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51話目・決闘するぞ(デュエル、スタンバイ!)


 どうやらこのお貴族様然とした捜索隊の男は、名をフレスピークというらしい。


 ガーランドック家に代々仕える騎士の一族の生まれということで、たぶんコイツ自身も下位のお貴族様ということになるんじゃないだろうか。


 だがまぁ。

 今この場においては、それはそれ、だな。


「最初に言っておくけど、この場の交渉が決裂した場合は、俺はアンタを殺すからな」


 他にも捜索隊が来ているんなら、ソイツらも全員殺す。

 誰もこの街からは出さない。


 時間稼ぎにしかならんだろうが、やらんよりはマシだからな。


「……話し合い、というわりには、随分と乱暴なことを言うじゃないか。やはり野蛮な探索者風情ということか」


「乱暴なのはアンタらの存在自体だろ? お貴族様たちは、一般市民なんていくらでも絞れるオリーブぐらいにしか思っていないじゃないか」


 しかも、一般市民がアンタらを殴ったら問答無用でクビが飛ぶってのに、アンタらが一般市民を殺しても、たいていお咎めなしで終わるじゃないか。


「当たり前だろう。貴様らと我々はそもそもの立場が違う。こうして対等な交渉をしているだけでも、ありがたいと思ってもらいたいものだ」


 俺は、フレスピークの舐めた発言を鼻で笑った。


「お前らの持ってる権力とかいう力は、お前ら自身じゃあなく、お前らの祖先や、お前らの権力を認めてくれるもっと強い権力によってもたらされているものだろう? 自分の力で手に入れたわけでもないものを、これみよがしに見せびらかされても困るぜ」


 パパママに買ってもらった高価なオモチャを見せびらかしながら、他の子供を見下してる嫌味なクソガキ。


 そんな風にしか見えないから、偉そうぶるのはやめといたほうが良いぞ?


「なんだと……」


「そして分かってないようだからハッキリ言っておくが、」


 俺は、フレスピークの首をU字型に生成した自在盾で掴み、そのまま持ち上げて宙吊りにした。


「なっ……!? がっ、離……!!」


「お前らの権力とやらが担保されてるのは、逆らった奴を罰せるだけの仕組みと、罰するための武力があるからだろう? だが、その武力に関しては、この街の中では通じないぞ」


 俺たち探索者が徒党を組むと、この世界のどの軍隊よりも強いんだからな?


「お前や、お前が仕えてるガーランドック家の軍隊は、自在に空を飛んで口から光線を吐く石造りの獅子や、四本腕で鉄の鎧を紙屑のように捻り裂く巨大な鬼と戦えるのか?」


 俺たちは、戦って倒せるぞ?

