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69話目・新人育成するだけの穏やかで安定した毎日


 ◇◇◇


 ツバサたちを弟子にしてからそろそろ半年ほどたつが。


 相変わらず俺は、ひたすら白ダンと黒ダンに潜り続けている。


 というのも、


「新人探索者の皆さん初めまして。完全踏破隊(フルマッパーズ)所属のセリウス・タキオンです。よろしくお願いします」


 俺は目の前に座った10人ほどの若者相手に頭を下げる。


「おねぁいしぁーす」


 若者たちからはパラパラと挨拶の返事が返ってきた。


 チッ、躾のなってないガキどもだな……。


 と、思うが、そんなことはおくびにも出さず、俺は社交辞令モードのままにこやかに喋る。


「今日から数日間、皆さんの講習を担当することになりました。今日一日は座学。明日は午前中から白ダン潜り。そして明後日は、早朝から黒ダン潜りです。皆さんは初めてのことで戸惑うこともあるかもしれませんが、俺がしっかり指導しますので、頑張ってください」


 と、いうわけだ。


 俺は現在、半協会員みたいなヘンテコな立場になり、初心者講習の講師役を請け負っている。


 なにせ、俺が作った新人育成プログラムは、バカにはちょいと難しい内容になってしまっていたようで、今のところ俺以外に、まともに教えられる奴がいないのだ。


 なので俺は自ら講師役を買って出た(給料も出るからな)。

 ついでに他にも講師役になれそうな、地頭は良いが慎重型であまり高難易度ダンジョン攻略に興味のない連中を何人か見繕った。

 毎回俺の補佐役として2人ほど俺の教え方を見せており、新人たちと一緒に鍛えている(いずれはコイツらに講師役を引き継ぐつもりだ)。


「はい! 質問!」


 イキの良い坊主が手を挙げる。


「はい、なんでしょうか」


希望の星(ドリームスター)のツバサさんたちはいないのか!?」


 またその質問か。

 俺は「ははは」と笑って受け流した。


「ツバサたちは今日も元気に灰ダン攻略をしていますよ」


 マップパターンの完全解析をさせるために、俺が指示したからな。

 来る日も来る日も坑道潜りなのでツバサは「狭いー! 息苦しいー! もーイヤだー!?」と言っていたが、俺は今日も灰ダンに行かせた。


 せっかくステ値を上げたんだからな。

 有効活用しなくては。


「なんだー、つまんねーの」


「……ですが、君たちもここで真面目に学んで、しっかりと経験を積んでいけば、いずれツバサたちと同じように上のダンジョンの探索ができるようになりますよ」


「ほんとかよ……。おっちゃんヒョロくて頼りなさそーだし、なんだか不安だなぁ……」


 ……こういう無礼なガキ相手にもニコニコしていなくちゃならないのは、講師役のツライところだな。


 だが、まぁいい。

 コイツらが講習を受けるたびに、俺の口座にはカネが入ってくるんだからな。


 せいぜい学べ。

 そして死なねーように覚えろ。


 ダンジョンというのが、どういうところなのかをな。


「それではまず、この街の概況から説明します。お手元の冊子の2ページ目を開けてください」


 そうして俺は、ツバサ級のバカでも分かるように噛み砕いた探索者概論の説明を始めた。




 ◇◇◇


 翌日、白ダンにて。


 俺は補佐役の探索者2人と4、3、3で新人たちを分けて担当することにし、ステータスに応じた向いている探索スタイルの確認と、それに合った装備品の貸与をしたうえで、ある程度バランスが良くなるようにパーティー分けした。


 知り合い同士っぽいのは同じパーティーにしてやり、昨日俺に質問してきた奴は俺が面倒を見ることに。


 そしてフルマッピングルートを通りながら新人たちに歩き方や動き方の基本を教え、PP総量を確認したり試しにエネミーと戦わせてみたりした。


 新人たちも、最初は「ラクショーだぜ」とか「もっと強い奴とも戦えるよな」とか言っていたが。


 俺がひたすら歩かせ続けると、徐々に口数が少なくなってきた。


「な、なぁ、おっちゃん。まだ、終わらねーのか?」


「はい。まだ第3階層なので。今日は第5階層まで降りてフロアボスの暴れ兎を倒すところまで行ったら終わりですよ」


 そしてさらに歩き続け、夕方ごろ。

 新人たちが誰も何も喋らなくなったところで、俺たちはボス部屋に入り、


「ほれほれほれほれっ」


 と、俺が暴れ兎の両目と額と心臓に四連速射を喰らわせて倒し、ボス部屋を歩き回ってから外に出た。


 疲れ果てていた新人たちは、揃いも揃って頭の中にアナウンスが聞こえ、慌てふためく。


「それでは明日は朝6時に黒ダン前に集合してください。お疲れ様でした」


 俺がそう言うと、新人たちは重い足取りで協会併設の仮宿棟(受講中は宿と飯が用意され、最後まで講習を受けるとショップで買える装備品を受け取れるのだ)に帰っていった。




 ◇◇◇


 さらに翌日。

 黒ダン前にて。


「皆さん、昨日は眠れましたか?」


 と、明らかに寝不足であろう若者たち相手に、俺はすまし顔で言う。


「おっちゃん、分かってて聞いてるだろ……」


「ははは。まぁ、緊張だか油断だか知りませんが、寝不足は探索の敵です。精神の疲労は判断ミスを招きますし、PPをしっかり回復させないとダンジョン内を歩き切ることもできなくなりますよ?」


 と、睡眠の大事さを伝えてから黒ダンに入る。


 今日もひたすらテクテク歩き、危険度の高いやつは近づく前に弓矢で射抜き、地雷ガマたちは火矢で誘爆させて一掃する。


 そしてさらに歩き続けていたのだが、


「も、もうダメだ……」


 新人たちの何人かが、もう歩けないと言い出した。

 おそらくPP残量がゼロになりつつあり、これ以上不用意に動くと過崩壊が始まって幻想体が破損しそうになっているのだ。


 まぁそんなこと、こちらは昨日コイツらのPP総量を確認したときから分かっている。


 俺は新人たちに生身になるように言い、全員生身になってダンジョンからの威圧感(プレッシャー)で震え始めたぐらいで結界カンテラを点火してやった。


 新人たちがホッと安堵する。


 俺は干し肉と干しブドウと水を新人たちに渡してやりながら、PP切れや幻想体の破損によってダンジョン内で生身になることがいかに恐ろしいことかを説いた。


 そして安心脱出保険の加入促進と、事前準備や体調管理の大事さを伝えてから、


「今日はこのままここで野宿をします」


 と宣言した。

 当然、新人たちからはブーイングが上がる(なにせここは黒ダン。ぬかるみの中だからな)が、


「心配しなくても、簡易ベッドを10個持ってきていますよ」


 と言うと、新人たちの空気が弛緩した。


 ははは、バカどもめ。


「ですが、俺や補佐官もベッドを使うので、君たちが使えるのは7つまでです」


「え……。あっ……!?」


「10人でどう配分するかは君たちに任せます。就寝までに話し合って決めてください。ただし、暴力行為を確認したらその者は結界から放り出します。お好きなエネミーに喰われて死んでください」


 と言い残して、俺は新人たちの様子を見守ることにした。


 面白いと思った方、続きが気になる方は、ブクマや評価をよろしくお願いします!!


 本日正午に、もう1話更新します。

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