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62話目・決闘序盤


 ◇◇◇


 今回の決闘で使用される岩場の5番というフィールドだが、全体が東西に長い楕円形となっている。


 完全に平坦な場所、というところはフィールド内にほとんどなく、小さな岩山や石柱、崖などが各所にあるうえ、フィールド全体が西から東に向けて緩い下り勾配になっている。


 よって、初期配置ができるだけ西寄りになったほうが高所を取りやすくて有利になるわけだ(射程の長い射撃系装備を持っていないパーティーだと、あまり恩恵がなかったりもするけどな)。


 さて、俺たちの配置はというと。


「……チッ。ガッツリ東の端か」


 マップを開いた俺は、俺たちの現在地を確認して思わず舌打ちをした。


 少し離れたところに高くそびえている岩壁は、おそらくフィールドの東端にあたる部分だ。


 そこから先には進めないし、無理に進むと強制退場処分になりかねない。


 つまり、進む方向を決められてしまっているわけだ。


 これは、本来ならあまり良くない。

 速攻で奇襲を受けた時に、退きながら受けるということができないわけだからな。


「だがまぁ、ある意味では予想通りか」


 まぁ、協会側もフレスピークのやつにはそれなりに忖度するだろうからな。

 初期配置ぐらいはイジってくるだろうさ。


 フレスピーク自身が射撃系の装備品を装備しているかは分からんが、向こう側のパーティーである銃身咆哮(ガンズアウト)はメンバー全員が銃系の装備をしているし、


 フレスピークが所属している暗い呼び声(リビングデッド)のリーダーは、()()マインさんだ。

 高所の有利はよく効く。


 おそらく、向こう側の連中は西寄りの地点に固まって転送されていて、姉貴たちのところは……、中央から少し西寄りってところか?


 あまり東寄りにして俺たちと早めに合流されるのは避けたいだろうからな。


 向こうとしては、俺たちと姉貴たちを個別に叩きたいはずだ。


 それなら。


「ユミィ。俺たちは今、マップの24eからgあたりにいる。そしてフレスピークたちは、おそらく1から3のあたりにいる」


 届くよな?

 今のお前なら。


「ふっ。もちろんじゃん」


「よし。それなら、威力は低くていいから弾速はなるべく早く、山なりの軌道で1aから3nまでを順番に爆撃しろ」


「りょー、かい!」


「モコウ。対応射撃が来るかもしれん。そこの岩山の上で待機して、自在盾でユミィを守れ」


「はいヨー」


 モコウがぴょんぴょんっと岩山を駆け登り、ユミィが長杖から光弾を生成する。


 直径()メートル近いサイズの光弾がユミィの背後で太陽のように輝き、その後バラバラに分割された小光弾が一斉に中空に向けて打ち出された。


 大きく山なりの軌道を描いてフィールドの端から端まで飛んでいく光弾は、やがて岩山の陰に消えていって見えなくなる。


 ユミィは見えない着弾先のことを気にすることなく、次々と光弾を生成しては少しずつ狙い先を変えて光弾を発射し続けた。


 これだけ連射しても息切れになる素振りはないし、そもそもこれだけの弾数で長距離を狙えるというのも驚異的なことだ。


 以前のユミィでも、長距離狙撃をしたり、大量の光弾で弾幕を張ることはできたが。


 それらを両立させ、しかも連続的に射撃するのは不可能だった。


 だが、今はできる。

 今現在のユミィのステータスというのが、


・━・━・━・━・


【ステータス値】

LV・64(stock=0)

知力・SS(40+200)

心力・S+(30+165)

速力・Aー(16+90)

技力・S(24+146)

筋力・Bー(6+78)

体力・Bー(9+73)


・━・━・━・━・


 こうだからな。

 もはや元の幻想体を遥かに上回るステ値だ。


 知力と心力にストックしたステ値の半分近くを注ぎ込めば、通常型の幻想体でもここまで来るのだ。


 そしてその幻想体を操るのは、杖士としては間違いなくトップクラスの才能を持つ自称天才美少女様だ。


 これぐらいの制圧射撃なら朝飯前。

 いや、今は昼時だから昼飯前かな。


 それにしても。


「これだけ堂々と打ち込んでるのに、打ち返してくる素振りがないな」


 まだマインさんたちのいるあたりに着弾してないか?

