第二部25話目・育成クエストを受注する
ムミョウとかいうチンチクリンの女剣士を仮弟子にすることになったので、俺はヨイチさんに通信で断りを入れた。
『そうかそうか。ま、ター坊ならそう言ってくれると思ってたぜ』
すると、すんなり受け入れるどころか、俺がムミョウの面倒を見ることを期待していたような言葉が返ってきた。
……まぁ、良いんだが。
やる気と実力のあるやつの面倒を見るのは、嫌いじゃないからな。……ただ、
『ヨイチさん、ひとつだけ確認なんですが。ヨイチさんがムミョウに言った、探索者としての実力を示せ、っていうのは、具体的にどの段階を指すんですか?』
新人講習を一通り済ませたところまででいいのか、一人前を目指すのか、はたまた一流探索者になるまでなのかで、とるべき手段と手順が変わりますので。
『ゴールは、明確にしておいてほしいです』
『それでいうなら、一流相当……。そうだなぁ、黄ダンをクリアってことにしておこうか』
『黄ダンですね。分かりました』
ということはつまり、そういうことか?
『期限はありますか?』
『なるべく早いほうがいいだろ。……あー、いや、オイラたちはいつでも良いんだが、そっちはあんまりのんびりもしてられないだろ?』
『まぁ、そうですね』
アスカさんたちの雇い入れの期限もある(最長であと2か月ぐらいの予定だ)しな。
『じゃあ、一月以内に。ムミョウをきちんと黄ダンクリアさせてきます』
『かはは。オイラ、ター坊のそういうキッチリしたところと、有言実行なところは信頼してるぜ』
『恐縮です』
『それじゃあすまんが、頼んだ。ムサシには、またこちらからそれとなく話を通しておくからさぁ』
『はい。それでは失礼します』
店外での通信を終えた俺は、店内に戻って弟子どもの座っているテーブルに向かう。
「それでは、ツバサ殿は棍棒で、モコウ殿は徒手格闘なのでござるか」
「うん! あたしは、刃物系の装備は使わないなー。すぐに刃こぼれさせちゃうし、刃筋? ってのも、よく分かんないし!」
「ワタシは、グネグネナイフ使う時もあるヨー。ケド、手よりは蹴り足で振り回すほうが多いネ」
ツバサたちにはムミョウも仮弟子にすることは先に伝えてあるから、もう一緒のテーブルにまとまっておしゃべりをしているようだ。
弟子同士で仲が良いのはいいことだ。
そしてそのあたりは、ツバサに任せとけば大丈夫だろうという信頼感がある(ツバサは誰とでも仲良くできるからな)。
「あ、タッキーおかえり! 通信は終わった?」
「タキオン殿! 今日はこれからどうするでござるか!」
俺はうるさい2人を手で宥めながら席に着く。
とりあえず、もう少しそっちで話してろ。
ちらりと見ると、メイベルは黙ってカフェオレを飲んでいるし、ユミィはストローでオレンジジュースを吸いながら、目を細めてじっとムミョウを見つめていた。
するとユミィが、俺の耳に顔を寄せて「なぁなぁ、タキ兄ぃ」とささやいてきた。
「まさかとは思うけど、この子も一緒に銀ダンに?」
ははは、まさかだろ。
とりあえずは、一通りの確認を済ませてから、ポンコツと一緒に白黒潜りだ。
「目標深度は黄ダンクリアまで。期限は一か月以内。一流相当になりさえすればおそらく大丈夫だから、最悪の場合は俺がムミョウを連れて無理やり黄ダンをクリアさせる」
つまり、ケツは決まってるってわけだ。
よほどのことがない限り、そこから後ろにはズレ込まない。
「ふぅん……。そっか」
「ただ、ムミョウの問題をきちんと解決してやったほうが、四闘神の皆さんからの覚えがめでたくなるのは間違いない。だから確実な目標達成のために、姉貴たちじゃなくて俺が一緒に潜る」
あの怪力ポンコツ娘もぼちほち多少はマシになっただろうし、だとすればあのポンコツにも連携を教えてやる必要があるからな。
ついでにこのチビとポンコツで組ませてみて、色々教えてやるつもりだ。
「ん……? それってつまり、ボクらはしばらくタキ兄ぃと別行動ってことか?」
