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第二部32話目・調子に乗ったらクギを刺す


 ◇◇◇


 外の時間でいえばもうだいぶ夜更けになった頃、俺は黒ダンの5階層に入ってすぐのところで結界カンテラを点けた。


 人数分のすやすやベッドを出して死んだような顔をしている仮弟子どもを座らせて(すでに3人とも生身だ)やり、小型の焼き台で沸かした湯で茶を淹れつつ、サンドイッチを温め直す。


「ほれ、お待ちかねのモルモさん特製サンドイッチだぞ」


 モルモさんがお前らのために作ってくれたものだ。

 残さず食えよ。


 ちなみに具は、タマゴ、ハムチーズ、BLTだ。

 特にハムチーズが絶品で、モルモさん秘伝のカラシマヨが味の決め手らしい。


「……あ、めちゃ美味しいですわ」


「うむ、美味にござる……」


「懐かしい姉さんの味です……。もぐもぐ」


 3人は、黙々(もぐもぐ)とサンドイッチを平らげ、お茶をぐいいっと飲み干し揃ってホッと息を吐く。


 それから多少元気を取り戻したようで、俺に向かって口々に噛みついてきた。


「セリウス様! 今日はダンジョンお泊まりだなんて聞いていませんでしたわ!!」


 言ってなかったからな。


「白ダンで測定したお前らのPPがもっと少なかったらここまで強行軍にはしなかったが、いかんせんお前らは才能にあふれすぎているからな。いやぁ、それなら俺も頑張らないとダメだろう?」


 大丈夫だ。

 俺はお前らのために全力を尽くすからな。


 だからお前らも死ぬ気で食らいついてこい。

 返事は「はい」だけでいいぞ。


「ふあーーっ!? ここ、シャワーがないどころか足元は泥んこなんですのよ!? 湿気で髪の毛がベトベトしますしお着替えもほしいですわ!」


「ねぇよ、そんなもん」


「セリウス様ー!!」


「タキオン殿! 出てくる化け物(エネミー)どもが脆すぎて鍛錬にならないでござるが! もっと強い敵はいないでござるか!」


 お、コイツ。

 もうだいぶ調子に乗ったようなことを言ってやがるな。


 まぁ、白ダン内でのお試し戦闘も全く問題なかったし、黒ダンの道中でトカゲ男(リザードマン)たちを次々に切り刻んでいた(だいぶ八つ当たりが入っていた)りもして、なんとなく幻想体の使い方が分かってきたってのもあるんだろうが、


 だいたいこういう手合いは、このあたりまでで一回調子に乗るところまでがお約束なんだよな。


 なので俺は、一応忠告しておく。


「フロアボスっていう比較的強い敵もいるっちゃいるけど、たぶんお前じゃ勝てないぞ」


 当然、調子に乗ったござるチビは「それはやってみなければ分からないでござろう!」とか言ってきたが。


 明日挑むアイススライムと沼蛇は、どちらもムミョウじゃあ相性が悪いんだよ(装備品の種別とか、戦闘スタイルとかが)な。


 どうしてもやってみたいなら試しにやらせてみても良いが、ヌルヌルまみれになるか泥だらけになって泣いているサマが目に浮かぶようである。


 まぁ、これも経験か。

 痛い目に遭わないと理解できないことってのも、あるもんだからな。


「それなら試しに戦ってみるか? 落ち(緊急脱出し)そうになったらちゃんと助けてやるからよ」


 そのかわり、俺の忠告に反して戦闘するわけだから、落ちかけて俺がヘルプに入ったら後でペナルティを与えるからな。


「ははーん! 望むところでござるよ! どんな化物も、我が二刀のサビにしてくれるでござる!」


 さてさて、どうなることやら。


「セリー様。私ももっとエネミーを撃ちたいのですが」


 今日一番戦闘回数の少ないリンスが、スッと挙手して言ってくる。


 リンスはなぁ。


「お前が、乱戦になってる味方の前衛に当てずにエネミーだけを狙えるようになったら、もっと撃たせてやってもいいんだけどな」


「……それでは、いつまでたっても上達できないのでは?」


 まぁ、言いたいことは分かる。

 経験を積まないと物事は上達しないのに、上達するまで経験を積む機会が与えられなかったら、いつまでたっても成長できないからな。


「だが、ことが幻想体だとそれも場合によりけりでな。具体的には、幻想体のレベルが上がって技力のステ値が上がると、勝手に射撃の精密さが上がってくる」


 技力による照準の自動補正がかかるからな。

 ステ補正値が二段階も上がれば、別人のように射撃が当たるようになってくるんだ。


「今のお前は、パーメンの前衛2人の経験値を分けてもらって幻想体を育てているところだ。それに、射撃装備は必要のないところでは弾を節約するのが基本だからな」


 前衛2人で倒せるエネミーは、そもそも撃つ必要がないんだよ。


 それと今日のところは、猪突猛進するポンコツとか調子に乗ったションベン垂れとかが後衛の射線を一切気にせずに突っ込むから、撃つに撃てない状況だったというのもあるし。


「今のところお前は、そこまで気負い込んで戦わなくてもいい。それよりも、パーメンの2人の戦い方とかリズムを覚えろ」


「リズム、ですか?」


「ああ。よく使う技とか、動きのクセとか、そういうのを見て覚えて、どのタイミングなら撃っても問題ないかを把握しておくんだ」


 例えば前衛がエネミーから大きく距離を取って仕切り直すときとかは、多少雑に撃っても誤射の危険性が減るからな。

 そういうタイミングをたくさん知っておけば、もっと気軽にパンパン撃てるようになる。


「なるほど……」


「まぁ、明日以降は嫌でも撃つ機会が増えるさ。それは間違いないよ」


 今のコイツらだと、アイススライムとかは射撃武器で核を狙わないと倒せないからな。


 それに地雷ガマ地帯とか。

 あれはもう、リンスの独壇場になる。


「分かりました。信じます」


 ということで、その後も細々した話をしてやったあと、風呂にも入れず文句タラタラの3人を軽くあしらい、


 寝てる時に夜這いしてきたら斬るとかいうギャグみたいなセリフ(誰がお前みたいなチンチクリンを襲うかよ)を鼻で笑い、


 仮弟子3人を、並べて置いたすやすやベッドで寝かせてから、俺も自分のベッドで寝た。




 なお、翌日。


「うわわーーっ!? あぐっ!?」


 案の定、戦闘開始から1分もたたないうちにムミョウがアイススライムにのしかかられて動けなくなった。

 状態異常・凍結が入り、ムミョウの動きが目に見えてノロくなる。


「ははははは! だから言っただろうがチンチクリン! ほらどうする? 俺の助けは必要か?」


「もががーー!?」


 そして涙目でジタバタもがくムミョウを指差してゲラゲラ笑ってやってから、落ちる前に引きずり出して救出してやる。


「つーわけでリンス。適当に距離を取りながらアイツの中の丸いところ、核を撃て」


「さー、いえっさー」


 それからベトベトのムミョウに修復剤を使ってやりつつ、リンスにアイススライムの核を狙ってひたすら機関銃を撃たせていると、


「あ、倒せました」


 およそ2分後。

 ほぼリンスの単独戦闘でアイススライムが消滅し、リンスが俺たちに向かって無表情ドヤピースをキメてきたのだった。


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