24話目・引き継ぎと野暮用
◇◇◇
「おお、タニキじゃないですか! ちーっす! おはざっす!」
ユミィにビンタされてから1週間たった。
今日はツバサの気分転換(ずっとガマ相手に爆弾を投げ続けるのもさすがに可哀想だしな)を兼ねて、白ダン歩き方講座をしようと思っていたのだが、白ダン門前でカトスたちのパーティーと出くわしてしまった。
マジか。
お前たち、なんで白ダンにいるんだよ。
この前、黒ダンクリアしたから次は緑ダン行ってみるって言ってたじゃねぇか。
「はい! タニキが毎日のように白ダンに潜ってたという話にあやかって、俺たちも白ダン周回をしてみてるんです! あ、もちろん午後からは緑ダンにも行くっすよ!」
白ダンだけじゃ儲からないですから〜、とカトスは笑う。
「……そうか。……ちょうど今日は、ツバサに白ダンでの効率的なカネ稼ぎルート1を教えてやろうと思ってたんだが、カトスたちも一緒に来るか?」
「マジっすか!? ぜひお供させてください!」
そういうことになった。
もっとも、カトスたち5人がぞろぞろついてきても邪魔なので、カトス以外の4人は黒ダンに行くように指示した。
そもそも5人いるなら2人と3人に別れて別々のダンジョンに潜るほうが効率が良いんだぞ。
ある程度慣れてきてレベルも上がったら、パーティー分割も一度試してみるといい。
「なるほど……! 勉強になるっす!」
カトスは、ひどく感銘を受けたような表情で熱心にメモを取る。
……コイツ、こういうところはひたむきで好感が持てるな。
「おいツバサ、見てみろ。これが人にモノを教わるときの正しい態度だぞ」
お前みたいにボケッとした顔で首を傾げるんじゃなくて、あとで見返せるようにメモとか取るもんだ。
「えー。けど、メモしてもすぐに失くしちゃうからなぁ。それにタッキー、聞いたら何回でも教えてくれるし」
と、ふざけたことをぬかすツバサの脳天にチョップを喰らわして(生身なので、痛さでしばらく悶えていた)から、俺たちは白ダンに入る。
ちなみに、一時的にパーティーを組んだのでカトスのステータスを見せてもらった。
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【名前 カトス・カンボス】
【性別 男】
【年齢 15歳】
【消耗度】
HP・100.00/100%
PP・100.00/100%
【ステータス値】
LV・18
知力・E-
心力・E-
速力・F
技力・D-
筋力・D-
体力・E
【装備品枠・10/20】
『マップ(1)』
『通信装置(1)』
『緊急脱出装置D(5)』
『ロングブレード(3)』
【所持品枠・0/20】
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うん。普通だ。
まぁ、ブレードを使う戦士としてなら、順当な伸びとも言える。
俺は、元気なバカとひたむきなアホを引き連れて白ダン内を歩きながら、俺オススメのアイテムポップポイントを順に回っていく。
「ここの双子岩山の頂上では、卵が手に入る」
「ここの雑木林では、ハチミツが手に入る」
「ここの沢の水だけは、アイテム扱いだ。綺麗な水が手に入る」
「ここの丘の上の花畑では、種や球根が取れるぞ」
などなど。
昔の俺が毎日のように歩き回っていた回収コースをなぞって歩きつつ、カネになるアイテムの集め方を教えてやった。
「すげぇ……! タニキはこうやって稼いでたんですね!」
「けどなんか、思ったより地味だね」
地味でも良いんだよ。
安定するなら、それに越したことはない。
「俺は、穏やかで安定した毎日を送りたいんだ」
そんなこんなと話しながらダンジョンを進み、最後に暴れ兎を倒して終わりにする。
今回も弓の三連射で両目と額を射抜き、追加で心臓にもう一発撃ち込んでしとめた。
ちっ。額への一発が、若干クリティカルポイントからズレたな。
覚えてろよ。
次は三連射でしとめてやるからな。
「はっ……!? す、すげぇ……! タニキ、弓ヤバいっすね!」
と、本職の弓士が聞いたら鼻で笑うだろうセリフを聞き流しながら暴れ兎の肉を回収し、3人揃ってサークルを踏む。
地上に戻って、俺がよくドロップ品を売りに来ている店を回ってカネに替えると、俺たちはカトスと別れて昼飯に向かった。
そして昼飯を食いに来た飯屋で、少し不穏な話題が聞こえてきた。
「おい、あの白チビ女どうする?」
「いや、もういいだろ。わざわざ行ってやる必要もねぇよ」
「そうそう。惜しかったが、仕方ないさ」
……こいつらは。
俺は、その会話をしている男たちのテーブルに近づき、袖の下用の小銭入れをテーブルの上に置いて、訊ねた。
「よぅ、お前ら。最近新入りと一緒に茶ダンに挑んでたな。調子はどうだ? うまくやってるか?」
男たちは顔を見合わせると、ゲラゲラと笑い合う。
「ははは! 最悪だぜ! 全然こっちの言うこと聞かねーし、勝手なことばかりしやがるからな!」
「まったくだぜ! ま、ここだけの話だが、今日もちょっと色々あってな。最後は砂鮫たちの群れに襲われて、皆まとめて落ちちまったってわけよ」
それは災難だったな。
で、今はその新入りを除け者にして、お前たちだけで残念会か?
「そういうこった。だがまぁ、残念というほどでもないな」
「厄介払いができそうだもんな! ……まったく、あいつももう少し賢けりゃあよかったのによぉ」
そうか。
まぁ、分かった。邪魔したな。
俺は自分のテーブルに戻ると、真剣な表情でメニューを見つめて何を食べるか考えているツバサに、
「悪い。ちょっと用事ができた。午後からは好きにしててくれ」
と、カネを渡しながら伝えたのだった。