18話目・追放劇は突然に
◇◇◇
カトスたちを白ダンでボコってから数日後。
俺とツバサは黒ダンの中を歩いていた。
俺もツバサもホバーブーツとこそこそマントを使用し、ぬかるみのところも構わず歩き続ける。
そう。
今度はツバサに黒ダンの完全踏破攻略をさせるためだ。
この黒ダンをクリアして、俺はストックという特殊スキルを得ているわけだが。
今回の探索で、ツバサにもストックを取得させたい。
そして、先ほど第5階層のフロアボスであるアイススライムを倒したところで、俺たちは今第6階層を歩いているところだ。
俺は、小高い丘を登りながらツバサに講釈を垂れる。
「まぁ、お前もなんとなく理解していると思うが。俺には以前に教えたスペアキーの他にも、いくつか秘密にしている特殊なスキルがある」
「なるほどー!」
「で、それらの大半は、白ダンでお前も体験したようにダンジョンの完全踏破によってもたらされるものだ」
「なるほどー?」
「……おい、分かってないなら、ちゃんと聞き返せよ?」
「いや、大丈夫だいじょうぶ! マップ全部埋めたら不思議なチカラが手に入るってことでしょ!」
……まぁ、間違ってはないが。
「俺は、この黒ダンでストックというスキルを手に入れている。お前もこのスキルを手に入れることができたなら、お前の幻想体の育成が別次元に進化するはずだ」
「ストックね! 分かった! けど、それを手に入れたらどうなるの?」
まぁ、詳しいことは、ちゃんと取得できたら教えるよ。
「それよりも。お前はもっと静かに歩け。相変わらず、動きに無駄が多いぞ」
「ええ〜、だいぶマシになったでしょう?」
「そりゃあ、以前と比べればな。だが、まだまだ無駄を削れる。歩き方なんて普段意識してないものだから、逆にきちんと意識して修正していかないと、いつまでも綺麗にならないぞ」
「むーー……」
ふくれっ面をするが、ダメなものはダメだ。
「お前は確かにPPが多いが、だからといって無駄遣いをしていいわけじゃあない。こういう比較的難易度の低いところで基礎を磨いておかないと、さらに上の級のダンジョンで痛い目を見ることに、……おっと、止まれ」
俺が手を上げて立ち止まると、ツバサも立ち止まる。
ここから先は、なだらかな下り坂になる。
すなわち、コイツにとっては忘れ難い難敵であるはずの、地雷ガマたちの密集地帯だ。
当然、ここもきちんと歩く。
「お前にとってここはトラウマスポットかもしれんが。いずれは鼻歌混じりに通過できるようになる場所だ。だから今のうちに慣れるようにしておけ」
そう言って、振り返ると。
「…………ま、まかせとけーぃ……」
ツバサが、真っ青な顔で空元気みたいなセリフを吐いた。
……今日はダメそうかも。
◇◇◇
その日の夜更け。
俺たちはようやく黒ダンから帰還した。
「……あ、なんか、頭の中でストックがどうとかって言ってる」
疲れ果てて死んだ魚のような目をしたツバサが、そう俺に報告したが。
「……いや、なんでお前まで疲れたような顔してんだよ。疲れたのは俺のほうだよ!」
なにせ、第6階層の地雷ガマ地帯から先、俺はずっとツバサを背負って歩いたんだからな。
「お前を背負って完全踏破したからめちゃくちゃ時間かかったわ! もうすっかり夜じゃねぇか!」
「それはタッキーが、私が無理って言うのに無理やり先に進むからでしょ!? 腰が抜けて歩けないんだからおんぶぐらいしてくれても良いじゃん!!」
「してやっただろうが! だから余計に疲れたって言ってんだよ!」
「そんなに言うならまた今度にすれば良かったじゃん!」
「一回出たらまた最初からやり直しなんだよ! めんどくさいだろ! だったらもう、残り半分ぐらい気合いで進んだほうがいいだろうが!」
「タッキー気合いとか根性とか好きじゃないって言ってたじゃん! こういうときだけ良いように使うのズルいよ!」
くっ、ああ言えばこう言う……!
