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46話目・話し合いとは、自分の意を押し付けること


 俺がモコウの名を出したことで、コイツらの目付きがギラリと変わり、


 俺が砂金袋を投げ返したことで、コイツらに強い警戒心が生まれた。


 そして、


「貴様……!」


 俺が幻想体になった瞬間、コイツら全員が臨戦態勢になり、俺のことを緊張した様子で見つめてくる。


 やっぱり、デキる奴らは分かるみたいだな。


 生身と幻想体の違いが。

 生身と幻想体で、どれほど戦闘力に差があるかということが。


 そこらのチンピラ探索者や酔っ払いとは違い、鍛えた強い奴らはちゃんと分かっている。


「先に言っとくが、モコウの身柄は俺が押さえている。そのうえで忠告しておくぞ。他にも仲間がいるなら、不意討ちなんて狙わずにまとめてかかってこい」


 じゃないと、お前らでは俺に勝てんぞ。


「生身でいくら強くても、幻想体になった探索者とまともに戦えると思うなよ」


「チェアアッ!」


 俺の目の前の男が拳を突き出してくる。

 俺はそれを悠々とかわした。


 それどころか男が拳を突き切る前に、男の背後に回り込む余裕すらある。


「なっ……!?」


 男からすれば、一瞬で背後を取られたように感じたことだろう。

 俺の気配を背後に感じた男は、咄嗟に蹴り足を後ろに出した。


 俺はそれすらも余裕を持ってかわした。

 男の首筋に指先を当てて、サンダーナックルの電撃を使用する。


「がっ……」


 俺の指先から迸った電撃が、男の首筋を直撃した。

 男はぐるりと白目をむき、その場に昏倒する。


 ん、ちょっと威力を強くしすぎたか?

 まぁ、鍛えているようだから死にはしないだろう。


「貴様ぁ!」


「ホアチャアッ!」


 さらに2人の男が俺に襲いかかってきた。


 右の男は突きの連打を繰り出してくる。

 左の男は渾身の回し蹴りを放ってきた。


 俺は、右からの突きの連打を右手一本で全て払い落とす。


 左からの回し蹴りを左手一本で抱え込むようにして受け、掴んだ蹴り足に電撃を浴びせた。


「ぐうっ……!」


 蹴ってきた男が崩れ落ちる。

 電撃で全身が麻痺したようだな。


 俺は突きの連打を受けながら、一番上役のオッサンを見た。


「コオオオォォ……!」


 なんと驚くべきことに、上役のオッサンは()()()()()()()()()()()()()()()いた。


 おいおいマジか!

 生身のままで、そんなことができるのかよ!


「コン師範! 私に構わずコイツを!」


 と、突きの連打を放っていた男が、俺に覆い被さり抱き締めてきた。


 俺の動きを封じて、自分ごとトらせる気か?


「舐めるなよ」


 俺は、抱きついてきた男の握り手を力ずくで切る。


 そして電撃を纏わせた平手でドンと突き飛ばした。


 俺の倍は重いであろう男が軽々吹き飛び、それをかわした上役の男が、幻想力を纏わせた両拳の連打を繰り出してきた。


 む、こいつは……!


「ヌウウンリャアアアアアアッ!!」


 重く、速く、鋭い!

 しかも幻想力を纏っているから、無防備に受ければ今の俺(幻想体)でも確実にダメージを負う!


 俺は突きの一発一発を確実に払い落としながら、しかしどんどん手数と勢いを増す連打に、内心で舌を巻いた。


 生身でKey2の俺とやり合えるとか、どんだけ鍛えてるんだ……!


