38話目・リアルファイトが強い奴は幻想体でもよく動ける
先に宿に帰って装備品を見繕いながら待っていたところ、昼過ぎには講習を受け終わった弟子たちが帰ってきた。
「ただいま〜〜……」
すでにツバサがヘトヘト顔だ。
お前、大丈夫か?
「ユミィちゃんに、めちゃくちゃ脇腹つつかれた……」
どうせそれはお前がすぐに寝ようとするからだろ。
それより、講習の内容は理解できたか?
「……なんか、いつもタッキーが言ってることを、タッキーが言うより小難しく言われた気がする……」
ツバサが、断りもなく俺のベッドに飛び込んで突っ伏した。
そのまま動かなくなったので、俺はユミィを見る。
「一応、寝ずに聞いてはいたよ、ツバサ。……理解できたかは、正直非常に怪しいけどね」
そうか。
まぁ、寝なかっただけまだ進歩したほうか。
「アイヤー……、ワタシも、ちょとチンプンカンプンね……」
モコウも疲れた顔をしているな。
そんなに難しかったか?
「ウー……、知らない言葉と言イ回しガ多かたヨー……」
なるほどな。
「それならお勉強が済んだことだし、昼飯食ったら運動にするか?」
皆で白ダンに行って、モコウがどれだけ動けるか確認してみよう。
ちなみに昼飯は、勉強もっと頑張りま賞としてハンバーグにした。
ツバサがバカ丸出しの勢いで食べて口の周りをソースでベタベタにしていたので、ユミィに拭いてもらっていた。
恥ずかしい奴め。
ちなみにモコウも食べ終わった皿のソースをペロペロ舐めていたので、ユミィにやんわり嗜められていた。
食い意地の張った奴め。
そして歳下2人の前でお姉さんぶってたユミィは、途中でジュースの入ったコップを倒して服がジュースまみれになり、ギャアギャア騒いでいた。
やかましい奴め。
俺は、バカ弟子たちに飯の食い方もいずれきちんと教えてやろう、と心に誓ったのだった。
◇◇◇
さて、まずは白ダンで一通りの確認をしていく。
確認したところ、モコウの幻想力は3万5000PPぐらいで俺とツバサの中間ぐらいの量だと分かった。
これでも普通の新人と比べれば全然多い。
この街に住む探索者以外の人たちの幻想力は多くても1万PP前後(以前、調べさせてもらったことがある)だからな。
そしてモコウを幻想体で歩かせてみたが、クンフーとやらを習っているおかげかめちゃくちゃ無駄のない歩き方ができている。
すでにツバサの倍は効率が良い。
つまり、モコウは歩行時のPP消費をツバサの半分ぐらいに抑えられているというわけだ。
これは非常に素晴らしいことだ。
歩き方講座に時間を割かなくてすむ。
さらにモコウに拳用の装備品である「アイアンナックル」(拳部分にトゲのついた手甲みたいなやつだ)を装備させ、試しにエネミーと戦わせてみたが、
「オォー、なんか思たより脆いネ」
第1階層のレンガまいまい、第2階層の毒トカゲ、第3階層の下級怪鳥ガララ、第4階層のツノイタチと、どれもほぼ瞬殺だった。
鋭い拳を二、三発叩き込めばエネミーが吹き飛んでいくし、それで倒せなければさらに間合いを詰めて追撃の拳を叩き込む。
幻想体の初期ステで速力と筋力が高かったとはいえアイアンナックルの威力なんてたかが知れてるわけだから、これはほぼモコウの素の実力というわけだ。
うん。素晴らしいな。
「けど、蹴り技使えないからちょと窮屈ヨ。なにかないアルカ?」
蹴り足用の装備品はないが、モコウなら扱えるかもしれないと思い、モコウに自在刃を装備させてみた。
これは使用者の意思で自在に形を変えられる刃で、手に持つだけでなく、体内を経由して幻想体の好きなところから刃体を飛び出させることもできるものだ。
これで蹴りの瞬間に足先から刃を出せば、一応蹴り足でも攻撃できるようになる。
で、何度か試し蹴りをしてみて、いけそうだというのでモコウを跳ねざると戦わせてみたところ、
「オォ、スパッといったヨ!」
なんと、初見で跳ねざるの跳躍軌道を見切り、上から飛びかかってくる跳ねざるにカウンターの後ろ回し蹴りで自在刃を当てて真っ二つにした。
すげぇな。クンフー。
「あ、あんな簡単に……!?」
「嘘だろ。ボクたちがどれほど苦労したと思ってるんだ……」
と、跳ねざるに苦戦していた2人が愕然としている。
さもありなん。
白ダン初挑戦で跳ねざるを倒せる奴は珍しいからな。
これ、このまま暴れ兎まで倒せるんじゃないのか?
「このグネグネナイフ、とてもイイヨ。これさえあれば手甲いらないネ」
と、モコウが言うが、俺はアイアンナックルは外さないほうがいいと伝えた。
「オー? どしテ?」
アイアンナックルは前腕部まで覆ってくれているから、エネミーの攻撃を腕で受けることもできる。
だが、自在刃は手甲のように防御に使うことができない。
耐久力が低いから、防御に使うとわりと簡単に破壊される。
「自在刃はあくまで斬撃用の装備品だ。盾や防具のような使い方は推奨しない。とっさに受け太刀するぐらいならいいが、それ以上は耐えられないと思っておけ」
「それならタキ兄ぃ、自在盾は?」
自在盾か。
将来的には使えばいいと思うが、今はあまり使い物にならない。
「自在盾の耐久力は知力の高さによって変わるからな。今のモコウの知力だと、自在刃とたいして変わらん」
ツバサに自在盾でなく防具を装備させているのも同じ理由だ。
知力・Gの出力だとクソの役にも立たんのだ。
「ユミィぐらい知力が高ければ自在盾一つで大半の攻撃は防げるようになるが、普通はそうじゃないんだよな」
「へー、そうなんだね」
しかし、逆に言えば知力を上げれば解消することなんだよな、そのあたりは。
「……ふむ、そうだな。試しに使ってみるか?」
「あれ、急にどうしたの?」
いや、なに。
出したり動かしたりする感覚は今から使って慣れててもいいな、と思っただけだ。
それに、表面積を小さくすればその分強度を上げられるからな。
慣れれば白ダン黒ダンのノーマルエネミーの攻撃ぐらいなら、モコウなら捌けるようになりそうだ。
ということで、モコウに自在盾も装備させて何度か跳ねざると戦わせたあと、暴れ兎に挑ませてみたところ、
「ちょとヒヤっとしたけど、倒せたヨ!」
鈍重な暴れ兎には手も足も出させず、モコウが一方的に殴り勝った。
ぱっと近づいて殴って蹴って。
攻撃される前に素早く離れて。
このヒットアンドアウェイをひたすら繰り返すだけで倒せてしまった。
というかコイツ、銅貨サイズぐらいまで小さくして頑丈さを高めた自在盾で、振り下ろす前の暴れ兎の腕を押さえたり、足払いをしてコケさせたりしてたな。
当然、あれだけ小さくすると狙ったところに当てたり攻撃を受け止めたりするのはより難しくなるもんなんだが、そのあたりも軽くこなしている。
格闘のセンスもそうだが、装備品の操作センスも申し分なし、か。
ふむ。こいつはなかなか……。
「ター師父! 美味しそうなお肉が出てきたヨ! 今日はこれ焼いて食べたいアル!」
と、暴れ兎の肉を持ち上げて無邪気にはしゃぐモコウに、俺は「……しょーがねーな」と答えたのであった。