第二部36話目・来たぜ青ダン!
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「にっっっが……!!? うぇっ、げえっ……!! な、なんでござるか、この冒涜的に苦くて渋くて辛くて甘ったるいモチは……!? ……は? アイススライム戦のペナルティ? 特製薬膳餅?? ……いやいやいや。え? これを、拙者ひとりで食べろと……??」
「……かぁぁぁああああああっ!? めたんこ苦っげえしバチクソ臭っせぇですわ!!! ちょっ、待ってくださいまし。これ、いくらムミョウさんのためと言えど、半分も食べたらわたくしバタンキューしてしまいそうですよ?? あっ、こら、ムミョウさん、無理やり口にねじ込もうとするのはおやめになって……!!」
「……まぁまぁですね。もぐもぐ」
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「おほーーっ! ここが赤ダン! 新しいダンジョン! わたくしの新しい活躍の場ということですね! わたくし、昨日の夜からワクワクが止まりませんわ!! さぁ、セリウス様! 早く中に入りましょう!!」
「……大丈夫なんでござるか、あのデカブツ。山道をルンルン気分でスキップしてるでござるが……? 昨晩のセリウス殿の話では、ここは足元に気をつけて歩かないと足を滑らせて谷底に落ちると……」
「……あ、落ちました」
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「先ほどはちょっぴりだけ油断してしまいましたわ! もう大丈夫です! わたくし、家庭教師の先生からは、やればできる子だとものすごく期待され続けてきましたので!! ……あっ、あちらにエネミーがいますわ! 今度こそわたくしにお任せを! どりゃあああああああっ!!」
「ああっ!? だからそんな、勢いよく棍棒を振り回して走ってはダメでござるよ! ラナ殿! ラナどのーー!? くっ、拙者も助太刀いたす!!」
「……また足を滑らせました」
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「セリウス殿ー!! またラナ殿が足を滑らせて落ちていったでござるー!! というかこれでもう本日13度目でござるよ!? いい加減にするでござる!!」
「あんぎゃあああああっ!? た、助けてくださいましー!! 鳥が、鳥が突っついてきて……! ちょっ、痛い! 痛ってえですわ!! このっ!! このっ!!」
「……もう、縛って担いで運んだほうが早いのでは??」
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◇◇◇…………。
……さて、どうにかこうにか丸5日かけて赤ダンのフルマピを完遂した(マジでたいへんだったし、3回ほどラナにマジギレしてしまった)。
あまりにもたいへん過ぎて、なんだか丸3か月間ぐらいコイツらと山登りをしていたような気さえするな。
……いや、なんかほんとに3か月ぐらい経った気がするな……。
おかしいな……?
やけにリアルに時間の経過を感じるぞ……??
……まぁ、なんにせよ。
帰ってきてからは丸2日間の休養をとって弟子どもにもしっかりと英気を養ってもらったので、
予定通り今日からは、青ダン潜りをすることにした。
D級ダンジョン、青の群島ブルーマリン。
階層数は全部で15。通称は青ダン。
豊富な海産資源系アイテムを入手できるダンジョンで、ここや緑ダンから安定して食糧系アイテムを回収できるようになれば、一人前の探索者として見てもらえるようになる。
「青ダン! ここは、赤ダンと違って人が多いですわね!」
青ダンの入口門前に来た俺たちは、青ダンに入るために順番待ちしている他の探索者どもに続いて列に並んだ。
ラナが前後を見回して騒ぐが、まぁ、ここと緑ダンは確かに人が多い。
「この街の探索者全体の6割から7割は、青ダンか緑ダンを主な狩場にしてるからな。中に入ればそれぞれ散らばっていくが、入口はどうしても混むんだよ」
「そんなに多いのですか? なぜ?」
「ざっくり言うと、青と緑で手に入るアイテムで、この街の飯が賄われてるからだ」
ここでたくさん食料系アイテムを拾ってこないと、最悪の場合、街の運営が詰む。
だからそうならないように、皆ここに潜るんだ。
「……なるほど?」
分かったような分からないような、なんとも言えない表情(無表情のままなんだが、雰囲気は伝わってくる)でリンスが首を傾げる。
「もう少し補足してやるよ。青と緑、あとは黄ダンで獲れる食料品系アイテムを街の中央市場にたくさん納入するとだな、探索者じゃない一般人でも、安価に安定した量の食材を購入できるようになるんだ」
逆に、納入量が一定量を割り込むと、販売価格が一段階値上がりする。
そうすると、街全体の食事にかかるコストがハネ上がるってわけだ。
「なるほど。つまり、飯を食いたきゃ、しっかり稼いでこいと」
「そういうこった。だから、大半の探索者はこことか緑ダンに潜る」
この街の台所事情を支えられるようになったら一人前ってことだからな。
そこから上を目指すかどうかは、考え方次第だ。
「我々は少なくとも黄ダンクリアまでいきたいので、つまり、こんなところで立ち止まるわけにはいかないということでござるな」
「そうですわね! ズバババババっと攻略して、早くもっと上のダンジョンに向かいたいですわ!」
はいはい。
そのためにはまずは、この青ダンでしっかり練度を上げねーとな。
他の探索者どもに続いて青ダンに入ると、俺はまず仮弟子たちに装備品の点検をさせた。
「この青ダンは、海の中にいくつかの小島が浮かんでいて、それぞれの島が浅瀬で繋がっている」
一つの階層につき、5から10個。
多い階層なら20以上の小島が、遠浅の海に浮かんでいる。
フロアボスのいる5階と10階、それとダンジョンボスのいる15階にはボス部屋のある小島があるが、
それ以外だと、小島のほとんどが、荒れた岩場と背の低い草木の立ち並ぶ無人島だ。
エネミーは主に小島に巣を作る鳥系のものか、海中から出てくるエビやカニ、貝のエネミーで、海の中まで潜っていけば魚系のエネミーを狩ることもできる。
そして、このダンジョンで食料品系アイテムを稼ぐなら、水中マスクを装備して海中に潜るのは必須になってくる。
「アイテム拾い以外でも、経験値の多いエネミーを探すなら海底を歩く必要がある。だから、水中マスクとライトは必需品だ」
フルマピをするときにも、海底を歩ける範囲はきちんと歩かないとマップが埋まり切らないので、絶対に必要になってくる。
逆に、ダンジョンをクリアするだけなら浅瀬を通って小島から小島に渡っていけばボス部屋のある小島には辿り着けるので、稼ぐのか攻略するのかでは、歩き方が大きく変わるダンジョンでもある。
それと。
「昔、フルマピルートを探していた時に、俺は海底から洞窟を通って入っていく隠れ小島を見つけた」
「ほう。お宝の香りがしますね」
「実際、宝の山みたいなところではあった。そこは魚人どもの隠れ里という設定になっていて、魚人タイプのエネミーがわんさか出てくる場所なんだ」
ひとまず今回は最短ルートでその隠れ里を目指す。
フルマピルートは通らない。
「15階層のダンジョンボス部屋の小島をスルーした奥に、さっき言った海底洞窟がある。そこまでささっと進むから、遅れずついてこいよ」
そうして俺は仮弟子娘どもを引き連れて、魚人の隠れ里に向かった。