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44話目・問題を解きほぐして整理する


 ◇◇◇


 1時間ほどシュナ爺と話し合いをしてから応接室を辞去し、それから数人の知り合いたちと通信装置で話をしてからバカ弟子たちの待つ部屋に向かった。


 俺が部屋に入ると3人が立ち上がって俺の元に駆け寄ってきた。

 そしてそれぞれ泣きそうな顔で俺に頭を下げてくる。


 なんだよさっきから。

 お前らマジでどうした??


 コイツらがわちゃくちゃ喋ってくるのを聞くに、どうやら各々が、自分のせいで俺に迷惑をかけてしまったと思っているらしい。


「ごめんタッキー……。あたしが怖い人たちに狙われたから……」


「ごめんよタキ兄ぃ。ちょっと色々あって、まだ家には帰りたくないんだ」


「オォー、ター師父。ワタシの義兄たち、みんな超強いヨ。街中で会ったらとんでもないことになるネ……」


 あー、うるさいうるさい。

 そんなに謝られたところで何の足しにもならん。


 それより、それぞれの問題にどうケリをつけるかのほうが重要だ。


「とりあえず、座れ。今後のことについて順番に説明する」


 俺がそう言うと、弟子たちはそれぞれ席に着く。


「エリーゼさん。よければお茶をいただけませんか」


「仕方ないわね。ちょっと待ってなさい」


 部屋の隅で待機していたエリーゼさんにお茶を淹れてきてもらい(いつものように美味しい)、一息ついた俺は説明を始める。


「まず、ユミィの捜索願いの件は、しばらくは大丈夫そうだ」


「えっ?」


 あのあと詳しく聞いてみると、辺境伯家は自領内とその周辺から少しずつ捜索範囲を広げているようだが、まだこのアカシアには手配書が届いただけのようだ。


 手配書を届けてきたのも一般の運送屋で、それも公的機関の掲示板に掲示する分しかないそうだ。


「きちんとした捜索隊が街に来るまではまだしばらく時間がかかりそうだし、それまでは、探索者協会長名での要請で公的機関への手配書の掲示は差し止めてもらえることになった」


 つまり、運送に関わった者や手配書の受け取りをした公的機関の職員以外は、お前の身元は知らないままになるということだ。


 ひとまずこの件は、一旦これで終了だ。

 また進展がなければ辺境伯家からのアクションがあるだろうが、それまでは無視していい。


「ほ、ほんとに?」


「ああ。今しばらくの間は、だがな」


 露骨にユミィがホッとする。

 まぁ、強硬手段に出てこられたとき、一番どうにもならない相手がユミィの実家だからな。


 今のところはこれ以上打てる手もないし、こちらから何かアクションを起こすと、逆に向こうに勘付かれてたいへんなことになる。


 現状は、情報を封じ込めて様子見だ。

 もう少しなんとかしたいが、これ以上はなんともならん。


 次に、モコウの義兄弟たちのことだが。


「モコウ、お前のクンフーの門派は、なんていう名前だ」


 それが分かれば、ある程度対策が絞れそうだ。


「えっト……、昇竜会ヨ」


 昇竜会だな。

 ちょっと待ってろ。


 俺は、知り合いと通信装置でやり取りをする。


『昇竜会だそうだが、分かりそうか?』


『あら〜ん。ずいぶん遠くから来てるのね〜。ぐふっ♡ 大丈夫よ、オジサンに任せてチョンマゲ〜♡』


『……頼んだぞ』


 俺は通信を切ってから、脳裏にこびりつくアフロヒゲ野郎の声を振り払う。


「……俺の知り合いに、クンフー界隈に詳しいやつがいる。そいつから情報が入り次第お前の義兄たちとやらと交渉してくる」


 あのオッサンの知恵と人脈を借りるのは非常に業腹だが、背に腹は代えられないからな。


 いや、マジのガチで借りを作ると後で何させられるか分かったもんじゃないから嫌だけど……!


 仕方がないから力を借りる。

 こういう時のために人並みに仲良くしてるんだからな。


「交渉て、何するアルカ?」


「ただの話し合いだよ。……心配しなくても、生身でお前より強い連中とケンカしたりしねーよ」


 不安そうに見つめてくるモコウの脳天に軽くチョップを落とし、俺はため息をつく。


「俺も人並みには鍛えているが、あくまでもこれは幻想体でもよく動けるようにするためのものだ」


 酔っ払いの仲裁とか、そういうのならしたことあるが、生身の身体で殴ったり殴られたりなんて、とてもとても。


「だからお前の義兄たちと殴り合ったりなんて、そんなことするつもりもない。……それよりも」


 お前、なんで昇竜会から脱走したんだ?