 さながら暴風雨のような連打。

 俺が幻想体でなければ、一発でも喰らえば終わっていただろう。


 俺は感心と畏怖の念を感じながら、


 しかしそれでも、負ける気はしなかった。


「バウンドボード」


 俺の顔前に、触れた相手を強く真逆に弾き飛ばすバウンドボードを生成し、相手の拳を当てさせた。


 瞬間、上役の男の全身が、巨人に殴られたみたいに後方に吹き飛んだ。

 数メートル後方でようやく踏みとどまった上役の男は、苦痛に顔を歪める。


「くああっ……!」


 たぶん、反発の勢いで肩が外れたんだろう。

 吹き飛んで転げなかっただけでもたいした脚力だが、まともに反発力を喰らった右腕は衝撃を殺しきれなかったようだな。


「……ヌンッ!」


 無理やり肩をハメ直したか。

 だが、それでも痛みは残っているはずだ。

 もう先ほどのような連打は打てまい。


 俺はまだ意識のある蹴り足を掴んだ男の首筋に電撃を当てて気絶させ、荒い息を吐く上役の男に向き直る。


「すごいな、アンタら」


 俺は素直な感想を口にした。

 いや、マジですごいと思う。


「生身でそこまで動ける人間がいるんだな。モコウのことを軟弱者とか言うだけのことはある」


 モコウですら、生身同士ならこの街の探索者たちの上位に食い込むであろう強さなのに、それよりはるかに強いとか。


 生身同士の戦いなら、この街の人間のほとんどは、アンタらに敵わないだろうよ。


「だが、ここは探索者の街で、俺たちは探索者だ。ダンジョン探索でもたらされる恩恵を受けている以上、生身の人間に負けるはずがない」


 C級以上のダンジョンをクリアした経験があれば、アカシアの領域内なら幻想体になれるんだからな。


 それはつまり、探索を進めた探索者は、街中でもその強大な戦闘力を発揮できるようになるということであり、


 この街は、アカシア内の市街地戦に限れば、国内外のあらゆる政治的な干渉に単純武力で立ち向かえる人材が豊富に揃っているということになる。


 だから、その探索者たちを取りまとめる権限を有する探索者協会は強い権力を持っているし、探索者同士も基本的には協力関係にある。


 やらかしてハブられたり、万が一にも他の探索者全体と敵対することになれば、常に他の実力者たちから命を狙われることにもなりかねないからな。


 それはつまり、四六時中ダンジョン内に生身でいるような状況ということだ。

 そんな状況、俺なら絶対にごめんだ。


「だが、アンタたちは、対幻想体探索者との相性不利なんて気にも留めてないって顔をしているな」


 なにがアンタたちを、そこまで駆り立てている?

 そんなにモコウを連れ戻したいのか?


「あの落ちこぼれの軟弱者を連れ戻すために、アンタたちほどの手練れがまとめて来てるんだ。よほどの理由があるんだろうよ」


「……貴様には、関係のないことだ」


「残念だが関係あるんだよ、おおいにな」


 なにせモコウは今、俺に弟子入りしてるんだからな。


「……なんだと?」


「モコウの言い分はこうだ。自分は昇竜会の門下生の中でも落ちこぼれだった。そして、何かしらの理由によって脱走し、探索者になるためにこの街に来た」


 まぁ、俺には、あれだけ強いモコウが落ちこぼれだったとは思えないが。それはさておき。


「少なくとも今のモコウは、探索者としての仲間を見つけて、俺の弟子として一人前の探索者を目指している。昇竜会に戻るつもりはないし、アンタたちとも会いたくなさそうだった」


 だから、師匠の俺が、モコウのためにお前たちと話し合いをしに来たんだよ。街中で言いがかりをつけられて、突然襲われても面倒だからな。


「……話し合い?」


 おっと、そこで首を傾げるんじゃねーよ。


「俺は話し合いのつもりだったぞ。だが、先に胸倉掴んできたのはそっちだし、先に殴りかかってきたのもそっちだ」


「それは、貴様が……」


「俺は必要なことを聞いただけだろうが。それに業を煮やしてお前たちが暴力をちらつかせてきたから、俺は自衛のために幻想体になっただけだ。その戦力差に勝手にビビって先に手を出してきたのも、お前らのほうだろうが」


