32話目・天才型の凄さを教えてやる
俺が白ダンレベル1攻略を提案すると、弟子2人は揃って首を傾げた。
「わざわざ、レベル1で挑むの?」
弟子一号のツバサが不思議そうに言う。
「ああ、そうだ。俺もスペアキー3の幻想体を完全破棄して再作成し、お前たちと同じレベル1で挑む」
つまり今回は、レベル1探索者の3人組という想定で白ダンを潜るということだな。
まぁ、想定というか実際にレベル1なんだが。
「はい、タキ兄ぃ。質問いいかな」
弟子二号のユミィが、すっと手を挙げた。
「良いぞ。なんだ?」
「皆揃ってレベル1からというのは、どういう意図があるのさ」
いくつか目的があるが。
ひとつは、お前たち自身の練度を高めるためだ。
「お前たちは、今まで幻想体を完全破棄して再作成したことはあるか?」
俺の質問に、2人揃って横に首を振った。
まぁ、お前たちの幻想体は非常に良いステータスの伸び方をしているから、再作成する必要もなかっただろうしな。
それは仕方ないか。
「なら、幻想体のレベルが上がって今まで倒せなかったエネミーを倒せるようになったときに、こう感じたことはないか?」
確かに幻想体のレベルは上がったが、自分自身のレベルは、はたしてどれぐらい上がったのだろう、ってな。
「……?」
「あー、なんとなく分かる。ステータスが上がると弾の威力とか連射数は増えるし、生成分割照準射出までの一連の速度とか、当たる瞬間の位置の自動補正とかも良くなるけど。そういうのを抜きにしたら、どれぐらい自分自身は戦うのが上手になってるんだろう、ってのは思ったことがある」
「ユミィちゃん、そんなこと考えてるの……!?」
逆にツバサは、そういうことを一度も考えたことがないのか?
「え。だって、一回作った幻想体を捨てるのなんてもったいないから、そんなことするつもりなかったし。するつもりのないことって、普通考えたりしないでしょ?」
……まぁ、その言い分も分からんでもない。
全く選択肢の土台に乗らないこと(俺がツバサとのデートコースを考えたりとか、ユミィへのプロポーズの仕方を考えたりとか)を考えるのは、脳ミソの無駄遣いだからな。
「だが、今後は幻想体の再作成は頻繁に選択肢として現れるようになる。だから、これからちょっとは考えるようにしろ」
「はーい!」
「それで、だ。俺はそういうのがめちゃくちゃ気になる性分だから、色々調べてみた。その過程で何回も幻想体を再作成して育成し直して、データも集めた」
「あー。タキ兄ぃ、そういうの好きそう」
それで分かったことがいくつかある。
「まず、幻想体のレベル1時点における初期ステータスは、その個人に対して一定の数値が割り振られている」
例えば俺が幻想体を何回再作成をしたとしても毎回同じステータス値が出てくるし、ツバサにはツバサの、ユミィにはユミィの決められたステータス値がある。
同じ人間の幻想体でステータス値に差が出るのは、レベルが上がってステータス上昇可能量がランダムに割り振られ始めてからか、
「再作成時に、極低確率で天才型の乱数を引いた時だけだ」
「天才型って、なに?」
ツバサがまた首を傾げた。
「ボクみたいな人間のことさ」
ユミィがドヤ顔でほざくが、まぁ、あながち間違いでもないかもしれない。
ユミィ、Key1の幻想体のステータスを見せてみろ。
「? 前に見せたじゃん」
いや、ストックを使えるようになると、ステータスの詳細な数値が見えるようになってな。それを見ると通常型か天才型が分かるんだ。
「へー。それならいいよ、ほら」
ツバサの識別票を受け取って、ステータスを表示させてみた。
・━・━・━・━・
【名前 ユーマリオン・テンドローム】
【性別 女】
【年齢 16歳】
★★
Key1
↓
↓
【消耗度】
HP・100.00/100%
PP・100.00/100%
【ステータス値】
LV・51(stock=0)
知力・S+(67+123)
心力・S(61+89)
速力・C-(45+23)
技力・A+(48+67)
筋力・D-(11+41)
体力・C(38+37)
・━・━・━・━・
……初期値の合計が270、か。
「マジで天才型だな」
「ほらなー!」
「え、え、どゆことどゆこと??」
バカにも分かりやすく言うとだな。
「ユミィは、レベル1でも、クソ強い」
具体的には、他のやつのレベル15前後のステータスと変わらないぐらいのステータス値がある。
「そうなの? つまり、……ユミィちゃんがすごい、ってコト!?」
まぁ、天才型がすごいとも言えるし、天才型を引き当てるユミィの強運がすごいとも言える。
「通常型の幻想体は、ステータスの初期値の合計が50から150の間になるんだ。それと各項目の最大値は30で、1項目だけ40が最大値になる」
例えば俺の初期値の合計は85だし、ツバサも確か130ぐらいだったはずだ。
「それに対し天才型は、初期値の合計が200以上で、おそらく300までの間だ。各項目の最大値も60までで、2項目だけ70まで伸びる」
つまり、最初から倍近く強い。
いや、ステータスの補正の効き方から考えると、3倍は強いな。
「俺はこの2年間で幻想体の再作成を2000回近くやっているが、天才型が出たのはたったの4回だけだ。おおむね500回に1回ぐらいの確率でしか、天才型にはならない」
言い換えれば、天才型の幻想体で探索者をしているのは、500人に1人ぐらいしかいないってことだ。
「レベル帯と実際のステ値に乖離がある人は、天才型の可能性が高い。それかよっぽど良い伸び方をしたか、あるいはその両方だ」
とにかく、天才型はすごい。
それだけは、確かだ。
「その事実を踏まえたうえで、あらためて自分のKey2のステータスを見てみろ」
ツバサとユミィはそれぞれ自分のタグプレートを操作してKey2に表示を変えた。
まず、ツバサのKey2の表示は。
・━・━・━・━・
【ステータス値】
LV・1(stock=0)
知力・G(5+0)
心力・F(23+0)
速力・F+(25+0)
技力・G+(9+0)
筋力・E(40+0)
体力・F+(28+0)
・━・━・━・━・
これだ。
次に、ユミィのKey2の表示が。
・━・━・━・━・
【ステータス値】
LV・1(stock=0)
知力・E(40+0)
心力・E-(30+0)
速力・F-(16+0)
技力・F+(24+0)
筋力・G+(6+0)
体力・G+(9+0)
・━・━・━・━・
これだ。
2人とも、今回のは通常型だな。
「あー、これこれ。確かにこんな感じだった」
「なんだこのクソステータス……! あまりにも低過ぎじゃないか!?」
ユミィが愕然とした様子で言うが、それでもユミィの初期値は俺の初期値の約1.5倍はあるからな。
俺よりはだいぶマシな数値だよ。
「マジで? そんなに低くて、このあとまともに戦えるの?」
そう。そこがポイントだよ。
「幻想体をレベル1にして探索するってことはな、自分自身の練度をあげないとどうしようもない状況ということだ」
そして毎回ダンジョンに潜り直すたびに幻想体を再育成していれば、常に幻想体のレベルを一定に保った状態でダンジョン探索できるということであり、
「つまり、自分自身の練度がどれぐらい上がったか効果測定しやすいというわけだ」
安定したダンジョン探索のためには、自分の実力を正確に把握したうえで、自分の実力を安定して発揮できるようにならなくちゃいけない。
「今日の探索はそのための第一歩だ。慣れるまでは色々たいへんだと思うが、頑張って慣れてくれ」
さぁ、今日も元気に白ダン潜りだ。
お前ら、気合い入れていけよ。