39話目・楽勝だぜ、と思いきや
白ダンを出て公衆浴場で風呂に入り、「貸し焼き網の店・メラメラ庵」で暴れ兎の肉プラスアルファ(一匹分の肉では食べ盛り3人の腹をいっぱいにするには少し荷が勝ちすぎた)を焼いて食べた。
ここでも俺は、弟子たちのガキンチョっぷりに内心で呆れ果てた。
浅ましく肉を取り合うツバサとモコウ。
お姉さんぶるがピーマンやタマネギを残そうとするユミィ。
まったくもって子供っぽい弟子たちである。
俺は、いずれ来たるシオンさんとの大人のお食事デートに思いを馳せながら、今日のところはバカ弟子たちに腹いっぱい飯を食わせてやった。
「はぁ、幸せ……」
「食べすぎたー、……うぷっ」
「オォー、こんなに食べたのはいつ以来ネ……」
満足したようで良かったよ。
「大満足ヨー! 今日一日だけで、ご馳走みたいなご飯たくさん食べたヨ! ター師父の弟子になって、ほんとに良かたネ!」
まぁ、まだ正式に弟子にするかは検討中だけどな。
「そうなのカ? それならワタシ、明日もいっぱい頑張るヨ! いっぱい頑張て、ター師父に弟子入り絶対認めてもらうネ!」
糸みたいな細目のまま、興奮した様子のモコウが言う。
ずいぶん張り切っているなコイツ。
俺は少しだけ首を傾げた。
「大丈夫だよモコたん! モコたんの戦いぶりってとっても凄いもん! きっと最後はタッキーのほうが頭下げて弟子になってくれって言ってくるよ!」
おいツバサ。
あんまり適当なこと言うなよ。
「そうだぞツバサ。タキ兄ぃがそんな殊勝なこと言うはずないだろ。どうせいつもみたいに横柄な態度で、よし、弟子として認めてやるよ、って年下相手に偉そうに言うんだぜ」
ユミィお前、また鼻っ先を摘まれたいらしいな。
そんなこんなとはしゃぎながらこの日の夜は更けていって、そのあと宿に帰って着替えて寝た。
次の日。
少し考えがあって、今日はツバサとユミィに別行動をさせることにした。
いつものように白ダン5層で跳ねざる相手にレベル1戦闘をし、10体倒せたらKey1に戻して暴れ兎を倒して出てこいと指示してから、俺とモコウは黒ダンに。
「いいかモコウ。今日はひたすら俺のあとについて歩いてこい」
モコウとともに黒ダンのフルマッピングルートをひたすら歩く。
てくてく歩く。
すたすた歩く。
「ター師父、今日はエネミーと戦わなくて良いアルカ?」
戦わなくていい。
というか、不必要にレベルが上がるから、戦わないほうがいい。
俺はさらに歩く。
すいすい歩く。
モコウは、速力の初期値も高ければ生身でも足が早いので、俺が普通に歩いても遅れずについてこれる。
それに歩き方に無駄がないので、足音も静かだしPP切れを心配する必要もほとんどない。
丸一日かけて黒ダンを歩き通し、沼蛇を爆弾3発で倒し、ボス部屋内を歩き回ってから沼に潜って底まで行く。
それからサークルを踏んで地上に戻ると、
「アイヤー! 誰アルカ!?」
と、突然頭の中に聞こえた声に驚くモコウを宥め、ステータスを確認する。
・━・━・━・━・
【名前 イ=モコウ・オーノンノ】
【性別 女】
【年齢 15歳】
★
【消耗度】
HP・95.02/100%
PP・58.77/100%
【ステータス値】
LV・11(stock=0)
知力・F+(12+13)
心力・F(12+6)
速力・D(38+24)
技力・F+(14+11)
筋力・D-(30+19)
体力・E-(18+12)
【装備品枠・20/20】
『マップ(1)』
『レーダーC(1)』
『通信装置(1)』
『緊急脱出装置D(5)』
『アイアンナックル(1)』
『フレキシブルブレード(3)』
『フレキシブルシールド(3)』
『ホバーブーツ(2)』
『こそこそマント(1)』
『暗視ゴーグル(1)』
『水中マスクC(1)』
【所持品枠・0/20】
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これでよし。