 それとも遠すぎて向こうの弾がここまで届かないか?


「居所を知られるのを嫌って反撃しない、というのも考えられなくはないが……」


 それにしても反応がない。

 これは、どっちだ?


 などと考えていると。


「……お、そっちで来たか」


 俺たちの前方から岩陰に隠れるようにして、全身黒ずくめでお面(目と口の部分が三日月型に穴が空いて泣いているように見えるもの)を被った男たちの()()がゾロゾロとやってきた。


 黒ずくめたちは左手には盾を持ち、右手には各々が、剣や槍や槌や斧といった武器を持っている。


 一糸乱れぬ、というふうではなく、どちらかといえばワラワラと、雑然とした様子でやって来る男たちは、少なくとも10や20ではきかない数の大群でこちらに攻めてきた。


 来たな、幽霊男(ゴースト)ども。


暗い呼び声(リビングデッド)の突撃部隊が来たようだ。ユミィ。遠距離射撃をやめて散弾ぎみに前方へ、威力高めでぶっ放せ」


「了解!」


「ツバサ、戦闘準備! フル防具と、タイラントフレイル!」


 幽霊男たちは俺たちに気づかれたことを察して、岩陰から一気に飛び出してこちらに駆け寄ってくる。


 その集団めがけて、ユミィが光弾を前方扇形の範囲に集約してまとめて発射すると、幽霊男たちは自身の左手の盾と、それぞれの自在盾を使って防御した。


 防御を抜けた光弾が何体かの幽霊男たちに命中するが、当たったやつはその場で大きく幻想体が破損して消滅、残った奴らがさらに速度を上げながら迫ってくる。


 うむ。やはり脆いが、厄介だ。


「ユミィ、もう一回撃ったら防御に回れ! そのまま乱戦になる!」


「喰らえーいっ!」


 ユミィがさらにドバッと撃ち込んでもう何体かが倒れたところで、上のほうでバキンッと自在盾が砕ける音がした。


 やはりマインさんも打ち返してきたか!


 どうやら光弾を一発そのままで打ち返してきたようで、それをモコウが自在盾で受け止めたようだ。


 モコウが受けたということは、そのままの軌道なら誰かに当たってたということだろう。


 ということはつまり。

 なかなか打ち返してこなかったのは、幽霊男たちがこちらまで来るのを待っていたのと、ユミィが撃った弾幕の軌道から発射位置を逆算して、こちらの位置を正確に割り出そうとしていたということだろう。


 それと先ほど飛んできたのは属性弾ではないようだが、分割なしの一発丸ごとは、やはり威力が高い。


 今のモコウのステ値、


・━・━・━・━・


【ステータス値】

LV・66(stock=0)

知力・S(12+148)

心力・A(12+98)

速力・SS(38+172)

技力・S(14+136)

筋力・S(30+130)

体力・A+(18+96)


