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45話目・三下ムーブもお手のもの


 俺はPPが少なめなので、ダンジョン探索でPPを消費したらしっかり寝て回復しておく必要がある。


 寝るのは本当に重要だ。


 1時間の仮眠でも、するのとしないのとではPPの回復速度が大きく違う。


 で、俺が寝てる間に襲撃されないよう弟子たちを俺の部屋に入れて、ハンズに周囲の警戒を頼んでから仮眠したわけだが。


「……お前ら、何を見てやがるんだ」


 仮眠から目を覚ますと、なぜかバカ弟子3人がガン首揃えて俺の顔を見下ろしていた。


「うわっ、タッキーが起きた」


 起きるよ、そりゃ。


「いやだってタキ兄ぃ、今まで何しても全然起きなかったじゃんか」


 PP回復のために寝てるんだから、回復し切るまでは熟睡できるように寝方を工夫してるん……、んっ?


「お前今、何してもって言ったな。てことはお前ら、寝てる俺に何かしてたということか……?」


 ツバサとユミィが揃って「やばい!?」みたいな顔したので、たぶんこの2人は何かしてやがったな。


「おい正直に言え。今なら先に話したほうだけ許してやる」


「ごめんタッキーの寝顔見て皆で笑ってました! ついでに全然起きないねってユミィちゃんとタッキーのほっぺツンツンしたりしてました!」


「ツバサ!?」


 さすがツバサ。

 こういう時は判断が早い。


 俺はユミィの鼻先をギュッと摘んでから、起き出してステータスを見る。


 うむ、PP全回復できるてるな。


「は、鼻が……!?」


「オォー、ユミィ大丈夫カ?」


 バカは放っておいて、俺は知り合いのチャランチーノに頼んで適当に屋台で晩飯を買ってきてもらった。


「ウェヘヘ〜イ! タッちゃんなんだか大変だね〜! 可愛い子ちゃんばっか連れてるから、バチが当たったんじゃないの〜??」


 と、顔中にピアスを開けて道化師みたいなメイクをしているチャランチーノが、俺のことを煽りながら飯を持ってきた。


「やかましい。それより、アンコウ会はどうだ?」


「だいじょぶだいじょぶ〜! ソルフレたちに聞いてみたけど、新たにこの街にやって来たのは4、5人ぐらいつってたよ〜ん!」


 ふむ。

 世間知らずの少女1人さらうだけなら、そんなもんか?


「んっんー♫ そ、れ、よ、り、も! キミたち、やっぱカワユイね〜! オレちゃんとこれからパーリナイに繰り出さな〜い?」


「よし、また必要があったら言う。しばらくは部屋の前にいてくれ」


 俺は、ツバサたちに言い寄ろうとするチャランチーノのケツを蹴飛ばして部屋から追い出した。


 まったく、いつもながら騒々しいやつだ。


「ねぇ、タッキー。……今の何?」


 気にするな。

 あんな奴だが、腕は確かだ。


「とりあえず、食え。暖かいうちにな」


 ということで、4人でもぐもぐ串肉を食べる。


 それから俺は、弟子たちに俺の部屋を出ないように言い含め、ハンズとチャランチーノに弟子たちを任せてから宿を出た。




 ◇◇◇


 向かった先は、この街で一番薄暗いところ、闇鍋通りだ。


『おい、ほんとにここにいるのか?』


『もちろんよ〜ん。それと昇竜会についても、ある程度分かったわよ〜』


 俺は、ネットリとしたカマーンさんの言葉を聞きながら、陽が暮れて足元も見えないぐらい暗い闇鍋通りを歩いた。


 そして、この通り沿いの住人たち相手に商売をしているであろう、ボロボロの建物で営業している酒場に入り、紅い服を着た一団を見つけた。


 あいつらか。

 ……確かに強そうだ。


 俺は紅服の一団に歩み寄りながら、人数を確かめる。


 4人か。

 これで全部か?


 それとも、誰か警戒に回ってるのか?

 捜索中の奴もいるなら、一網打尽というわけにはいかないか?


