41話目・弟子たちのトラウマエネミー克服行脚
◇◇◇
弟子三号の弟子入りにともない、俺はモコウを正式にパーティー登録した。
今回も窓口にいたエリーゼさんから「なんでわざわざ窓口に来るの?」と言われてしまった(パーティー登録だけなら識別票を使ってリーダーが承認すればできる)が、
「まぁ、こういうのは形式が大事なときもありますから」
と、適当に答えて協会を出た。
実際は、窓口利用履歴を残すことであとあと役に立つことがあるからなのだが、基本的には微々たる効果しかないので知らないふりをする。
それから数日かけて弟子3人に、3人パーティーでの連携のコツとか気をつけるべきポイントとかを伝えながら実戦経験を積ませた。
2人のときでは使えなかった戦法とかもあるし、ツバサとユミィの練度もそこそこ高くなってきたからな。
練度が高く、単独でも戦闘力の高いモコウと合流すればなんとかなるだろう、という算段だ。
そして今日も白ダン前で弟子3人に準備体操と、ダンジョン入り前の戦型確認をさせたうえで、各人それぞれに幻想体を再作成させてから白ダンに入った。
ちなみにモコウはまだスペアキーを取得していないが、少し考えがあるのでしばらく白ダンのフルマッピングクリアはさせない。
心配しなくても、モコウは元々練度が高いのでレベルの高い幻想体を保持しておく必要性が高くない。
それに幻想体の育成もまだほとんど進んでいないので、再作成にも抵抗がない。
だから普通にKey1の幻想体を破棄して再作成もできるし、それをさせてもダンジョン内での身体安全上の危険はほぼない。
「それじゃあまずは、ユミィの跳ねざるな」
俺たちは戦闘をせずにどんどん歩き、5層の跳ねざるが出現する地点に赴く。
そして俺だけこそこそマントを羽織って木の上に登り、遠くに見える跳ねざるに向けて矢を射って挑発する。
跳ねざるは、地上で待ち構えるツバサたちを見つけて、ぴょんぴょん飛び跳ねながら近づいてきた。
「来た! やるよみんな!」
ツバサはショートメイスとスモールシールド、ユミィはショートスタッフ、モコウはアイアンナックルをそれぞれ構える。
跳ねざるは一番先頭のツバサに襲いかかった。
バネ脚で踏みつけるようにして飛びかかってきたのを、ツバサは盾で受け止めたあと、
「……えいっ!」
と、盾を突き上げて、跳ねざるを上に吹き飛ばした。
バネ状の脚だから高く打ち上げられた跳ねざるを、
「ユミィちゃん!」
「任せろ、……やあっ!」
射撃待機状態だったユミィが、上昇から落下に転じる際の一瞬の静止のタイミングを狙って、跳ねざるに光弾をぶち込んだ。
跳ねざるは、ぴょんぴょん飛び跳ねられるだけで空中で自由に動けるわけじゃないからな。
打ち上げて落下軌道をこちらで作ってやれば、不規則な飛び跳ね中を狙うよりも精密に射撃できる。
そして、空中の無防備な状態を撃たれた跳ねざるは、一撃で大ダメージを受けて悶絶した。
「ヤアァーー!」
背中から地面に落下した跳ねざるに、モコウが追撃した。
顔面に拳を突き下ろすとクリティカルになり、跳ねざるが消失していく。
よしよし、ちゃんとできてるな。
さらに2匹目の跳ねざるでは、今度はモコウが手甲で受け止めて同じように空中にかち上げ、空中の跳ねざるをユミィが狙撃した。
そして落下した跳ねざるの顔面にツバサがメイスを振り下ろし、仕留める。
3匹目ではまず最初にユミィが跳ねざるの足元を撃ち、光弾を避けるために跳ね上がった跳ねざるを、
「セイヤァ!」
「ええーい!」
落ちてきたところでモコウの掬い打ちをぶつけ、悶絶しているところにツバサがメイスを振り下ろした。
こんな感じで3人がそれぞれ、崩し、弱らせ、トドメを順番に交代しながらやっていく。
「えいっ! ……あっ!?」
「任せるネ!」
たまにツバサにミスが出たりしたときは、近くのモコウがカバーに入ったり、少し離れて射撃待機状態にしてあるユミィが光弾を分割(もちろん威力は落ちるが、弾幕を張る、という行為が大事だ)して牽制用の射撃をしたりする。
そんな感じで、お互いに役割分担をしながら戦いを続ければ、