・━・━・━・━・


 の、知力・Sで生成した自在盾を割れるのだから、まったくもって侮れない。

 うまく防がないと、普通に一撃必殺になりかねん。


「モコウ降りてこい! ツバサ……、薙ぎ払え!」


 と、ここで、まもなく接敵する距離まで来た幽霊男たちめがけて、全身鎧装備にさせたツバサが突撃する。


 タイラントフレイル(一本が1メートル半、全長で5メートル近い巨大三節棍だ)を両手で握り締め、横殴りの体勢から、


「かっっ、飛べーーー!!」


 全力のバッティングフルスイング。

 当然、一目見て何をしてくるか丸分かりの動きであり、幽霊男たちも各々防御するが、


「……無駄だな」


 三節棍は幽霊男たちの防御を全て打ち砕き、あるいは押し退けて無効化し、そのスイング範囲内にいた幽霊男たちを一撃で全て粉砕した。


 バラバラに砕けた幽霊男たちの幻想体が、つぶてとなって後方の幽霊男たちにぶち当たるかの如き勢い。


 俺はその動きを知っているのでしゃがんで避けたが、幽霊男たちは防御しただけで避けなかった。


 まさか全ての防御を力ずくで粉砕されるとは、幽霊男たちも思っていなかったようだ。


 なにせ、今のツバサのステータスは、


・━・━・━・━・


【ステータス値】

LV・67(stock=0)

知力・C(5+67)

心力・C(23+49)

速力・A+(25+89)

技力・A+(9+105)

筋力・SS(40+330)

体力・S+(28+152)


・━・━・━・━・


 だからな。

 生半可な防御なら打ち砕けるだけのクソバカ筋力が、今のツバサにはある。


「おおー! めっちゃ気持ちいい!!」


「油断するな! まだ残ってるんだ、ぞ!」


 フルスイング後にも残っている幽霊男たちが斬りかかってきた。


 俺は斬り付けをかわしながらすれ違いざまに自在刃を幽霊男に突き立てる。


「はーい! えいっ! えいっ! ……えいっ!!」


 ツバサは鎧で斧を受けながら、普通のミドルメイスに持ち替えて応戦する。

 当たれば一撃だ、防御など関係ない。


「ヤァーーッ!」


 岩山の上から飛び降りてきたモコウが蹴り足で幽霊男の首元に自在刃を突き立て、そこを軸足にして隣の幽霊男にも蹴りを入れ、首を飛ばす。


 あっという間に残りの幽霊男たちも片付け終わり、俺たちは各々の損傷状況を確認する。


 そうしていると、ツバサがこんなことを言う。


「ねぇ、タッキー。今の黒い人たちって、どういうやつなの?」


 俺は、怒鳴りそうになるのをグッと堪えて説明してやった。


「……暗い呼び声(リビングデッド)幽霊男(ゴースト)たちだ。突撃部隊役の四つ子が、実体のある分身を作れる装備品をお互いに使い合って多重に分身体を作っている」


 分身体は脆いが、それぞれ装備している装備品をそのまま使ってくるし、簡単な命令なら自動操縦(オート)で動かせるから、斥候や威力偵察、罠避け、獲物の釣り出しなんかを安全に行えるってわけだ。


「なるほどねー!」


 いや、なるほどじゃねーよ。

 ついさっきの打ち合わせでも説明しただろーが。


「え、……そうだっけ?」


「お前……。はぁ、まぁ良い」


 ツバサの集中力と理解力の低さなんていまさらの話だ。


 ステ値の知力がいくら上がってもバカはバカだし、そこを補うより長所を伸ばすことにしたから、今のステ値になっている。


「そんでタキ兄ぃ。ここからどう動くの?」


「レーダーがないから完璧にとはいかないが、よほどのことがなければ俺たちの背後からは敵が来ない。だから、ここから徐々に西進していく」


 と、


『ただいまから立ち入り禁止区域を指定します。直ちに区域から離れてください』


 フィールド中に警告音声が響く。

 マップを開いてみるとフィールドの東端一帯、つまり、俺たちのいるあたりがごそっと指定されていた。


 おいおい、こういうところも露骨だな。


「とりあえず、走るぞ。この辺一帯は立ち入り禁止区域になった。うかうかしてると無駄なダメージをもらう」


「はーい!」


 ということで、駆け足で禁止区域を脱出。さらに奇襲を警戒しながら少しずつ西に進んでいると。


「……アイヤー、北西から何か来るよ」


 岩山に登り高所で前方警戒をしていたモコウが、岩山から降りてきながら言う。


 俺たちは装備品を使用可能にして待ち構えていたところ、


「来た! 今度は白いの!」


 武装済みの、白くて流線型をした人形幻想体が、俺たちの前に現れたのだった。


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