37話目・クンフー娘の適性を確認する
「あらためて自己紹介アルヨ。ワタシ、イ=モコウ言うヨ。オーノンノ族の末裔、コ=マァチの娘ネ」
「俺はタキオンだ。こっちの栗色髪がツバサで、こっちの白髪がユミィだ」
モコウと名乗る胡散臭い喋りの赤髪糸目娘を連れて飯屋に行き、丸テーブルに一緒に座って注文をする。
そしてお互い自己紹介をしてから、俺は本題に入った。
「モコウ。お前、探索者になるためにアカシアに来たと言ったな。歳はいくつだ?」
「少し前に15歳になたヨ! 15歳なたら、探索者できる聞いたネ!」
ツバサと同い年、か。
まぁ、そんなもんか。
背丈はツバサより少し高いが、それは手足の長さによるものだろう。
すらっと伸びているが肉付きのバランスが良い。運動ができるタイプの体つきをしている。
「ワタシこれでも、パッパから功夫習てるヨ! だからダンジョンエネミーも余裕ネ! それにたぶんター師父ぐらいなら、ワンパンでケーオーできると思うヨ」
ああ、やはり生身でも動けるタイプだな。
それにクンフーというなら、徒手格闘に寄ったやつか?
幻想体のステータス次第だが……。
「回避型の前衛向き、か?」
それならそれほど悪くない。
いやむしろ、ツバサとユミィと組ませるなら、ポジションがピッタリハマるぐらいだな。
「回避型って、なぁに?」
ツバサが首を傾げた。
簡単に言うとだな。
「相手の攻撃を避けつつ、手数の多さとクリティカルでダメージを狙う前衛だ」
ツバサの、しっかり防御してカウンターで重い一撃をズドンと狙うタイプとは、同じ前衛だが真逆のスタイルとも言えるな。
「へー! てことはつまり、アタシとモコたんは並んで前で戦うってこと?」
まぁ、俺の弟子になるなら、その可能性は高い。
「なるほど! それならモコたんよろしくね!」
「こちらコソ、よろしくヨー、ツバサ」
ツバサとモコウが顔を見合わせてニコニコし合う。
するとユミィが面白くなさそうに口を開いた。
「タキ兄ぃ。ボクはまだ、新しい弟子は気が早すぎると思うぜ? ボクとツバサの連携だって、やっと少しずつモノになってきたばかりだってのに。そこに新メンバーを加えるのは、リスクが高くないか?」
まぁ、ユミィの言うことももっともだ。
その言葉の本意が、友達に新しい友達ができることへの悔しさとか妬ましさだとしても、な。
「モコウ。お前まだ探索者登録はしてないんだな?」
「まーだだヨ。一昨日の夜に外門前に着いて野宿シテ、昨日の朝に街に入ってウロウロしてたら宿取り損ネて路地裏で野宿しタネ。今日こそはナニか食べてベッドで寝たいヨ!」
てことはコイツ、数日は風呂入ってねぇってことか。
……汚ねぇな。
「……とりあえず、探索者登録してダンジョンに入れるようになるまでは、正式に弟子にするかどうかは、一旦保留にする」
明日、探索者協会に連れていって登録手続きを手伝ってやるし、初心者講習の受講手続きも手伝ってやるから、まずはそこからだな。
「ここの飯代と、このあとの風呂代と、宿の宿泊手続きはひとまず面倒見てやる。そこから先は、正式に弟子入りになればまた考える」
「オー。ター師父、アリガトね」
……さっきからター師父というのは、もしかしなくても俺のことか?
