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42話目・火の球ストレートでストライク!


 第6階層の小高い丘に登り、進行方向に向かって続くなだらかな下り坂の先を見下ろす。


 湖沼地帯に点在する地雷ガマの起爆スイッチの位置を確認し、ツバサに教えてやると、


「……ふぅーーっ、……よし」


 ツバサは手にしているメイスを一旦破棄し、新しい装備品を右手に具現化させた。


 ツバサが手にしているのは、手のひらサイズの球体だ。


 一見すると爆弾に似た見た目だが、爆弾と違って安全ピンはないし、表面に縫い目状の飾りデザインがついている。


 ぶっちゃけ言うと、野球のボールみたいな見た目だ。

 アイアンボールという名前の装備品で、投擲型の殴打武器として使用できる。


 具現化時に重さと大きさと個数を調整できるのだが、ツバサは鉄より少し軽く、しっかり縫い目に指がかかるサイズのものを、一度に6個作成する。


 具現化すると手の中に1球、残りの5球は腰のベルトにホルスターとともに具現化するので、投げるたびにホルスターから次の球を取り出して投げることができる。


 これが、今回ツバサに授けた新装備品だ。

 ツバサが生身でキャッチボールしている時の美しくダイナミックな投球フォーム、球威と制球力の高さなら、これで地雷ガマを殺れる。


 もちろん、ただ投げて殴打武器として使うだけなら、小さな起爆スイッチに命中させる神業的な制球力が必要になるが、


「せーのっ、……えいっ!」


 ツバサが大きく振りかぶって、第1球目を、投げた!


 投げた鉄球は手から離れてすぐに燃え始め、()()()になった!


 火の球ストレートがぬかるみに着弾。

 次の瞬間、火属性攻撃を受けた地雷ガマが、大爆発した。


「……うわーお!」


 ツバサが目をまん丸にして驚いている。

 そして俺のほうを見て、ぱあっと笑顔を浮かべた。


「タッキー! タッキー!! 今の見た!?」


 おう。見てたよ。


「あたしの一発で、ドカーンって! めっっちゃ気持ちいいー!!」


 そうだろう、そうだろう。

 ほら、まだまだ球は残ってるぞ。


「思いっきり、投げつけてやれ」


「うん!」


 ツバサは、次々と火の球を投げては地雷ガマを爆発させていく。

 連続する爆風がここまで届き、俺たちの前髪を熱気が撫でる。


 ツバサに使わせているのは、鉄球プラス火矢のコンボだ。


 火矢、となっているが、効果は「射撃や投擲武器に火属性を付与する」というものなので、鉄球を火の球ストレートにすることも可能だ。


 もちろんユミィの光弾でもコンボして使うことができるが、ユミィは今まで使ったことがないらしい。


 まぁ、あれだけ高威力の弾をバカスカ撃てるなら属性変化を使う必要もなかっただろうし、装備コストの関係もあるからな。

 ユミィは無理して属性を付ける必要がないし、そのあたりは他の2人に頼ったらいいだろう。


 そういうところも、パーティー内で役割分担すればいいだけなのだ。


 さて、気がつけば火の球を投げまくったツバサのおかげで地雷ガマが一掃されている。

 これで気兼ねなくぬかるみを歩けるな。


「どうだツバサ。地雷ガマを自分の力で吹き飛ばした感想は」


「サイッコーだった! これならもう、地雷ガマも怖くないね!」


 笑顔でピースするツバサを見て俺は、これでもう大丈夫だろうと思えた。


 今まではツバサのやつ、爆弾で吹き飛ばすのはなにか引っかかりを覚えているというか、自分の力で倒している感じがしてなかったようだし。


 弓矢を使わせてみてもいつまでたっても上達しないから火矢作戦も失敗だったし。


 火の球ストレート作戦で、ようやく自分の手で地雷ガマを倒している実感が得られたらしい。

 難儀なやつだ。


 ただまぁ、そういう「苦手だった相手が陳腐化する瞬間」というのが、トラウマ克服には大事だからな。


 単純なツバサなら、これでもう地雷ガマへの苦手意識は払拭されただろう。


「お前ら。この先もこの調子でいけよ。きちんと頭を使って3人で連携すれば、このダンジョン内での残る脅威は沼蛇ぐらいだ」


 それもまぁ、今日中は無理でも、何回か挑めばレベル1の3人で倒せるようになるだろう。

 そうなれば、ぼちぼち次の段階に進めていく必要がある。


「3人だけで誰も落ちずに沼蛇をレベル1攻略できたら、美味いモン腹いっぱい食わせてやるよ。だから死ぬ気で頭を使って、頑張れ」


「やったあ!」


「タキ兄ぃ、その言葉忘れんなよ?」


「美味しいもの、楽しみヨー!」


 そうして俺たちは、黒ダンをガンガン進んだ。




 ちなみに、本日の沼蛇戦はわりと良いところまでいったのだが。


 途中でツバサが丸呑みにされてしまい、俺が雷矢の連射を喉元に当てて吐き出させたあと開いた口の中に爆弾を放り込んで大ダメージを与え、


 最後はモコウが自在刃蹴りを左目から突き込んでトドメをさした。


「ひ〜〜ん、ベトベトするよ〜……!」


 沼蛇の唾液でベタベタになったツバサが半泣きになり、助けに駆け寄ったユミィとモコウを巻き込んですっ転んで3人とも泥だらけになった。


 俺が、バカ弟子3人のマヌケな様子を見て笑っていたら、


「おいやめろ、来るな!!」


 3人が俺に飛びかかってきたので逃げきれず、俺まで押し倒されて泥だらけにされてしまった。

 幻想体とはいえ、意味もなく泥だらけにされると腹が立つ。


「お前ら地上に出たら覚えてろよ!」


 と、俺は捨て台詞を吐き、一足先に地上に戻った。

 そして、このあとさっさと公衆浴場に行こうかと考えていたところで、


『業務連絡、業務連絡。こちらエリーゼ。セリウス君、聞こえる?』


 探索者協会のエリーゼさんから、通信装置で連絡が来た。

 俺は通信装置を送受信モードにして返答する。


『こちらタキオン。エリーゼさん? 何かありましたか?』


『良かった。さっきから何度か呼んでたんだけど、返事がなかったらちょっと心配してたのよ。今ダンジョンから出てきたところ?』


 心配?

 ……ふむ。


『先ほどまで黒ダンでした。心配していたと言いましたね。俺たちの身を心配するようなことが起きているということですか?』


『そうなの。詳しいことは協会で話したいんだけど、今から来れる?』


 俺は、少しだけ考えて返答した。


『大丈夫ですよ。15分以内に向かいます。窓口でエリーゼさんを呼べばいいですか?』


『それでお願い。……あと、貴方の連れてる子たちも全員連れてきて』


『……3人にも関係あることなんですか?』


『というより、3人に関係があることなのよ』


 なんだそりゃ。


『……タキオン了解。4人で向かいます』


 俺は、いったい何事なのだろうと考えを巡らせながら、バカ弟子たちが黒ダンから出てくるのを待ったのだった。


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