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第二部28話目・仮弟子増量キャンペーン(不本意)


 年若い少女を外で立たせっぱなしというのも外聞が悪いので、ひとまずリンスピオーネをパーティーハウス内の応接室に通した。


 褪せたローブを預かりトランクごと客室のひとつに放り込む。


 で、お茶と茶菓子を与えてしばらく待たせていると(茶菓子を口いっぱいに頬張っておかわりを要求してきやがった)、


 慌てて帰宅した様子のモルモさんが、ドタドタと応接室に駆け込んできた。


「リンス!」


 そしてそこで茶菓子を食べながら待っていたリンスピオーネ(もうリンスでいいか。長いし)は、口の端にアンコをつけたまま無表情ドヤピースをキメた。


「来ちゃいました。ぶい」


 コイツ、なかなか図太い性格してんな。


 それに対してモルモさんは、大慌ての様子で怒鳴った。


「来ちゃいましたじゃないでしょ!? 貴女、この……! もうっ、バカ!!」


 語彙力が消滅したモルモさんがリンスの手を掴む。


「帰りますよ! さぁ、立って!」


 するとリンスはツンと顔を背けて反抗した。


「嫌ですモルモ姉さん。私はあの家には帰りません」


「なっ……!?」


「……私も、モルモ姉さんと一緒に探索者をします」


 なんか最近、姉だの祖父だの家族を追ってきて探索者になるやつばかり見る気がするなぁ。


 ……なんかの流行りなのか、これ?


「貴女が探索者……!? そんなこと、私は許しませんよ!!」


 怒るモルモさん。

 リンスは不思議そうに問う。


「……なぜですか? 姉さんは探索者をしているじゃないですか。姉さんは良くて、どうして私は許されないのですか?」


「っ……!」


「モルモ姉さんは、この街で楽しく過ごしているのでしょう? 私だって、私の生き方は自分で決めたいです。私も姉さんと同じようにして、楽しく生きたいです」


「このっ、」


 リンスの態度に、モルモさんがさらに何かを言おうとする。


「落ち着いてくださいモルモさん」


 このまま見守っててもちょっとよくない流れになりそうだったので、仕方なく俺は、2人の仲裁をすることにした。


「セリーさん!」


 どうどう、とモルモさんを手で制する。


「気持ちは分かりますが、カッとなって何か言ってもだいたい失敗するもんですよ。それより……、モルモさんが今言うべき言葉は、もっと他にあるんじゃないですか?」


 俺は、リンスの靴に目をやる。

 ボロボロだ。おそらくここまでの歩き詰めで、底に穴が開くぐらい擦り切れている。


 着ている服も裾が土ぼこりで汚れているし、着ざらして襟や袖がヨレているのが見て取れる。


 羽織っていたローブもそうだ。

 かなり年季の入ったものだったし、サイズも合っていなかった。例えば、親のお古をコッソリ持ち出して着ていたんじゃないだろうか。


 トランクにしても、何を詰め込んでいるのか知らないがかなりの重さだった。手当たり次第使えそうな物を詰め込んで持ってきたのだろう。


 つまりコイツは、かなりの強行軍でここまでやってきた可能性があるわけだな。


 出された茶菓子を全部食ってるのも、ここまで無理してやってきて、腹を空かせていたのかもしれない。


 いやまぁ、実際これは全然的外れな推理なのかもしれないけどな。

 少なくとも俺は、そう判断してもいいと考える。


 となれば、だ。


「モルモさんの故郷は、確か港町でしたよね。つまり、海岸沿いの街からこんな内陸の街まで、ひとりでやってきたってことでしょう」


「……それは、その通りだと思います」


 その道中がどうだったかとか、そういうところはさておき。

 ここにいる理由がどうとか、そういうところもさておき。


「ソイツが今、そうまでして会いたかったお姉様から掛けてほしい言葉は、そんな頭ごなしに叱りつける言葉ではないと思いますよ」


「……ですが」


「まぁ、俺も突然姉貴がこの街にやってきたときはマジで驚きましたし、ブチギレて路上で姉弟ゲンカしちゃいましたけど。……そこまで真剣に怒りたくなるぐらい大事な妹さんに、長旅終わりにかけてあげるべき言葉は、もっと別にあるんじゃないですか?」


 そこまで言うと、モルモさんが困ったような表情を浮かべた。


 そして眉根にギュッとシワを寄せて思案し、一つため息をつくと、リンスの手を離した。


「……リンス」


 それから今度は、妹をぎゅうっと抱きしめた。


「こんな遠くまで来て……。……無事で良かった……。貴女に何かあったらと思うと、私……」


 その言葉に、リンスも少しだけ目を見開いた。


「…….ごめんなさいモルモ姉さん。ご心配をお掛けしました」


「貴女一人でここまで来るなんて……。たいへんだったでしょうに……」


「はい。でも。それでも私は、モルモ姉さんに会いたかったのです」


「…………リンス」


 ひとしきり抱きしめた後、モルモさんはリンスを離した。


「色々言いたいことや聞きたいことはありますが……それはまた後にします。……セリーさん」


「良いですよモルモさん。それと、ちょうどこっちも新しい仮弟子ができたところで、歓迎会でもやろうと思っていたところです。食材は買い込んできていますよ」


「……ありがとうございます」


 モルモさんは、弟子たちに混じったござるチビを見て、色々と察したようだった。


「……ふぅ。リンス。この家にはお風呂があります。まずはゆっくりつかって身を清めてきなさい。それが済めば、客室で待っていなさい。準備ができたら、呼びにいきますから」


「あ、それならあたしたちが案内するね! リンスちゃん、ムミョウちゃん、ついてきて!」


 ツバサが元気に手を挙げて言う。

 それから俺とモルモさんを残して、皆でお風呂に突撃していった。


 所持品枠に買い物してきた食材なんかを入れている俺は、モルモさんと一緒に厨房に向かう。


「……さぁ! 今日は、腕によりをかけてご飯を作らないといけませんね!」


 そう言ってニッコリ笑うモルモさんに、俺は頷き返す。

 するとモルモさんは立ち止まり、静かに俺に頭を下げた。


「ありがとうございます、セリーさん」


「俺は何もしてませんよ。リンスに何を言うか決めたのは、モルモさんです」


「……はい。……それと、もしかしたら。リンスのことを、お願いするかもしれません」


 俺は、肩をすくめる。


「それこそまだ何もしてませんから。モルモさんこそ、美味しい料理をよろしくお願いしますね」


「はい。お任せください」




 ということで、この日の晩飯はめちゃくちゃ豪勢になった。


 初めてこのハウスにやってきたムミョウやリンスのみならず、俺たちですらほっぺたが落ちそうなぐらい、感動的だった。

 

 それから、姉妹で話し合いが行われたようで、この日の夜遅く、モルモさんが俺の部屋に来て頭を下げた。


「リンスを、……私の妹を、どうかよろしくお願いします」


「分かりました」


 ということで、立て続けではあるが、また仮弟子が増えてしまった。


 しょーがねーなー。


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