コイツ、普段の言動はバカ丸出しだが、こうやって即断で言い合うときはなかなかどうして侮れんことを言うんだ。
「というかさ、なにはともあれストックを取得したんだから、どういうものなのか教えてよ」
「……仕方ねぇな。ほら、識別票を出してみろ」
ツバサは「はーい」と頷き、素直に自身のタグプレートを俺に渡してきた。
そこには、こう表示されている。
・━・━・━・━・
【名前 ツバサ・シノノメ】
【性別 女】
【年齢 15歳】
★★
Key1
↓
↓
【消耗度】
HP・93.04/100%
PP・29.16/100%
【ステータス値】
LV・12(stock=0)
知力・G(5+0)
心力・F+(23+1)
速力・E(25+11)
技力・F(9+9)
筋力・B-(40+44)
体力・C+(28+50)
【装備品枠・19/20】
『マップ(1)』
『通信装置(1)』
『緊急脱出装置D(5)』
『ミドルメイス(2)』
『ミドルハンマー(2)』
『ヘルメット(1)』
『チェストレザーアーマー(1)』
『スモールシールド(1)』
『ホバーブーツ(2)』
『こそこそマント(1)』
『暗視ゴーグル(1)』
『水中マスクC(1)』
【所持品枠・0/20】
・━・━・━・━・
相変わらずの脳筋ステに知力・Gがキラリと光っているが、うむ、見えるようになっているな。
「お前も見てみろ。レベルの横にstockの表示が増えて、ステータスの横にも細かい数値が見えるようになっただろ」
「ほんとだー。なにこれ、どういう意味なの?」
「レベルの横のストックは、レベルアップ時のステータス上昇可能量の蓄積だ。レベルの横の数値は、本来ならアルファベット表記によって概数かつ補正値のみで表示されているステータスの、詳細な現在値だ」
「……? ええと、つまり?」
つまり、だな。
「今までは、レベルアップのたびに適当に伸びてたステータスを、これからは自分の好きなように割り振って伸ばすことができるようになるってことだ」
「ほほう……? ……つまり?」
つまり、じゃねーよ!
これ以上噛み砕かないと分かんねーのか!
俺は夜だから大きな声を出すのをグッと堪えた。
そして二度ほど深呼吸してから、答えた。
「頑張れば、筋力をSにしたりとか、知力をGより上にすることができる、ということだ」
「ほんとー!? え、それってすごいじゃん!」
すごいんだよ。
そしてこのスキルは、早く取得すればするほど強く恩恵を受けることができる。
だから、お前を背負ってでも今日中に完全踏破したんだよ。
おかげで、お前を背負ったまま川を泳いだり沼蛇の沼に潜ったりするハメになったけどな。
それでもお前の成長を早くしてやったほうが、のちのちの活動が楽になるから頑張ったんだよ。
「そうだったんだ……。えへへ、タッキー、ありがとね」
はにかんだように礼を言うツバサに、俺は毒気を抜かれた。
まぁ、いい。
そのスキルの真価はまた明日以降に詳しく教えるとして。
「……今日はもう公衆浴場は無理だな。宿に戻ったらお湯を頼んでやるから、濡らしたタオルで拭くといい」
「はーい。ま、仕方ないかー」
「だが、飯はきちんと食うぞ。この時間ならまだ、酒場も兼ねたところなら空いてるはずだからな」
「ほんと! やったあー!」
無邪気に喜ぶツバサを見て、俺はどこの店にするかを考える。
ここから宿までの帰り道方向で、それほど足を伸ばさなくても行けて、この時間でも注文通せて、普段からそれほど混んでなくて、値段はともかく味が良いところ……。
そんなことを考えながらてくてく歩き、目星をつけていた店に入る。
よしよし、良い感じに空いていて静かだな。
俺とツバサは空いているテーブルに掛けて、適当に料理を注文する。
そして運ばれてきた料理(俺はエビグラタンとパリパリソーセージとコーンスープだ)をもぐもぐと食べていると、
「おいおいおい! ボクにパーティーを抜けろだって!? どーゆーことだよ!!」
と、突然隣のテーブルにいた奴が立ち上がり、デカい声を出しやがった。
……うるせー。