「……まぁ、いいか」


 身を潜めている奴がいるとして、生身の俺に悟られるようなヌルい奴じゃないだろ。


 それなら、キョロキョロせずに堂々と行こう。


 俺は、険しい顔を浮かべている紅服の一団に、


「お前ら、見ない顔だな。新入りか?」


 と声をかける。

 1人だけ、俺のほうに目線だけ寄越してきて、


「失せろ。怪我せんうちにな」


 と、言ってきた。

 ははは、なるほどな。


「なんだ、愛想がないな。よほどの怯懦(ビビリ)とみえる」


 ジロリ、と先程の男がもう一度俺を睨みつけてきた。


「次はない。失せろ」


 とのことだ。


「はっ、そうかい。まったく、似たような格好だったが、こないだ見た嬢ちゃんのほうがよほど愛想が良かったよ」


 この言葉に、4人が一斉に俺を見る。

 おうおう、良い反応するじゃん。


「ま、邪魔だってんなら俺は帰るよ。もう二度と、アンタらと会うこともないだろうさ」


「待て。……気が変わった。貴様と話がしたい」


 俺は舌を出し、心底バカにしたような笑みを浮かべてみせた。


「気が変わった? おいおい、それを言うなら俺も気が変わってるんだぜ? 俺の気持ちをもう一度変えたいなら、それなりの態度が必要なんじゃないか?」


「……先ほどは失礼した。深くお詫び申し上げる」


 俺に失せろと言った男は、そう言って深く頭を下げる。


「そのうえで、貴殿にお尋ねしたいことがある。協力していただけないだろうか?」


 ふむ、これぐらいじゃあ、取り乱さないか。


「……良いぜ。また気が変わった。で、俺とどんな話をしたいんだ?」


「我々は、とある武を修めている集団だ。先日我々の一門から脱走者が出た。見つけ出して、連れ戻したい」


「ふーん。それは、どんな奴を探してるんだ?」


「先ほど貴殿は、我々と似た格好の者を見たと言ったな。その者の人相と、いつどこで見たかを聞きたい」


「人相つっても、赤い髪に、目の細い嬢ちゃんだったとしか。見たのは1週間ぐらい前だったかな? 場所はなぁ……、どこだっけか。この街の中だったのは確かなんだけどなぁ……」


 俺がモコウの人相を伝えると、男たちは無言で頷き合っていた。

 そして俺が、どこで見たかを言い渋っていると、


「これを差し上げる。なんとか思い出していただきたい」


 と、男たちの中で一番上役っぽい見た目の男が、懐から皮袋を取り出して、テーブルの上に置いた。


 皮袋の口は開いており、袋の中いっぱいに金色の粒(おそらく、砂金か?)が詰まっている。


 俺は、目の色を変えてみせた。


「ああ、ああ、思い出したよ。そうだ、ここから歩いていける距離の場所だった。せっかくだ、俺がアンタらを案内してやってもいいぜ?」


 俺は袋を摘み上げ、それを懐に入れながら言う。

 男たちは頷き合い、テーブルにカネを置いて立ち上がった。


 うーむ。4人ともデカいな。

 いや、背丈だけなら俺と変わらないぐらいだが、横幅と、なにより厚みがヤバい。


 俺とは比べ物にならん鍛え方をしている肉体だ。

 これは正面から殴りかかっても、一発でやられちまうな。


「こっちだ。ついてきてくれ」


 俺が先頭を歩き、目的の場所まで4人を案内するふりをする。


 当然、弟子たちのいる宿に連れていくつもりはないからな。

 俺は適当に歩いて人目のなさそうな裏路地に入り、行き止まりになったところで紅服の男たちに向き直った。


「ああ、そういえば」


 俺は、先ほど受け取った皮袋を取り出した。


「この中身、ホンモノだって保証はあるのか? いやなに、疑うわけじゃあないが、これ全部ホンモノならお前たちは相当なお大尽様だ。いったいどこのどなた様が、あんな貧相なガキンチョを探してるのかと思ってな」