 それ以上の化け物だって、な。


「それが理解できたなら、もう少し謙虚に振る舞え。理解できないなら、今この場で死ね」


 この街までノコノコやってきたお前に分かりやすく言うとだな。


「この街は、探索者の街だ。ここにいる間は探索者の流儀に合わせろ。合わせられない無礼者は、死ね」


 探索者協会はお前らを優遇しても。

 俺たち探索者は、お前ら(お貴族様たち)にへりくだったりしない。


 探索者が他の街ではお行儀よく法やお貴族様の意向に従うように、お前らもこの街にいる間はこの街の流儀(ルール)に従え。


「分かったか? 分かったなら……」


 俺は自在盾を不使用状態にして、フレスピークを乱暴に椅子に落とした。


「ぐっ、がは、ゴホッゴホッ!」


「話し合いを、始めようや」


 これ以上グダグダするのは時間の無駄だからな。


「俺から伝えたいことは一つだけだ。ユミィは今後も探索者を続けたいと言っている。今はまだお前らのところに戻るつもりはない」


 だから俺も、ユミィをお前らのところに戻らせるつもりはない。


「で、そっちの要望は?」


「……決まっている。今すぐ私をお嬢様に合わせろ。私が説得すれば、お嬢様は必ずご帰宅の意向を示されるはずだ」


「それは無理だな。合わせた途端にどんな卑劣な手を使われるか分かったもんじゃないからな」


「貴様こそ、どうやってお嬢様をたぶらかしたか知らんが、本当にお嬢様がそのように仰っている証拠があるのか?」


「あるわけないだろ、そんなもん。言った言わないの世界だ。だが、俺は事実しか言っていない」


「信用ならぬ。特に、話し合いの直前にいきなり脅しをかけてくるような卑劣な人間の言うことなどな」


「じゃあどうする? それこそこのまま平行線か? 俺はそんな無駄話をずっと続けるほど、気長でもないし呑気でもないぞ?」


 そう言うと、フレスピークはフンと鼻を鳴らした。


「では、聞くが。貴様ら探索者の流儀とやらでは、意見の対立した二者間の裁定を、どのように行っているのだ?」


 ……まぁ、そうくるよな。


「いくつか方法はあるが、一番シンプルでアンタらにも分かりやすいのは、決闘だな。ただし、一対一ではなくてパーティー同士で戦う。戦う場所も、それ専用の場所でのみ許されている」


 闘技場、って名前の施設だ。

 ダンジョン機構のひとつで、その中でなら誰でも幻想体になれるし、緊急脱出装置も作動する。


「おいおい、我々は貴様らのように探索などしたことはないが?」


「それなら、誰か別の探索者をカネで雇えばいい。適正な額のカネを払って正式に依頼するなら、代理のパーティーを出してもいいぜ?」


 カネは、街の外から持ち込めるチカラの一つだ。

 分かりやすいし、カネのために探索者をやってる奴なら、誰が依頼人でも関係ないさ。


「なるほど。つまり、貴様より強いパーティーとやらを雇って貴様を叩きのめせば良いわけだな」


「そういうことになるな」


 もっとも。強い奴ほどカネへの執着は減るから、いくらカネを出しても雇えなかったりするけどな。


「ならば決闘だ。おい、シュナウザー殿。あとでこの街の有力なパーティーたちと話がしたい。間を取り持っていただこう」


「よろしいですとも。構わんな、ター坊?」


「もちろん良いですよ」


 それじゃあ細かい日程とルールを決めようか。




 ◇◇◇


「待たせた。とりあえず、昼飯を食いに行くぞ」


 フレスピークとの話し合い。

 すなわち、決闘の段取りを終えた俺は、弟子たちとハンズ、カマーンさんを連れて飯屋に行った。


 なお、チャランチーノの奴は「カ、カマーンさんとご一緒だなんて畏れ多いっしょ……!」と言い残して逃げていった。


 どうやら、俺が出てくるのを待っている間にだいぶカマーンさんにちょっかいを出されたらしいな。


 アイツは見かけと言動通りの女好きなので、漢らしい肉体を持つカマーンさんのことが苦手なのだ。


「むほほ、チャランちゃんたら見かけによらずシャイなのね♡」


「そっすね」


 俺は適当に相槌を打った。


 ハンズなんかは俺に飯を奢ってもらうほうが利があるとか思うタイプなので、声を掛けなくてもついてくるが、


「あ、そうだ。おい、約束通り3(アンコウ会から受け取った成功報酬の3割のことだ)寄越せよ」


 と言うと、すげぇ嫌そうな顔でカネを渡してきた。


 コイツはほんとにカネにガメつい。

 だからこそ適度な距離感で付き合う必要があるが、距離感さえ間違えなければ俺と考え方も似ているので、話していて気が楽だ。


 で、ちょっと歩いてチャーハンの美味い飯屋に入り、海鮮チャーハンを食べながら事のあらましを説明した。


 ツバサは、借金話が問題なくなったことを知ってホッとしてたし、


「えっ!? ほんとはもう捜索隊来てたの!? しかもフレスピの奴かー……、うわー……」


 ユミィは天を仰いだ。


「ユミィが嫌いな人なのカ?」


「別に嫌いじゃないけど……。お父様への忠誠心が高すぎて、ボクの話をあんまり聞いてくれないんだよな……」


 なるほど。

 やっぱり勝負前には合わせないほうがいいな。

 余計なこと吹き込まれて、決闘前に動揺する事態になりかねん。


「そのフレスピークと、お前の身柄をかけて決闘することになった。勝負は10日後、闘技場で行う」


「闘技場? しかし向こうは探索者じゃないだろう?」


「ああ。だから、向こうはカネで探索者を雇って代理を立てるそうだ」


 向こうは今日から7日後までに代理の探索者パーティーと、決闘時のフィールド設定を決めて探索者協会に申請する。


 俺たちは対戦相手と対戦フィールドを確認してから、3日間の猶予が与えられるわけだな。


「タッキー、対戦フィールドって、なに?」


「闘技場はダンジョン機構の一部だから、エネミーとトラップの出ないダンジョン扱いになるんだが、どういうフィールドで戦うかをあらかじめ設定できるんだ」


 例えば、何もない荒野なのか、遮蔽物の多い森や岩場なのか、足場の悪い沼地や崖なのか、みたいにな。


 昼夜の時間帯や、晴れ、雨、雪といった天候も指定できる。


「ほえー、便利だね」


「まぁ、ダンジョン機構だからな」


 実際のダンジョン内ではもっと広い空間を作り出しているわけだから、闘技場内の広さや状況を変更するぐらい、造作もないことだろうよ。


「まぁ、俺たちのやることは変わらん。俺はお前たちを育てる。お前たちは強くなる。そして対戦相手のパーティーに勝つ」


 俺たちが決闘に勝てば、ひとまずフレスピークの奴も引き下がらざるをえない。


 そうすれば、奴がガーランドック辺境伯領まで戻って次の手を用意して再びここにやってくるまでに、少なくとも3か月は猶予ができる。


 その間に、お前たちが一流になっていればいいわけだ。

 そうすれば、探索者協会ももう少しきちんとお前たちのことを守ってくれるからな。


「セリーちゃんサラッと言ってるけど、新人が3か月ちょっとで一流になるのは、かなり難しいんじゃなーい?」


「まぁ、普通はそうなんですけど」


「何か策があるのね?」


「あります、とだけ言っておきます」


「……何か手はあるが、俺たちには言いたくない、と?」


「そういうことだ。今はまだ、この情報は独占しておきたい」


 コイツらの育成が成功すれば、俺はこの知識と技術で一稼ぎできるはずだからな。

 荒稼ぎしてある程度広く浸透したらタダで教えてもいいが、それまでは内緒だ。


 ハンズがカネに汚い奴を見る目で俺を見てくるが、鏡でも見てろ、と思う。


 俺は別に憐れみや同情心だけでコイツらの師匠をやってるわけじゃないからな。


 今までコツコツ稼いできたカネを注ぎ込んでコイツらを育てるからには、きちんとしたリターンを計算しなくちゃならないだろうが。


「少なくとも、コイツらをちゃんと一流の探索者にしてやるまでは、内緒だ。知りたいなら、お前も俺の弟子になるか?」


「馬鹿ヌカせ。タキ衛門なんぞに弟子入りしたら、どうせ朝から晩までコキ使われるに決まっている。何の得にもならん」


 それなら仕方ないな。

 また必要な時に、カネで雇うよ。


「そうしてくれ。俺はそういう付き合いのほうが、気が楽だ」


 奇遇だな、俺もだよ。


 そうして、パクパクとキムチチャーハンを食べ終えたハンズは、そのまま店を出ていった。


「んー、ホントはオジサンも興味あるけど、この子たちの成長の邪魔になることはしたくないわね」


「カマーンさんは、また数日後に一度、コイツらに指導をしていただけると助かります」


 今回の決闘は対人戦だからな。

 対人戦は、ダンジョン内での対エネミー戦とはまた違った難しさがある。


「良いわよぉ♡ ここの満腹チャーハンもご馳走になったことだし、皆まとめて教えてア、ゲ、ル♡」


 はい。お願いします。


 ということで、食後にカマーンさんとも別れて、弟子3人を連れて俺の部屋に。


「とりあえず、今日は準備の日だ」


「準備?」


 そうだ。

 明日から、少し時間を使ってやらなくてはならないことがある。

 それもなるべく早急に。


「明日から、赤ダン(D級ダンジョン)に挑むぞ」


 3人が顔を見合わせた。


「うげえっ……」


 そしてユミィだけは、締められた鶏みたいな声を出したのだった。


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