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俺は、フルマッピングボーナスで迷宮を無双する。  作者: 龍々山 ロボとみ
弟子一号、ノーテンキ脳筋娘、ツバサ
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11話目・洗練された無駄のない動きを目指して


「ううっ……、鼻がもげるかと思った……」


 涙目のツバサが言うが、あれぐらいでもげるわけがない。


 というか痛みもほぼないはずだ。


 なにせ今は幻想体になってるんだからな。


 コイツ、さてはノリと雰囲気で生きてやがるな。


「弟子入り二日目にして調子に乗ってるバカ弟子に言っておくが、PP量はあくまで推定値でしかないし、体調とかによっても増減する数値だからな。それよりも大事なのは、探索中にいかにしてPP残量を減らさないようにするかのほうだ」


 ツバサからミドルボウを回収した俺は再び歩き出し、少し講釈を垂れることにした。


「たとえば、こうしてただ歩いているだけでも少しずつPPを消費するし、エネミーとの戦闘ともなれば、さらに消費量は増える」


 幻想体を動かしたり装備品を使ったりするためには、全てPPが必要だからな。


「そして、幻想体でいるうちはPPは回復せずに減り続ける。PPがなくなれば幻想体を維持できなくなり、ダンジョン探索もそこで終了だ」


 つまり、そうならないためにも、PPはできるだけ節約しないといけないということだ。


「PPが大事ってことは分かったけど、具体的にどうやったら節約できるの?」


「まずは、無駄な戦闘をしないことだ。攻撃、防御、回避。どれをとってもエネミーとの戦闘はPPを激しく消費するからな。レベル上げやドロップ品集めなどの場合を除けば、エネミーとの戦闘なんて少ないほうがいいに決まっている」


 身の安全を守る意味でも、戦闘回数は抑えたほうがいい。


「そして戦闘をするならできるだけ速やかにエネミーを倒す。そのためには、エネミーごとの弱点や特性、行動パターンを熟知し、一方的に攻撃できるようになっていないとな」


 余計なダメージを負えばキズからPPが漏れ出してさらにPP消費が激しくなる。


 無傷のまま最小限の攻撃で撃破できるのが、対エネミー戦闘の理想だ。


「それさ、それができたら誰も苦労しないって話なんだけど……」


「それと、こうして普通に歩いてるときも少しずつPPを使っているわけだが。例えばそうだな、その先の木まで歩いていくとき、真っ直ぐ歩いていくのとジグザグに歩いていくのでは、ジグザグに進むほうがより多くのPPを消費するのは分かるな?」


 それはまぁさすがに、とツバサが頷く。


「つまり移動時にも無駄がないようにする必要があるわけだ。同じところを行ったり来たりするとか、意味もなく遠回りしたりとか、まずはそういうのを減らす」


 そのあたりは、マップとレーダーを上手に使う必要もあるので、もう少しマシになったら上手な使い方を教えてやろう。


「あとは、純粋に体の使い方だな。幻想体は生身の肉体と違って、動かそうとしたとおりに動くし、動かすたびにPPを使う。静かに歩くのと激しく踊りながら歩くのでは、踊りながらのほうが無駄にPPを使うわけだ」


「そりゃあ、踊りながら歩いたら疲れるでしょ」


「だが、そこまで極端でなくても、例えば歩く際の足運びだとか腕の振り方だとかでも消費量は変わる。お前みたいに意味もなくキョロキョロしたりぴょこぴょこしたりしないだけでもPPの節約になるんだ」


 俺の歩き方を見てみろ。

 無駄なく静かに歩いているだろ。


「え。あ、ほんとだ! タッキー全然足音がしてない!」


「無駄のない歩き方だから余計な音もしないし、PPの節約にもなる。ツバサはまず、見様見真似でいいから歩き方を直せ。しっかり俺のあとに続いて俺の歩き方を見て、真似してみろ」


 俺は、ひたすらダンジョン内を歩く。

 レーダーで確認して、エネミーと遭遇しないように心がけながら。


「お前のPP量ならギリギリ大丈夫だと思うが、今日一日ひたすらダンジョン内を歩くからな。PP切れにならないように、しっかり俺についてこい」


「はーい!」


 よし、返事だけは上等だ。


 返事だけにならないように、気を引き締めろよ。


 そこから俺は、マップの埋まり具合を逐一確認しながら、ダンジョン内をひたすら歩き続けたのだった。




 ◇◇◇


「さて、ボス部屋前まで来たわけだが」


 俺は後ろを振り返り、若干目の焦点が合っていないツバサを見る。


「ほ、ほんとにずっと歩いた……! 疲れた……!!」


 たかだか八時間程度歩き通したぐらいで、なにを軟弱なことを言っている。


「幻想体だし、歩いていただけだったろうが」


 幻想体は生身の肉体ではないので、精神的な疲労以外は基本的に溜まらない。


 それに、小走り以上の速さで走ったりするとステータスの体力値に応じたスタミナ量(表示は出ないが、俺は便宜的にそう呼んでいる)が減り、スタミナ量がなくなると疲労状態になったりもするのだが、歩いているだけならそれも関係ない。


 つまり、今回の探索で疲れる要素がないのだ。


「いやいやいや! 崖登ったり川に入ったりしたじゃん! 歩いただけじゃないじゃん!!」


 それは仕方ないだろ。


 あそこを通らないと()()()()()()()()()んだから。


「……マップ?」


「ああ。ちょうどいい。お前に持たせたマップを自分でも見てみろ」


 ツバサには、昨日のうちにマップと通信装置と緊急脱出装置(一番安いやつだ)を渡してある。


 ツバサは自らのマップを開いて「うわっ!」と声を上げた。


「すごい! ここまでの階層全部、マップがきれいに埋まってる! なにこれ気持ち良いー!」


 とたんにツバサが目を輝かせる。


 む、ツバサもこの気持ち良さが分かるか。


「整然としているものを見るのは気持ちが良いよな」


「せいぜん……? よく分かんないけど、これは気持ち良いね!」


「それなら、最後まで埋め切ってみるか?」


「うん! やるやる!」


 よし、それならボス部屋に入るぞ。


 俺はデコイマフラーを首に巻きながらボス部屋の扉を押し開ける。


 そして弓の弦を引いて矢をセットし、素早くタンタンタンッと三連射した。


「グギャッ……」


 俺が放った矢は暴れ兎の両目と額に突き刺さり、暴れ兎はその場で倒れて消えていった。


 肉を回収して、と。


「えっ……。タッキー。弓、うまっ」


 いや、別に上手くはないだろ。


 あれだけ鈍くてデカいんだから射てば当たる。


「それより、マップ埋めるんだろ。ぐるっと室内を歩くぞ」


「あっ、うん」


 そして俺とツバサがボス部屋内をぐるりと一周歩き、マップが埋まりきったことを確認してからサークルを踏んで地上に戻ると、


「ふえっ? ……えっ、えっ? なに! 誰!? どこから聞こえてきてるの、この声!?」


 突然、ツバサが騒ぎ出した。


 お、来たな。


 俺は実験が成功したことを知り、思わずニヤリと笑ったのだった。


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