何故どいつもこいつも俺のことを変なアダ名で呼ぶんだ。解せん。
「弟子になったら、俺の指示にはきちんと従ってもらうぞ。諸々のカネも、稼げるようになったら返してもらうからな」
「良いヨー。あ、ケド、カネの代わりでエチチなこととかは、ダメよ?」
「安心しろ。俺はお前たちみたいなガキンチョには興味ねぇ」
だからそういうセリフは、あと5年は成長してからにしてくれ。
「お待たせしましたー」
と、ちょうど話が一区切りしたところで、それぞれ注文した料理がやってきた。
「とりあえず、食うか」
「うん! いただきまーす!」
俺は、魚の食べ方も知らん弟子3人の面倒を見て、仮弟子に風呂と着替えと寝床(ユミィの部屋にベッドを追加した)を用意してやってから、この日を終えた。
翌日。
弟子たちを連れて屋台通りに向かう。
モコウが迷惑かけた屋台で詫び料代わりに朝飯(麦飯卵雑炊だ)を買って食べ、皆で探索者協会に向かった。
モコウの探索者登録と初心者講習の受講のためだ。
ついでに。
「ええー!? あたしも一緒に聞かないとダメなの!?」
居眠りして全く話を聞いていなかったらしいツバサにも、もう一度しっかり講習を受けるように伝えた。
大事な話だからな。
一緒にちゃんと聞いとけ。
どうしてもと言うなら、ユミィも一緒に受講してもいいぞ。
「は? ボクは……、」
「ほんと! お願いユミィちゃん! あたしが寝そうになったらコッソリ起こして!!」
「ワタシもお願いヨー。言ってること分からなかたラ、後で教えてほしいアルネ!」
と、2人にお願いされたユミィは「し、しかたないなぁ!」とまんざらでもなさそうな表情で受講を決めた。
うーん、チョロい奴。
そんなこんなと話していると、協会に着いた。
ここに来るのは、先日正式なパーティー登録をしたとき以来だな。
さて、窓口には誰がいるかな。
「探索者協会にようこそ。……って、セリウス君か。今日はどうしたの?」
お、ラッキー。
一番話の通じる人だ。
「エリーゼさん、おはようございます。新規で探索者登録したい奴がいたので、案内してきました。登録手続きと、3人分の初心者講習をお願いします」
エリーゼさんは新規登録の用紙を取り出しながら、俺の背後にいるモコウを見た。
「……また若い子。セリウス君、最近節操がなさすぎじゃない?」
「何を言ってるんですか。単なる弟子候補ですよ。モコウ、書けるか?」
「アイヤー、ちょと自信ないネ。ター師父、読んでくれたら口で答えるから、書いてほしいネン」
はいはい。
「弟子というわりには女の子ばかりだけど。いったい何を教えてるの?」
「探索者の基礎ですよ。歩き方戦い方カネの稼ぎ方などなど。初心者講習の延長みたいなもんですね。おい、出身国は?」
「産まれ自体はこの国ヨ? ママの故郷は遠い西のほうだケド、パッパはこの国のヒトなのネ」
そうなのか。
それならあとはサラサラっと仕上げて。
「エリーゼさん、お願いします」
「……はい、確かに」
渋々といった様子で登録用紙を受け取り、代わりに未使用の識別票を取り出すエリーゼさん。
識別票を登録機に差し込むと、幻想力を込めて起動した。
「ほら、モコウちゃん。この上面のガラス部分に利き手の平を当ててちょうだい」
モコウが右手の平を当てると、ガラス面が発光してモコウの情報を読み取り始める。やがて発光が止まると、差し込んでいた識別票がガシャンと出てきた。
「はい、どうぞ。新たな探索者を、私たちは歓迎します」
識別票を受け取ったモコウのステータスを確認すると、こうだった。
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【名前 イ=モコウ・オーノンノ】
【性別 女】
【年齢 15歳】
【消耗度】
HP・100.00/100%
PP・100.00/100%
【ステータス値】
LV・1
知力・F-
心力・F-
速力・E
技力・F-
筋力・E-
体力・F
【装備品枠・0/20】
【所持品枠・0/20】
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……うん。
回避型の前衛向きのステータスだな。
これなら……。
「ちょっと考えるからお前らは勉強してこい」
俺は、とりあえず弟子3人を講習に行かせてから、モコウの育成方針を考える始めたのだった。