 まぁ、そうなるように誘導はしたけど。


「体と態度ばかりデカくて胆力の無ぇ奴が、イキってビビって返り討ちでボコられただけの話しだろうが。それって、俺が悪いのかよ」


「……」


「違うだろ。悪いのはお前らだろ。何が一番悪いって、探索者のことを舐めてたことだろ」


 俺みたいにチンピラムーブするヒョロっちい若僧が、自分たちよりはるかに強い可能性もあることを、想像すらしてなかっただろ。


「その結果、お前らは大事な探し人の情報も得られず、長年積み上げた強さも否定され、格下と侮った相手に負けて無様を晒してるんだよ」


「……!」


「郷に入っては郷に従えって言葉を知らないのか? ここは探索者の街だぞ。お前らの流儀は知らんが、この街に来た以上は探索者の……、」


 俺は、頭上から音もなく飛び降りてきた奴の刃を自在盾で受け止めた。


 やっと伏兵が出てきたな。

 散々待たせやがって。


「ぐがあっ!?」


 俺は奇襲してきた男の足を掴み、無造作に地面に振り下ろした。

 地面に叩きつけられた男は、そのまま意識を失った。


 というか、コイツの刃にも幻想力が篭ってたな。


 コイツがこの部隊のナンバー2か?

 奇襲役のコイツと上役の男(コン師範、だっけか?)以外は幻想力を使えてなかったしな。


「なんで奇襲に気づけたと思う?」


 俺は、奇襲作戦にも失敗して悔しさをにじませている上役の男に問うた。


「……なぜだ?」


「簡単だ。俺たち探索者の装備品にレーダーというものがある。幻想力、……アンタらが拳や刃に篭めてた力を探知して、視界内に表示できるものだ」


 せっかく気配を消しててもな、幻想力を使ってたらレーダーに丸写りなんだよ。


「そういう、基本的なことさえ知らない、調べてないわけだ。手抜かりにも程がある。アンタら、そんなんでよくモコウを探せると思ったな」


 情報収集が下手くそか?

 何事も、もっと真剣にやれよ。


「……返す言葉もない」


「で、話の続きだ。俺たち探索者にも流儀がある。一度弟子入りさせた以上は、俺はモコウを含めた弟子たちを監督する責任がある」


 だから、勝手に連れて帰られたら、こっちも困るんだよ。


「モコウ本人が帰りたいと言い出した時は別だが。今のところは、一人前の探索者を目指して頑張るって言ってるからな。だから、お前らの都合で話がしたいなら、まずは師匠である俺にきちんと話を通せ」


 誠意には誠意で返すし、無礼には無礼で返すだけだ。

 アンタらだって似たようなもんだろ。


「あと、次来るときはもっと話の分かるやつが来いよ。探索者協会でタキオン宛に言伝すれば、応じてやるからよ」


 俺が伝えるべきことを伝えると、上役の男は少しの間押し黙った。それから。


「……ひとつ、聞かせてほしい」


「なんだよ」


「貴殿から見てお嬢は、探索者としてやっていけそうか?」


 なんだその質問。


「まったく問題ねーな」


 本人にやる気と適正があって、仲間にも恵まれていて、なにより師匠がこの俺だぞ。


「心配しなくてもぐんぐん伸びるよ。俺が見ている限り、伸びることはあっても落ちることはない」


「……そうか」


 そう呟くと、上役の男は姿勢を正して深く頭を下げた。


「この度はたいへん失礼をした。申し訳ない。我々は一旦昇竜会に戻り、お嬢の今後の処遇について検討することにいたす」


 おう、そうかよ。


「お嬢の現状やタキオン殿については、我々から門主様にお伝えいたす。また方針が決まれば、私、コン=ペイトからお伝えさせていただく」


 分かった。

 ところでよ。


「さっきから言ってるお嬢ってのは、ひょっとしなくてもモコウのことか?」


「もちろんそうだが?」


「……お前らんとこの門主様の名前ってよ、もしかして、コ=マァチじゃないよな?」


「よく知っているな。それもお嬢からお聞きになったのか?」


 ……まぁ、そんなとこだよ。


 そうして俺は、コン師範が気絶した連中を叩き起こし、アカシアを出ていくのを見送ってから、宿に戻ることにした。


 というか、


「…………モコウってつまり、アイツらの会で一番偉いやつの娘ってことか?」


 そりゃあ、必死こいて探すわけだよ。


 と、俺はため息をついたのだった。


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