モコウもストックが使えるようになった。
「モコウ。もう一度、黒ダンに入るぞ」
だいぶ陽も暮れてきているが、俺とモコウは再び黒ダン入りし、今度は黒ダンの第4階層に行く。
そこには、二足歩行のトカゲのような姿のエネミーの群れがいる。
リザードマンと呼ばれるエネミーだ。
人間と変わらないサイズの二足歩行エネミーで、剣や盾を持って武装しているうえ、群れで連携して襲ってくる。
武器攻撃の練度はそこまでではないが、身体能力は高めであり、囲まれて袋叩きに遭うと中堅どころの探索者でも普通に負けたりする。
今からモコウには、コイツらと戦ってもらう。
「俺は、こそこそマントを着て離れたところで見ている。危なそうな時は弓矢で手助けするが、基本的には一人で戦え」
今までのモコウの動きを見た感じ、一対一ならD級ダンジョンのエネミー相手でも問題なさそうだ。
で、あれば。
「一対多の戦闘でどこまで戦えるか一度確認しておきたい。とにかくたくさんこのトカゲ男たちを倒してみろ」
「分かたアル!」
「囲まれないように気をつけろよ」
モコウが鉄拳をガチンと打ち鳴らして返事とし、トンッと跳ねてからトカゲ男たちに向けて駆け出す。
全力疾走で迫れば当然向こうも気づくので、トカゲ男たちは各々武器を構えて臨戦態勢に。
「ヤアアァァァーーーッ!!」
モコウが雌叫びをあげながら、飛び蹴り一閃。
一番正面にいたトカゲ男を構えた盾ごと蹴り飛ばし、盾を足場に自分はくるりと宙返り。
空中で蹴足を振り抜いて、足先から伸ばした自在刃で2体のトカゲ男を同時に斬りつけた。
「ギャギャッ!」
「ギャーース!?」
斬られたトカゲたちがよろめく隙にモコウは着地。
手近にいた別のトカゲに裏拳、縦拳、鉤打ちを喰らわせてから背後の一体に後ろ蹴りで自在刃を突き込む。
さらに別の一体が剣で斬りつけてくるのをV字型に発生させた小さい自在盾で受け止めつつ、別の一体の盾による突き飛ばしを手甲部分で受けた勢いで飛び下がり、自身はトカゲ男たちの集団から離脱。
「もいっちょヨ!」
一番体勢が崩れている個体目掛けて再び飛び込んで、拳の連打をお見舞いした。
連打を喰らったトカゲ男がダメージ過多で光の泡になり始めた頃には、モコウはその背後にいたトカゲ男たちの脚を水面蹴りで斬り払う。
足首のあたりを斬られたトカゲ男たちがよろめき、その隙に群れから離れたモコウには、トカゲ男たちの反撃は届かない。
少し距離を取ろうとするモコウを無傷のトカゲ男たちが追うが、これにより脚をやられた個体が引き離され、群れの密度が下がる。
そこに一転突撃して拳と蹴り足で無傷のトカゲ男たちを削りつつ、追いかけてきた集団を飛び越えて脚をやられた奴らに追い打ちを掛けにいく。
個体ごとの速度差を作り出してから誘い出して分断し、ヒットアンドアウェイで小分けにした集団を順番に攻撃していく。
機動力と手数の多さを活かした、回避型前衛らしい戦いぶりだ。
「これは、なかなかの掘り出しものだな」
俺は、多数のトカゲ男たち相手に一歩も引かずやり合うモコウに、とうとう一発の助け矢を放つこともしなかった。
そして十数分後。
50体近いトカゲ男たちを倒し、そこら中にドロップ品(装備品のミドルブレードやミドルランス、スモールシールド等だ)を撒き散らしたモコウが、
「ター師父ー! これでどうアルカー!」
と、いつもの細目のままニコニコ笑顔で問うてきた。
「おぅ。上出来だ」
俺は、落ちているドロップ品を拾い集めてからモコウを第5階層に連れていく。
そして。
「それなら最後に、コイツと戦ってみるんだ」
モコウでは絶対に勝てない相手であるアイススライムと、モコウを戦わせることにした。
◇◇◇
「ジ、ジュウミンアー!?」
1分後。
アイススライムに手も足も出ず、モコウは丸呑みにされかけていたのであった。