外伝・お嬢様は立ち向かう・2
◇◇◇
白ダン潜りを始めて数日がたちました。
私、だんだんダンジョン内でのお作法というものが分かってきた気がします!
まず、ダンジョン内で大きな声を出すのはダメなようですね。
探索開始初日に気合い入れで雌叫び(雄叫びって言葉、なんか男臭いじゃないですか)をしたところ、
近くにいたらしいエネミーたちがワラワラと集まってきて袋叩きに遭いまして、
慌てて入口門まで逃げ込んで、ゲット・ザ・コトナキ(事なきを得る)しましたの。
いやぁ、あの時は肝が冷えましたわ。
で、あらためてダンジョン入りして静かに歩いてみると、多くのエネミーはある程度の距離まで近づくか、大きな音を出したりしなければこちらに気づかず、向こうから寄ってきたりはしないと分かりました。
なので私は、礼儀作法の授業で習ったことと武芸の時間に習ったことを足し合わせて、なるべく静かに歩ける歩法で普段から歩くことにしてみました。
おかげで、ダンジョン内での戦闘回数を大きく減らすことができました。
私の目的はあくまでもダンジョン探索を進めて虹ダンをクリアすることですから。
余計な戦闘を減らせるなら、それに越したことはありませんもの。
さてさて、そんなこんなで白ダン内を少しずつ歩き進め、たまに出てくる厄介者たちを順番に倒しつつ、とうとう大きな扉の前にやって来ました。
「これがボス部屋……!」
ごくり……!
私は深呼吸を一つして、身についた装備品をチェックし、最後にステータス画面を開いてみました。
そこには、このように書かれています。
・━・━・━・━・
【名前 セントラーナ・ベルメントス】
【性別 女】
【年齢 17歳】
【消耗度】
HP・80.59/100%
PP・98.22/100%
【ステータス値】
レベル9
知力・G
心力・E
速力・E
技力・F+
筋力・D+
体力・D-
【装備品枠・15/20】
『マップ(1)』
『レーダーC(1)』
『通信装置(1)』
『ヘルメット(1)』
『チェストレザーアーマー(1)』
『ミドルクラブ(2)』
『ショートボウ(1)』
『バンドシールド(2)』
『フレキシブルシールド(3)』
『ナイフ(1)』
『ショートニードル(1)』
【所持品枠・5/20】
『下級修復剤(1)』×3
『ツノイタチの角の欠片』
『跳ねざるの足のバネ』
・━・━・━・━・
PPはまだまだ余裕があります。
HPも回復するほどではありませんね。
装備品にも不具合はなし。
よし、行きましょう。
「突撃ですわ!」
私はボス部屋の扉を蹴り開けつつ、ショートボウの矢を放って先制攻撃をしました。
って。
「バ、バチクソ巨大いですわ……!?」
白ダンのボスは「暴れ兎」という名前だとお聞きしていましたので、てっきりシカさんやイノシシさんぐらいのサイズだと思っていましたが、
これはクマさんと同じぐらいジャンボです!
こんなの名前詐欺ですわ!!
私は、のしのし歩いてくる暴れ兎にもう一発矢を放ち(全然効いてる感じはありません)、大きく振り上げた腕の振り下ろしをぴょんと下がって避けました。
長く鋭い爪が、地面を大きくえぐりました。
ほ、ほんとにクマさんぐらいパワフル!
「……ええ〜い! 負けませんわよ!」
私は、気合い入れで叫ぶ(ここは他のエネミーは出ませんので、叫んでも大丈夫なのです)と、さらに爪で攻撃してこようとする暴れ兎の脳天めがけて、思いっきりクラブを叩きつけました。
ゴキャッと鈍い音がして、暴れ兎がひるみました。
「シャオラァッ!!」
私はさらにもう一発、すくい上げるようにクラブでアゴをブッ叩くと、虫を払うように振ってきた暴れ兎の腕をバンドシールドで受け止めます。
ズシンと左腕に衝撃がきました。
ですが、どうやら私の幻想体は元の私よりもパワフルなようです。
しっかり踏ん張ると受け止めることができて、さらに真正面からクラブで殴って脳天カチ割ってやりました。
暴れ兎はもう、ヘロヘロに見えます。
これは、好機!
「うおおおぉぉーーーっ!! 命取ったりますわ!!」
ドガンッ、とトドメの一撃を叩き込むと、暴れ兎は倒れ、光の泡になって消えていきました。
そして暴れ兎がいたところには大きなお肉の塊が落ちていて、部屋の中に光の輪が現れました。
「や、やりました! 勝ちましたわ〜〜!!」
私はその場でバンザイをして自身の健闘を讃えると、お肉を回収して白ダンを出ました。
ふふふ、やりました。
ダンジョン初クリアです!
嬉しい!
やっほい!
「この調子なら、次のダンジョンもガンガン行けそうですわ!」
私は理解しました。
エネミーは殴られる前に殴り、殴られながらも殴り、殴ってひるんだところをめった打ちにすれば勝てるのです。
弓矢での牽制とかのしゃらくさいことは、もっと難しいダンジョンになってから効果が出始めることなのでしょう。
「姉様のスタイルを踏襲しつつ、わたくしはわたくしの強みを磨かなくてならないということですね!」
どんなエネミーも、ばったばったと薙ぎ倒してやりますわ!
「わたくし、やりますわよ〜〜!!」
こうして私は、生まれて初めての白ダンクリアを成し遂げたのでした。
その後の私はゲットしたお肉を焼いてもらえるお店で「暴れ兎の肉」を焼いてもらい、お肉をパクパク食べて帰って寝ました。
すやぁ。