35話目・成長を実感し、進展する
◇◇◇
さてさて、白ダンレベル1攻略を始めて1週間が経過した。
俺たち3人は毎日幻想体を再作成し、レベル1状態(途中でレベルが上がってもストックの効果で勝手にステータスが上がらないのだ)で白ダンに挑んでいる。
今日も、先ほど俺が暴れ兎を倒して白ダンから出てきたところだ。
「うぅ……、もう少しなんだけどなぁ……」
「あのクソ猿のジャンプのタイミングは掴めてきた……! あとは弾速と距離から発射タイミングを合わせることと、状況に応じて狙う部位を素早く選ぶことを……!」
跳ねざる退治の安定化もそれなりに進んできた。
不規則な動きに釣られずしっかり防御してから反撃することと、動きを読んで弾を置きにいくことを覚え始め、今日だけで5体倒せている。
これが、ほぼノーダメージで10体倒せるようになれば、次は低レベル状態での暴れ兎退治安定化だな。
流石に暴れ兎をレベル1で相手しろとは言わない。
それは俺でも危険を伴うことがあるからな。
まず、ある程度ステータスを上げた状態で戦い、そこから戦闘回数を重ねるごとにステの上昇量を減らしていく。
最終的には、最低限どの程度のステがあれば暴れ兎退治ができるのか、それを知ってもらうのが狙いだ。
「よし、あたし宿に戻って素振りしてくる! それからキャッチボールね!」
と、昼飯のあとツバサはユミィを連れて先に宿に戻った。
風呂の前に装備品の素振りを済ませておきたい(汗だくになるしな)らしく、最近は昼過ぎに白ダンを出て昼飯を食ったら走って宿に帰るようになった。
そしてユミィも、射撃系装備品の軌道計算力向上にはキャッチボールが有効(制球力と捕球力を上げると、目に見えて射撃系装備品のコントロールも上がるのだ)であることを伝えたところ、ツバサと毎日ヘトヘトになるまでキャッチボールをするようになった。
おかげで俺は午後から時間が空くようになったので、黄ダンで生活費稼ぎをしたりカトスたちに簡単なレクチャーをしてやったり、たまに自己鍛錬したり(ツバサたちと会ってから走り込みや筋トレをあまりできていなかったからな)もしている。
生身の肉体もしっかり鍛えてあると幻想体になった時にもしっかり動けるからな。鍛錬は大事だ。
ただまぁ、今日はそういったことはしない。
このあと大事な用事があるからな。
俺は着ているシャツの襟を正し前髪を整えてから、爆弾の店「アルケミー・バクエンバクエンバクエンエン!」に赴いた。
そして店内を軽くて見回して、会計カウンターに座って店番をしているシオンさんを見つけた。
「こんにちは! シオンさん!」
「あ、いらっしゃい。セリー君」
おお、今日もお美しい……!
俺はシオンさんの御尊顔にウキウキしながら、会計カウンター前に行く。
「お約束の赤石、手に入りましたよ」
それから先日茶ダンで入手した「太陽の赤石」を会計カウンターの上に置いた。
すると、シオンさんがとても驚いた表情を浮かべた。
「えっ! もう取ってきてくれたの! すごいね!」
シオンさんはカウンターの上の赤石を手に取ると、光にかざして色味を確かめる。
そして本物だと分かると、ぱっと花が咲いたような笑顔を俺に向けてくれた!
うおおっ!
な、なんと眩しい……!
俺はシオンさんの笑顔の輝きに目を潰されそうになった。
「ありがとうセリー君! セリー君にお願いして良かった!」
シオンさんが喜んでくれて本当に良かった!
「いえ、お役に立てたようでなによりです!」
「本当に助かるよ。どこ探しても売ってなかったから、困ってたの。……あ、ちょっと待っててね!」
シオンさんがパタパタと店の奥に引っ込み、少しして布袋を持ってきた。
「これ、今回の買取金! ……あー、でも。この赤石、思ったより質が良いなぁ。これだと、ちょっとお金が足りないかも……」
いえいえ、そんな!
「シオンさんのお役に立てればと思ってしたことですので、金額なんて気にしませんよ」
「んー、でも、それは私の気が済まないというか……、あ、そうだ!」
シオンさんがポンと手を叩いた。
「それなら今度、ご飯ご馳走させてよ。叔母さんオススメの美味しいところがあるんだけど、一人で行くのはちょっと寂しくてさ。セリー君さえ良ければ、付き合ってくれない?」
な、な、なんだって……!?
それは、お食事デートというやつではないんですか……!?
「お誘いいただきありがとうございます! 喜んでお供します!」
「ほんと? 良かったぁ。それじゃあちょっと、お店に問い合わせしてみるね。セリー君は、いつが都合良いとかある?」
「いつでも空いてます! 空いてなくても調整しますので、いつでも大丈夫です!」
「そう? それなら、また日取りが決まったら叔母さん経由で連絡するね?」
はい!
お願いします!
こうして俺は、シオンさんとのデートの約束を取り付けてしまった。
ふふふふふ!
やったぜ!!
俺がウキウキ気分でスキップしながら宿に戻ると、バカ弟子2人が宿の裏路地でキャッチボールをしているのが見えた。
……お、少し見ないうちに、2人とも投球フォームがサマになってきたな。
特にツバサ。
アイツ、ちゃんと練習したら球威も制球もぐんぐん良くなってきてるんだよな。
生身の身体であれだけの球を投げられるなんて、あいつわりと才能があるぞ。
ユミィのミット、綿二倍で入れてるのにキャッチのとき良い音してるもんな。
「……ふむ」
俺は、今度ツバサに新しい装備品を使わせてみようと思いながら、自室に戻ったのであった。