第二部31話目・弓でも杖でもなく、機関銃に馴染もう
「いいかリンス! どの銃でもそうだが、銃口は絶対のぞくな! それと人に、特に仲間には絶対銃口を向けるな! 分かったな!?」
「かしこまりました」
くそっ……!
まさかここまで危機感のない行動をするとは思わなかった。
構造が分からないとはいえ、ダンジョン内での戦闘用の武器なんだぞ。
不用意に弄ったら危ないってーの!
「……しかし、それならそうと早く教えていただければ。……これはセリー様の落ち度では?」
ひっぱたくぞシスコン。
「俺はモルモさんから、お前があまり舐めた口を叩くようなら実力行使をしても構わないと許可を得ているんだからな。口の利き方には気をつけろよ?」
「ほう。具体的には、どのように?」
俺は、お前ら仮弟子どもが休憩の時に食べられるようにと、モルモさん特製サンドイッチを預かっているんだが。
「お前が生意気を言って俺がイラっとするたびに、お前へのサンドイッチの配分数を一つずつ減らしてやる」
「誠に申し訳ございませんでした。何卒怒りをお鎮めください」
無表情のまま崩れ落ちてわざとらしく足に縋りついてくるリンスを払いのけ、その場に立たせる。
そしてあらためてマシンガンの取り扱い方法を教えてやって、タタタタタタッ、と試し撃ちをさせてみた。
命中率は、まぁ、そこそこだった。
「おかしいですね。銃身が曲がっているのではないですか?」
とか言いながらまた銃口をのぞき込もうとするリンスの頭を平手でひっぱたき、射撃姿勢と照準の合わせ方をさらにきちんと教えてから撃たせてみる。
すると先ほどよりは多少マシになったので、コイツはまぁ、きちんと教えたら伸びるタイプとみた。
「マシンガン! カッチョイイですわー! わたくしも撃ってみてもよろしくて!?」
と、ポンコツがデカい声を出したので試しに撃たせてみたが、あまりに知力が低すぎて最低保証弾数を維持できず、リンスよりも弱いヘロヘロ弾が2発しか出なかった。
「なんでですのー!?」
決まってんだろ。
ラナの知力が2しかないからだよ。
2だぞ、2。
問答無用の知力・Gだ。
ツバサですら、初期値で5あった(それでもG評価なんだがな)から、その半分以下だ。
姉貴から聞いたときは耳を疑ったし、現段階だとPPの無駄だってことで装備品枠から弓を外させたのは当然の措置だと思う。
「いいか、ラナ。銃系統の射撃装備品は銃ごとで光弾のパラメーターが決まっている」
威力、弾速、射程、弾数が予め設定されているから、引き金を引くだけで弾を撃てるってことだな。
だから、照準さえ合わせられるようになれば、初心者でも簡単に使うことができる。
「だが、だからこそ、銃の性能を十全に発揮するには最低限度の知力が必要になってくるし、リロードのたびに心力を使うので、心力が低いとすぐに息切れになって弾を撃てなくなる」
具体的に言うと、この軽機関銃は知力・F-(最低でも12)以上ないとまともに扱えない。
それ以下の知力だと、射程と弾速のパラメーターは維持しつつ威力と弾数が減るので、ゴミ弾を1、2発ずつしか撃てなくなるわけだ。
「逆に知力が高くなるほど、威力と射程と弾速を維持したまま弾数が増える。弾数が増えればリロードまでの余裕が増えるので、同じ心力でも弾切れが起きにくくなり、継戦能力が上がる」
これが杖なら、知力や心力が低くてもユミィみたいにセンスで補える(各種パラメーターの設定や、弾の軌道を毎回自分で決められる)し、
弓なら、知力が威力、心力が連射数、速力が連射速度、技力が急所判定の出やすさ、筋力が射程と速度、みたいに色んなステ値をまんべんなく参照するので、ステ不足を他のステ値でカバーしやすいんだが。
「……???」
まぁ、長々と言っても覚えられないだろうから、一言でまとめるぞ。
「低知力では銃は使えん」
だからラナ。
お前は大人しく棍棒を振り回してろ。
「セリー様。先ほどのお話だと、銃は初心者向けの装備で、いずれは弓や杖のほうが使い勝手が良くなる、みたいに聞こえるのですが」