 俺の態度に、失せろと言ってきた男がズイと寄ってくる。


「おい、それを受け取ったんなら黙って案内しろ」


「だーかーらー、これがホンモノだって、どこのどいつ様が保証してくれんのかって聞いてんの。分かる? 万が一これが後でニセモノだって分かったときは、あらためてホンモノを受け取りに行かなきゃなんねーだろ?」


 男は無言で俺のシャツの襟を掴み、ぐいっと俺を引き寄せる。


「おい。それ以上さえずるなよ。ここからは、お前の身体に聞いたって良いんだぞ?」


「ははは。お前はバカか? 凄むってのはな、自分に優位性があるときにするもんだ」


 劣勢で凄んでみせても、それは単に負け犬の遠吠えって言うんだよ。


「今すぐ手を離せ。そしたらお前の無礼は寛大な心で許してやる。俺は知ってるんだぜ。お前たちがどれだけ真剣にあのガキンチョを探してるのかも、そのガキンチョが今どこで何してるのかも、全部な」


「……!」


「聞こえなかったか? ……手を、離せ。覆水は、盆に返らねぇぞ」


 俺が、手にした皮袋を捨てようとすると、一番上役の男が「手を離せ!」と叫んだ。


 目の前の男は慌てて俺を突き飛ばす。

 ははは、バカな奴だ。


「ゲホッ、ゲホッ。……そうだよ。最初っからそうしてりゃ良いんだよ。俺みたいなチンピラ相手に黙ってここまでついてきた時点で、お前たちに他に選択肢はねーんだよ」


 俺は、お前たちにとっての藁だ。

 どんなに頼りなくても縋るしかないし、焦って力を込めて握ったら、潰れて使い物にならなくなる藁だよ。


「俺は、何も難しいことは聞いちゃいねーだろ。お前らがどこの誰で、この皮袋の中身を保証するのがどういう存在なのか教えろって言ってるだけだ」


 テメーらの所属を明かせって言ってるだけだろ。

 良い歳こいて自己紹介もできねーような、ヘボ集団なのかテメーらはよぉ!


「心配しなくても、あのガキンチョにテメーらを売ったりしねーよ! テメーらが誠意を見せたら、こっちだって誠意を見せるっつーの!」


 今度は俺が凄んでみせると、上役の男は苦々しげな表情を浮かべ、


「分かった。言う。……我々は、昇竜会だ」


 と、とうとう名乗った。

 俺は、ニヤリと笑ってみせた。


「昇竜会、ね。ずいぶん遠いとこから来てるんだな。確か、師範代見習い以上の高弟になるまで下山することも許されてない、コンチワ山の山奥で修行に明け暮れる武闘派連中だろ」


 俺がカマーンさんから聞いた知識を披露すると、見るからに男たちは動揺した。

 ふん、どうせ知らないだろうとタカを括っていたな。


「てことは、脱走者だから連れ戻しに来たというのはある程度真実味があるな。だが、それにしては妙だな」


 俺は、砂金袋を弄びながら笑う。


「本来なら脱走者は連れ戻すんじゃなく、両手両足をへし折って山の中に捨てるんだろう? そしてそれなら1人か2人いれば十分なはずだ。4人は多すぎる」


 なにせ、脱走するのは師範代見習いにもなれない程度の連中だからな。下山許可が出る練度のやつなら、簡単に始末できる。


「つまり、お前らが探してる脱走者ってのは、本来なら始末されるところをなぜか生捕りで連れて帰られる奴か、元々下山してもいい師範代見習い以上の奴を、なんらかの理由で連れ戻さなくてはならないってことだ」


 それって、つまりよぉ。


「あのガキンチョは、よほどお前たちにとって大事な存在なんじゃないのか?」


 例えば、お前たちより上の立場の奴が、なんとしても五体満足で無事に連れ帰ってこいって言うような、そういう奴ってことなんじゃないのか?


「……だとしたら、なんだと言うのだ」


 否定しないってことは、当たらずとも遠からずか?

 だとしたら、そうだな。


「それならなおのことお前らを、今のモコウに会わせるわけにはいかないな」


 俺は砂金袋を投げ返し、そして肉体を幻想体に切り替えた。


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