたのだった。