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49話目・真実の形を思考でなぞる


「そーーだわ! 良いこと閃いた! この件が終わったら貴女たち3人とも、オジサンが一度お稽古をつけてあげるわ!」


「わーい!」


「は……?」


「楽しみアルヨー!」


 ということで、そういうことになった。


「いやいやいや、待って待って待って!? え、タキ兄ぃ、これってマジのやつ……??」


 残念ながら、マジのやつだ。

 予想以上に3弟子たちは、カマーンさんに気に入られたらしい。


「心配しなくても、ユミィちゃんは同じ後衛として一番しっかり教えてあげるわ♡ 弾の集中と拡散とか、複数箇所への集弾割合の変え方とか、覚えておくと役に立つ技術は色々あるからねん♡」


 あ、それはマジで役に立つやつだ。

 ユミィ、今度しっかり勉強させてもらえ。


「い……!」


「い?」


「……イヤだーーーー!!?」


 なんとユミィのやつ、地面に寝そべって駄々っ子のようにジタバタと暴れ始めた。


 おいおい、恥ずかしいから止めろ!

 かんしゃく起こした幼児かお前は!!


「ボ、ボクはタキ兄ぃの弟子であって、この人の弟子じゃないやーーい!? ヤダヤダヤダヤダー!!」


 うおっ、コイツ……!?


 マジで暴れてやがる!


 そんなに嫌がることないだろ!


「タキ兄ぃーー!! タキ兄ぃの教えをきちんと実践したら、ボクたち3人とも一流の冒険者になれるって言ってたじゃんか!? それなら別にこの人から技術を習わなくてもいいだろう!?」


 しかしな、俺は射撃系の装備品全般に通じる技術なら分かるし、射撃系の装備品は全系統一通り使ったことがあるが、杖系の装備品はそこまで得意じゃないんだよな。


「なんで!?」


 ほら、杖って、射撃待機状態のときに光弾の分割とパラメータ(威力、射程、弾速と特殊効果の有無)の割り振りをしたりとか。


 発射時に弾道線をリアルタイムで引かないといけない(直線か山なりか直角変化か)だろ。


 あればっかりは、センスの良さも大事なんだよな。


 そして俺に杖士としてのセンスはない。


「けどけど! それでもやっぱりボクはタキ兄ぃから教わりたいが!? お願いだよタキ兄ぃーー!!」


 うーん……。どうしたもんかなコイツ……。


 仕方ない。

 ここは同じバカに任せよう。


「大丈夫だよユミィちゃん! カマーンさんって良い人だし!」


「そうアルヨ! これだけクンフー凄い人なら、きっと教えるのも上手ネ!」


 さすがバカ2人だ。

 なんの根拠もないことを強気で言い切っている。


「それにあたし、ユミィちゃんと一緒に習うほうが絶対楽しいと思うもん!」


「そうヨ! ワタシたちはもう一蓮タクショヨ! 3人仲良くおベンキョするヨ!」


 と、友人2人にも勧められて、ユミィは半べそ状態になった。


「でも、でもぉ〜……!」


 ……良し、分かった。


「俺も一緒に杖士としてのレクチャーを受けてやるよ。カマーンさん、俺もお世話になって良いですか?」


「ほほほ! モチのロンでオッケーよ〜ん♡ セリーちゃんも教え甲斐がありそうだわ♡」


「ありがとうございます」


 はぁ、仕方ない。

 適性が高くないのでどこまで理解できるかは分からないが、俺が隣で一緒に習ってやるよ。


 だからそれ以上みっともなく泣くな。

 外聞が悪すぎるし、これ以上騒ぎが大きくなったらアンコウ会の奴らに見つかるかもしれないだろ。


「うっ、うっ、タキ兄ぃ〜……!」


 ようやく泣き止んだユミィが、ぐしぐしと袖で顔を拭いた。

 それから、少し考えたような様子を見せたあと、


「……じゃあ、ボクは後でタキ兄ぃから教わるから、カマーンさんからはタキ兄ぃだけ教わってよ……」


 コイツ……!?


「調子に、乗るな!!」


「ぎゃん!?」


 俺は、舐めたことヌカすユミィの脳天に強めのチョップを喰らわしてやったのだった。




 ◇◇◇


「この後の予定を伝える。皆食べながらで良いから聞いてくれ」


 屋台屋通りの屋台で買ったホットドッグを食べながら、俺は三馬鹿弟子とカマーンさんに話をすることに。


「今、元ヌケニン斥士のハンズが、俺たちの今後の予定情報を持ってアンコウ会に接触してくれている」


「は?」


 ユミィがポカンとした顔をするが、大丈夫だ。


「だがそれは、奴らを釣り出して一網打尽にするために、俺が持たせた偽情報だ。ハンズから連絡がありしだい、俺たちはアンコウ会のアカシア支部に乗り込み、今回のツバサを狙う動きについての証拠を掴む」


 で、証拠を掴めたらアンコウ会の連中を呼び出したところに向かい、俺たちを待ち伏せして襲撃しようとしている連中を逆襲撃する。


「ここまでで質問はあるか?」


「ねぇ、タッキー。アンコウ会の支部を襲撃って、どうやるの?」


「俺が単身で乗り込む。そして俺がいない間はカマーンさんとユミィに、ツバサとモコウを守っていてもらう」


 ツバサとモコウはC級ダンジョンをクリアしてないから、街中で幻想体になれないからな。


「……え。タッキーって、C級クリアしてるの??」


 ん?

 ……そういえば、ツバサにはステータス(Key2のやつ)を見せたことなかったっけ?


「俺は、C級ダンジョンは全部クリアしてるぞ」


 しかもソロで。


「そうなの!?」


「ボクはタキ兄ぃのステータス見たことあるけど、凄かったよ」


「え、私まだ見たことないよ! 見せて見せて!」


「ワタシも見たことないヨ。ター師父、見せてほしいネ」


 ……仕方ねーな。ほれ。


 俺がKey2のステータスを見せると、ツバサとモコウが揃って「ひょえ〜……」と感嘆の声を漏らした。


「あら〜ん、お弟子ちゃんとはいえ、そんな簡単にステータス見せちゃって良いのかしら〜ん?」


 と、カマーンさんが言うが、まぁ、ごもっともである。


 普通は他人にステータスは見せないものだ。


 もしダンジョン内で探索者同士の戦闘になった場合、ステ値や装備品が知られていると相性不利を攻められて苦戦することになるからな。


「まぁ、大丈夫ですよ。さすがにコイツらも俺のステータス値を言いふらしたらはしないでしょうし……、」


「でもタッキー、速力・Sはスゴいね! だから歩くのも早いんだね!」


「…………」


「……あ、」


 ……おい、クソバカ。


「早速言いふらされてるわね」


「さすがにこれは、ボクも同情する」


「ご、ごごごごごめんタッキー!? あ、無言でゲンコツぐりぐりはやめてー!?」


 あーー、という悲鳴をあげるツバサのこめかみを、俺はしばらく無言でぐりぐりした。




『タキ衛門、予定通り釣れたぞ』


 というハンズからの通信が入ったので、俺たちはアンコウ会の奴らに見つからないようにしながらアンコウ会の支部に向かった。


「ここからは俺一人で行くから、この路地裏で待ってろ」


 ということで、俺は「インビジブルバンダナ」を起動して堂々と支部の建物に近づく。


「タッキー透明になれるんだ……」


「絶対タキ兄ぃアレで普段から悪いこととかしてるぜ」


「もともと足音と気配も薄いから、だいぶヤバいネ」


 と、馬鹿3人のバカな会話は放っておき、支部建物の2階の窓が開いているところがあったので、壁をよじ登って窓から侵入する。


 そして建物の外観と実際の内部の様子から推察される支部長の部屋に赴き、鍵を開けて(短時間だけ透明化を解除し、自在刃を鍵穴に満ちる形に変形させて無理やり解錠した)室内に侵入。


 飾られた絵画のひとつが明らかに額縁に手垢のついたもの(つまり、ひんぱんに誰かが触っているということだ)だったので、絵画を動かして壁を調べていると、隠し金庫が見つかった。


 ダイヤルと、鍵か。


「……面倒だ」


 俺は、金庫のロック金具部分を薄く伸ばした自在刃で切断し、扉を開けた。


 そうすると、出るわ出るわ。


 違法な金利で契約締結されている証書(表向きの文書は、合法範囲内の金利になっているのだろう)とか。


 下請け組織への連絡内容やカネの流れを載せた裏帳簿とか。


 特定団体や組織への献金事実や、その見返りを記した契約書などなど。


 これ全部強奪してばら撒いたら、この街どころか国の一部が大騒動になるようなヤバいやつまである。


 そして。


「……これか」


 ツバサの故郷の村で新しく井戸を掘るための資金を、村全体に貸した際の証書が出てきた。


 村人数名の連名債務になっており、その中にはツバサの父親らしき名前もある。


 しかし、妙だな……。


「……これは、適正金利での貸出しになっている。それに、返済期日もまだまだ先だ」


 金額自体もそれほど高額ではない。

 これっぽっちのカネの取り立ての代わりにツバサをさらって闇ルートで人身売買しようとするのは、割に合わないんじゃないか?


「……他の書類はどうだ?」


 俺は、さらに金庫の中を漁って他の書類にも目を通していくが、ツバサに関係するであろう書類は見つからなかった。


「……絶対におかしい」


 アンコウ会の連中がわざわざツバサをさらいに来たというなら、必ず何か理由があるはずだ。


 なんだ、俺は何を見落としている……?


 俺は金庫の扉を閉め直し、絵画を壁にかけ直した。


 そうして、もう一度支部長の部屋の中を見渡してみる。


 ……そういえば。

 当たり前に忍び込めたから、考えていなかったが。


「ここの()()()は、今、どこに行ってるんだ?」


 下っ端連中が偽情報に釣られて出ていくのは分かる。


 だが、支部長クラスの人間まで、その現場に行くか?


「いや、普通は行かないだろ」


 てことは、だ。

 支部長は今どこかに出かけて、何かをしているってことか……?


 つまり、ツバサの件は下っ端任せでも問題ないような、大したことない案件なのか?


 ……いや、そうじゃないな。


 下っ端連中がまとめて出ていくぐらいだから、それなりに力を入れてる案件のはずだ。

 そして、そんな時に自分も別件で出かけているということは。


「さらに、()()()()()案件を扱っているってことじゃないのか……?」


 じゃあ、その重要な案件ってなんだ?

 支部長は今、どこでなにをしている?


「……そういえば」


 俺は、先ほど見た書類群の中で、とある書類がないことを思い出した。


 普通に考えれば、絶対にあるはずの書類だ。

 それが一枚もなかった。

 いくらなんでもおかしい。


 それに……。


「そもそも俺は、()()ここに来た?」


 アンコウ会の連中がツバサをさらおうとしたからか?


 いや、違う。


 アンコウ会がツバサをさらおうとしていることを()()()()()じゃないか?


 そのことと、先ほど見た書類群の違和感を合わせて考えれば……。


「…………ちっ。そういうことか」


 俺は舌打ちのあと、とある相手に一言通信を入れたうえで、アンコウ会の建物を脱出した。

 そして弟子たちと合流すると。


「……予定変更だ。ついてこい」


 弟子3人とカマーンさんを連れて、目的の場所に向かって歩き始めた。


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