「これで、……30匹目! やったー!」
メイスを振り下ろしたツバサが、笑顔で喜びの声をあげた。
「すごいすごい! こんなに早く、こんなにたくさん! しかも、誰も大怪我してない!」
3人での連携がカッチリハマり、なんの問題もなく安定した討伐ができるようになった。
まぁ、しっかり練度を高めて役割分担ができていれば、レベル1でもこれぐらいはできる。
「ユミィちゃん、モコたん、いぇーい!」
喜んで飛び跳ねるツバサが他の2人とハイタッチした。
俺は木から飛び降りて弟子3人に声をかけた。
「よく分かったか、ユミィ。狙いをつけにくい相手なら、狙いをつけやすいようにこちらが動きを誘導してやればいい」
複雑な軌道を頑張って予測するのも大事だが、読みやすいシンプルな軌道にしてやればその労力を削減できる。
「そうすれば、お前の知力なら白ダン黒ダンのエネミーぐらい、一発必中で臨めばなんの問題もない」
「オォー、ほんとにユミィ当てるの上手くなたネ。飛ぶトリ落とす勢いヨ」
「ま、ボクは天才だからね! これぐらい、どーってことないさ!」
はいはい、すごいすごい。
というわけで、次に行くぞ。
俺は、そのまま弟子3人を連れてボス部屋に突入し、問題なく暴れ兎を完封する弟子たちを見守った。
翌日。
この日は黒ダンに入った。
第5階層のアイススライムの部屋に入ると、
「ほらほら! こっちアルヨ!」
モコウが鉄拳をガンガン打ち鳴らしてアイススライムを挑発しながら、部屋の中をアイススライムを中心に反時計回りに移動していく。
モコウに釣られたアイススライムが、モコウに向けて消化液を吐きながら(モコウはひょいひょい避けている)、入口とは反対方向に向かって移動し始めたところで、
「ええーい!」
アイススライムの背部を、ツバサが核めがけて全力スイングのメイスで打ち抜く。
核にまではメイスが届かなかったが、核を覆うブヨブヨの肉体が攻撃の圧で押されて寄り、核までの厚みが薄くなる。そこへ、
「はははー! 喰らえーい!」
ユミィの光弾が射出された。
射撃によってブヨブヨの粘体を貫いて核にダメージを与え、さらに表面の粘体が焼け落ちて核が露出した。
露出した核にツバサが追撃のメイスをぶち込んでヒビを入れ、ツバサの追撃中に2発目を準備していたユミィが、さらに光弾をぶち込む。
多量のダメージによって目標ターゲットがユミィに切り替わったアイススライムが、その巨体を反転させたところで、
「核が、丸見えヨー!」
挑発に徹していたモコウが、アイススライム背部の露出した核に鉄拳での連撃を叩き込んだ。
ドガガガッ!
と一呼吸で四連撃。
とうとう核が砕け散り、アイスライムが溶けて光の泡になって消えていった。
「分かったかモコウ。こういう耐久力の強いやつは、効果のある攻撃を順番に喰らわせて畳み掛けてやればいいんだ。そしてそのためには、回避の上手いやつが囮になって引きつけておけばいい」
これが連携だ。
一人で相手するよりよっぽど楽に倒せるだろ?
「ダンジョン内では何があるか分からないから、単独戦闘力は高いに越したことはないが、それよりは仲間との連携の練度を上げるほうが効率が良いし、なにより楽しい」
「タキ兄ぃ、自分はずっとソロだったくせによく言うよね」
一般論と俺自身の最高効率は別だからな。
それに今はお前たちと組んでるから、きちんとパーティー連携で動いてるだろ。
「それと、もう少し上の級のダンジョンに潜るようになったら、属性付きのナックルも使ってみるといい」
たとえばこのアイススライムなんかは、雷拳を使えばもっと楽に倒せるぞ。
今回は、使わなくても倒せることを知ってもらうために使わせなかったがな。
「なるほどネー。ター師父、いっぱい詳しいナ!」
「そりゃあ5年も探索者やってるからな」
誰でも知ってることはだいたい知ってるよ。
だからお前らにも教えてやれる。
さぁ、いよいよ次だな。
「行くぞツバサ。今度こそお前のトラウマを片付けるんだ」
それから俺たちは、黒ダンの6層に降りていった。
新装備を引っさげたツバサは、どこか緊張した面持ちで俺のあとを歩いていた。