まぁ、弓矢の経験がなくて杖のセンス……、具体的には空間認識能力等がないやつは銃を使ったほうがいいのは事実だし、
自分のステ値が成長しても銃を変えない限り弾の威力は上がらないから、上の級に上がっていくと威力不足に悩みやすいというのも事実だが、
「射程のボーナスや特殊弾の切り替えなど、銃だけの明確なメリットもいくつもある。だから、初心者にも使いやすい武器ではあれど、別に初心者しか使っていない武器ってことではない」
現に、モルモさんは機関銃一本で一流相当になっているし、俺の知っている銃身咆哮っていう一流相当パーティーは、6人全員銃士だ。
あれはあれで尖ったパーティー構成だが、それでもちゃんと活躍している銃士はたくさんいるわけだし、
「リンス。お前は弓士や杖士よりも銃士が向いている。それは間違いない」
「モルモ姉さんと同じ武器で、私もちゃんと強くなれると。……そういう認識でよろしいのですか?」
「ああ。初心者講習で何百人と初心者どものステ値を見てきた俺が言うんだ、間違いない」
「……分かりました。信じます」
よし、それなら次だ。
幻想力量を測定してみるぞ。
「お前ら、順番にこの弓を引け」
と、3人にそれぞれ中弓を引かせてみた結果、
ラナ、約25万PP。
ムミョウ、約7万PP。
リンス、約8万PP。
と判明した。
……いや、コイツらPP量多いな??
特にラナは、以前チラッと聞いてはいたものの、こうしてきちんと測定するとPP量の多さがヤバい。
俺なんて、いまだに2万5000ぐらいしかPP総量がないってのに。
ラナは俺の10倍ぐらいPPがあるってことか。
あと、最近測り直したらツバサが8万5000ぐらい、ユミィが18万ぐらい、モコウが7万7000ぐらいに増えていたので、余計にあのバカたちから煽られたりした一幕もあったんだ(ちなみにティナは11万ぐらいだ)が、それはさておき。
PP総量の多さは個人差が大きく、鍛えて伸びるやつと伸びないやつでも大きく差がつく要素だ。
馬鹿弟子どもはこの2年ほどでそれぞれ2倍ぐらいに増えたし、俺は7年かけてもほとんど増えてない。
そしてコイツらはハナからPPが多い。
現時点でも姉弟子たちと遜色ないPP総量で、これから増えればさらに良い。
「つまりお前ら3人とも、探索者としての才能があるってわけだ」
これは、素晴らしいことだぞ。
何が素晴らしいって、ほんとうに色々なことを駆け足で進められそうだってことが素晴らしい。
「それなら次だ。どんどん行くぞ」
その後も俺は、各階層でのお試しエネミー戦闘やフルマピルート踏破など、講習でやっていることを急ぎ足で次々にやっていく。
そして、夕暮れより少し前に暴れ兎を倒してボス部屋内を一周し、仮弟子3人を白ダンフルマピ達成させた。
まぁ、ラナはもうフルマピしてあるんだが、こういうのは皆でやって一緒に達成したというのも大事だからな。
苦楽を共にすることで団結力を上げ、パーティーとしての自覚を持たせるわけだ。
「はぁー……、長かったでござる……」
「久しぶりに、お外に出た気がしますね……」
初めて白ダンをフルマピしたムミョウとリンスは感慨深げに夕焼け空を見ているし、再達成のラナも「やっぱりしんどいですわー!!」と吼えた。
「けどまぁ、今日は皆さんよく頑張りましたわ! わたくしも初めてのときは歩くのがしんど過ぎて涙がチョチョ切れそうでしたけど、こうして無事に終わってホッとしました!」
そうだな。
それじゃあお前ら、ついてこい。
俺は、疲労困憊といった様子の仮弟子たちを連れてスタスタ歩く。
俺の後ろでは、今朝よりは多少は打ち解けた感じで3人でお喋りをしているし、俺としてもパーティーメンバー同士で仲良くなるのは良いことだと思う。
「そういえば、モルモ姉さんのサンドイッチはどうなったのですか? お昼に食べるという話でしたが、もう夕方になっていますよ」
と、リンスが不満げに言うと、ラナとムミョウも同じようにサンドイッチを食べたいと言ってくる。
心配しなくてもちゃんと食わせてやるよ。
「ほら、次はここに入るぞ」
俺は、呆気に取られた様子の仮弟子3人を引き連れて、黒ダン潜りを始めた。