「そうだ。そして、俺が仮弟子を連れて黄ダンに潜り始めるまでの間に、お前らとメイベルの4人で黄ダンの深層を狩ってきてほしい」
黄ダンの深いところのノーマルエネミーから、たまに護符がドロップするらしいんだよ。
俺がこのおかっぱチビの問題を片付けてる間に、お前らはできるだけ多く護符を集めておいてくれると、助かる。
「良いけど……、なんでまたそんな」
「コイツの件が終わったら、今度こそ銀ダンの攻略再開だからな。四闘神の皆さんと一緒に中層から深層までの慣らし探索をした後、俺たちだけでの通常攻略を目指す」
さらに、銀ダン攻略が終われば次は金ダンだ。
金ダンではさらに他の人の手を借りるつもりでいるが、とにかく。
B級以上のダンジョンに潜るのに護符は必須で、しかも今の俺たちの到達目標は虹ダン突入だ。
護符は何枚あっても足りないぐらいなんだから、手が空いてるときにはひたすら周回してドロップ品集めをしておくべきだろ。
「……うへぇ。必要なのは分かったけど、面倒だなぁ……」
俺がチラッと幼馴染に目をやると、幼馴染も不機嫌そうにフンと鼻を鳴らした。
「この男に、私のワガママで無理難題を投げたことは百も承知だ。しかし、まことに業腹だが、昔からコイツはヤると言ったらヤる男だ。だから期待しているし、そのためにコイツが必要だということは、なんでもやるつもりだ」
メイベルが、居住まいを正すと、ユミィに向けて深く頭を下げた。
「全てコトが終われば、私にできることはなんでもする。だから、セリウスとともに私に協力してほしい」
「……そういうことされると、断れないじゃん。いや、断るつもりもなかったけどさぁ……。はぁっ……」
まぁ、そういうことだから、頼んだぞ。
頷くユミィ。
それから俺はあらためてムミョウに向き直り、識別票を出させる。
ムミョウのステータスは、こうだ。
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【名前 ムミョウ・シンメン】
【性別 女】
【年齢 16歳】
【消耗度】
HP・100.00/100%
PP・100.00/100%
【ステータス値】
レベル1
知力・F-
心力・F-
速力・E-
技力・F-
筋力・E-
体力・F-
【装備品枠・0/20】
【所持品枠・0/20】
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……見事なまでに初期ステータスだった。
つまりコイツは、探索者登録だけして一度もダンジョンに潜ってねーってことだな。
さらにいえば、初心者講習すらも受けてない、と……!
講習さえ受けていれば、講習中に少なくとも一つか二つはレベルが上がるはずだし、
なによりフルマピボーナスの取得を示す★のマークが出ていないからな。
……コイツ、マジか。
「ムミョウお前、探索者登録の時に初心者講習を勧められなかったか?」
「初心者講習? ああ、そういえば受付の方が何か言っていたでござるな」
「……なんで受けなかったんだ?」
「なぜ、と言われても……。あれを受けに行っていた他の新人たちを見ていたら、拙者に必要とは思えなかったから、でござるが……」
……ふぅむ。
やっぱりまだまだ周知徹底が足りてねーのか?
もういっそのこと講習を義務化させてやりたいところだが、……そうするとまた色々と話がややこしい(主に利権関係の調整とかで)んだよなぁ。
さて、どうすっかな。
今から白ダンに連れてって全速力で走れば、ムミョウを白ダンフルマピさせられないこともないんだがろうが……。
「ムミョウ。それとお前ら」
そもそもコイツ、探索活動と幻想体を軽んじてるフシがあるんだよな。
だからまずは、……肉体と幻想体の違いをしっかり叩き込むほうが、話が早そうだ。
「今から闘技場に行くぞ」
「闘技場? え、なんで?」
決まってんだろ。
ムミョウに、この街での探索者同士の対人戦のイロハを、教えてやるためだよ。