表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/119

外伝・家政婦は見た!


 私、モルモッティーアが、本日帰還予定の完全踏破隊(フルマッパーズ)の皆さんのための晩ご飯を作って待っていると、想定時刻から少し遅れて玄関扉が開きました。


「ただいまー! つかれたー!!」


「おかえりなさい、ツバサさん」


「モルモさんただいまー!!」


 ツバサさんが、私に駆け寄ってきて抱きついてきました。

 そのまま私のお腹に顔を埋めて、しばらく動きません。


 よほど疲れたのでしょう。

 なにせ一月ほど前から、灰ダンのフルマッピングクリアを目指して何度も連泊探索をしていますので。


「今回も死ぬかと思った……」


「もうヘトヘトヨー。モルモさん、今日の晩ご飯なにネ?」


「今日はハンバーグとマッシュポテトとマリネサラダにポトフスープですよ」


「ハンバーグ! やったあ!」


 と、ハンバーグと聞いたツバサさんが元気を取り戻しました。


 そして3人で食堂へ駆け出したので、私は「皆さん、手洗いうがいをお忘れなく」とお伝えします。


 それから、


「ただいま戻りました、モルモさん」


「はい、お帰りなさいませ、セリーさん」


 私は、今の私の雇い主に向けて、恭しく頭を下げます。


「今回は、どうでしたか?」


「……今回も、うまくいきませんでした」


 少しばかり憮然とした様子でセリーさんが答えます。

 その様子がステラさんに似ていたので、私は思わず「ふふっ」と笑ってしまいました。


「……今回は、ルート選びも想定通りでしたし、たいしたアクシデントもなかったですし、3弟子たちのやる気も高かったので、うまくいくと思ったんですが……」


「それでも上手くいかなかったのですね。けれどもまぁ、そういうこともありますよ。次はもっと、精度を高めていきましょう」


 私が、検証が上手くいかなかったときのステラさんの口癖を声真似して言ってみると、セリーさんがなんだか驚いたような表情をしました。


 おや、珍しい反応。


「……姉貴のその口癖、昔からよく言っていました」


「そうなのですね」


「はい。……ふぅ、そうですね。ルートを再検討して、また今度挑み直します。今日はひとまず、ご飯を食べてゆっくり休みます」


「分かりました。さぁ、セリーさんも手洗いうがいをしてこちらへ」


 私がセリーさんを食堂まで連れて行くと、ツバサさんたちが待ちかねたようにしています。


「タッキー遅いよ! ほら、早く早く!」


「こっちはお腹ペコペコなんだぞ。いつまで待たせるのさ」


「オォー、アツアツ美味しいがなくなっちゃうヨ。ター師父、早く席に着くネ」


 セリーさんがテーブルに着いたところで、4人揃って「いただきます!」です。

 皆さん、美味しい美味しいと言いながら、残さず食べてくれました。


 ふふふ、嬉しい。


 それから私は、自室に篭って検証に没頭しているステラさんにご飯を食べさせ、三徹目に入ろうとするのを無理矢理着替えさせて無理矢理ベッドに入れて子守唄を歌って寝かしつけました。


 そして食卓の片付けと食器洗い、お風呂場の清掃と後片付け、ハウス内の消灯を終えた私も、本日は自室で就寝いたしました。


 すやすや。




 翌日。

 私はいつものように朝5時に起床し、朝食の準備と昼晩のご飯の仕込みに取り掛かります。


 このパーティーハウスはわりと設備が整っていますので、パン焼窯とか炊飯釜とかもありますし、冷蔵庫に冷凍庫、大きめのオーブンとかもあります。


 食材も中央市場から豊富に仕入れることができますし、要するに、なんでも作りたい放題ですね。


 さて、私が一通りの仕込みを終えてひと段落したところで、


「おはようございます、モルモさん」


 いつも早起きのセリーさんが、この日もいつもと同じ時間に起き出してきました。


「少し、庭で鍛錬をしてきますので、朝食の時間になったら呼んでいただけますか」


 そう言って庭に出ていくセリーさん。


 私は厨房内を見回して、少し目を離しても大丈夫なことを確認してから、セリーさんに続いて庭に。


 セリーさんは庭に出ると自身の肉体を幻想体に切り替え、庭の端に塀盾を出してその真ん中に小さな黒丸を書きました。


 そして庭の反対側まで歩くと、塀盾に正対して一呼吸。


 次の瞬間。


「ふっ!」


 タタタタンッ!

 っと、中弓の矢を四連速射し、塀盾に書いた黒丸に全発命中させました。


 おお、相変わらずの早撃ちです。


 しかも無手で両腕を下ろした状態からのスタートで、瞬時に弓を具現化、使用化状態にし構え、


 つる引き、照準、発射の一連動作を、限りなく素早く、無駄なくスムーズに行なっています。


 そこからセリーさんは、自然体からの速射を何度も繰り返し、さらには横向き、後ろ向きからのスタートや、跳び避ける動きからの照準など、あらゆる動きを想定して早撃ちを行い、マトに命中させていきます。


 しかし、ううむ。

 ここまでの弓の技術は一朝一夕で身につくものではありませんし、これほど無駄のない射撃姿勢も他に見たことがありません。


 ここまで練度を高めるために、セリーさんはどれほどの鍛錬をしてきたのでしょうね。


 上の方々の中には、もっと速い矢を撃つ方や、もっと強い矢を撃つ方、もっと長い距離を精密に狙える方は何人もいますが、


 無駄のない弓を使える者という括りであれば、セリーさんに右に出る探索者はいないのではないでしょうか。


 と、


「……モルモさん。そんなに長い時間じーっと見ていられると、さすがに少し恥ずかしいんですけど」


「え? ……あぁ、ほんとうですね。ごめんなさい。つい見とれてしまっていました」


 私はセリーさんに頭を下げると、そそくさと厨房に帰って朝ご飯の準備に戻ったのでした。




 ◇◇◇


 私、ちょっとお夕飯の食材の買い足しに出ただけだったのですけれど。


「あ、セリー君。お待たせ」


「いえ、シオンさん。俺も今来たところですので」


 なんと、セリーさんが、背が高くて美人の女性と逢引きしているところに、行き当たってしまいました。


 こ、これは……!


「とりあえず、どこかお店に入りましょうか」


「そうね。……あまり、人には聞かれたくない話だし」


 という話のあと、お二人は近くの喫茶店に入っていきました。


 私は、あまりにも好奇心が抑えきれず、そっとお二人に続いてお店に入り、お二人の席の近くの席に座って、お二人の話を聞いてみることにしました。


 まさかまさか、あの3人を抜き去って、この方が怒涛の逆転ホームランを打つのか……!


 と、思って聞き耳を立てていたところ。


「実はね、セリー君。……私、婚約者に騙されていたかもしれないの……」


 なんだか、思っていたのと違う話が始まってしまったのでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