 ああ、いや、責めるつもりじゃないが。


「そこまで鍛えてるからには、お前は長年の厳しい鍛錬を積んできたはずだ。そんなお前が逃げ出すなんてよほどの何かがあったんじゃないのか?」


 その理由、逃げ出した動機が知りたい。

 言いたくないなら、言える範囲でいい。


「その内容次第では、向こうとの交渉材料になり得るからな」


 モコウはしばらく言い淀み、そして静かに首を振った。


「ごめんヨ、ター師父。それは、まだ言う勇気がないヨ……」


 ……そうか。

 まぁ、いい。


「それでも良いさ。なるようになる」


 それならこの件は、あとはひとまずあのオカマからの連絡待ちということで。一旦、終了。


 最後に、ツバサの件だが。


「アンコウ会は、かなりデカい組織だから味方に引き込んでる人間も多いが……、悪どい組織だから当然のように敵も多い」


 アンコウ会からカネを借りてる債務者は、基本的に向こうの言いなりだが、みんな腹の中では舌を出してアンコウ会の連中のことを口汚く罵っている。


「だから違法な取り立てをしてきても皆見て見ぬふりをするが、何か糾弾するチャンスがあれば皆で一斉に袋叩きにしたりする」


 それを向こうも分かっているから、見た目上はなるべく合法を装うし、法に触れる行いも細心の注意を払って仕掛けてくる。


「そういう部分が、奴らの強みでもあり隙でもあるわけだ」


「えっと……、つまり、どういうこと……??」


 相変わらずバカだな、ツバサは。


「お前にも分かりやすく言うと。悪いことしてる奴は、衛兵に見つかると、捕まる」


「それって……、当たり前のことじゃないの?」


 そうだよ。


「悪どいことしてくる奴には、世の中の常識を教えてやればいいんだ」


 そのためには、ちょっと策を弄するけどな。

 そのあたりはすでに案がある。


「……話はまとまったかしら?」


 エリーゼさんが追加のお茶を注いでくれながら問うてくる。


「はい。とりあえずは大丈夫です」


「そう。……ねぇ、セリウス君。この3人って、探索者としての弟子なのよね?」


「そうですよ」


「……そう」


 ……なんだ?

 なんか、エリーゼさんまで変な感じだな。


「まぁ、いいわ。ところで、人手は足りてるの?」


「一応、ハンズとカマーンさんとチャランチーノには声をかけてます」


「……そのメンツで大丈夫?」


「能力的には大丈夫です。人格的には……、大丈夫と信じてます」


 まぁ、各々それぞれの理由で、俺のことを裏切ることはないと思うけど。

 もしものときの備えはしておくか。一応な。念のために。


「……あの人たちと普通に話ができるんだから、セリウス君もなかなか肝が太いというか、なんというか」


「やめてくださいよ。俺まで変人みたいに言うのは」


「……そうね。ごめんなさい。毎日白ダンばかり潜ってた頃は、正直言うとだいぶキテるんじゃないかと思っていたけど、今はちゃんと上のほうのダンジョンにも潜ってるものね」


 エリーゼさん?

 え、もしかして俺、エリーゼさんから変人だと思われていた……??


 俺はしばらく内心で首を傾げていたが、エリーゼさんがシュナ爺のところに戻ると言うのでそれを見送り、俺たちも一旦宿に帰ることにした。


 で、協会の正面から出ようとしたところで、ハンズから通信が入った。


『おい、タキ衛門。正面はもう張られてるぞ。裏口からそっと出ろ』


 ……マジか、思ったより早いな。


『どの奴らだ?』


『糸目の嬢ちゃんに似た格好してるから、その関係だろ。かなりの遠目に見ている』


『分かった。助かるよ』


 俺は通信を切ると、弟子3人を連れて協会の裏手から出た。


 そして宿に帰って俺の部屋に弟子たちを入れると、


『おい、しばらく頼んだぞ』


 と、ハンズに一言通信を入れてから、俺は一旦寝たのであった。


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