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第二部24話目・チンチクリン女剣士を仮弟子にする


「実は、かくかくしかじか……、なのでござる!」


 なるほどな。

 つまりコイツの説明を要約すると、こうだ。


 このムミョウとかいうチビは、あのムサシさんの孫娘だ。


 それはつまり、ムサシさんの息子のイオリさんの娘、ということでもあり、


 ムサシさんが興した剣術流派、双月流の後継者でもあるということだ。


 ムサシさんは、カタナと呼ばれる片刃の細剣(装備品だと、中刃(ミドルブレード)とかが似た形をしている)を使う剣士だ。


 刃渡の長いものと短いものをそれぞれ片手で持って使う長短二刀流の双剣士で、その剛力と繊細さによって生み出される太刀筋は自在に敵を切り刻む、といわれている。


 当然、このムミョウも二刀流剣術の使い手のようだし、立ち姿やモコウの反応を見るに、なかなかの使い手だということも分かる。


 さて、そんな双月流だが。

 どうやらムサシさんは、流派を興すだけ興して、弟子を取ったり育てたりということは、ほぼ全て息子のイオリさんに投げてきたらしい。


 自分の剣の技法を直接伝えたことがあるのはイオリさんやそのほか数人の直弟子たちのみのようで、あとのことは全てイオリさんに放り投げて、ぷらぷらと武者修行の旅に出ることがしょっちゅうあるようだ。


 そしてムサシさんは、旅先で強者と戦ってさらに腕を磨いたり鍛えたりして、時折ふらっとイオリさんのもとに帰ってきては新しく編み出した技を教えたりして、またどこかに行ってしまうのだと。


 ムサシさんは強者との実戦を愛し、命のやり取りの中で己を磨く。

 イオリさんはムサシさんの閃きを言語化し、体系化してさらに下の弟子たちに教える。


 そういう感じで双月流は回っているようだし、少なくともそれで問題は起きていなかった。


 さて、ある時、イオリさんに娘が産まれた。

 娘はすくすくと育ち、ご多分に漏れず剣の道を歩み始めた。


 たまーーに帰ってくる爺様(ムサシさん)も、ムミョウが小さいうちは剣を振るムミョウのことを笑って見守ってくれていたようだが、


 ムミョウが大きくなるにつれて(それでもチビなのには変わりはないがな)、ムミョウを見る目が厳しくなったそうだ。


 まぁこれは、ムミョウが勝手に言ってるだけなので、ほんとのところは分からんが、とにかく。


 ムミョウが成人を間近に控えた頃には、一切ムミョウの前に姿を見せなくなったという。


 しかもイオリさんにはこそっと会いに帰ってくる時もあったようだが、ムミョウにはマジで会おうとしないのだとか。


「拙者、双月流の免許皆伝のために、父上と正式に試合をして勝ちたいのでござる。そのためには、父上から教わるだけではなくて、もっと強い人にも教えを乞いたいのでござる」


 その、もっと強い人ってのが、ムミョウの中ではムサシだということらしい。


 まぁ、イオリさんもムサシさんにまともに勝ったことがないらしいし、イオリさんに勝つために、ムサシさんに会いにくるというのも分からない話ではない。


 問題は、ムサシさんがムミョウのことを避けてるってところだ。


 ムミョウがこの街に来て一月足らずらしいが、どうにもムサシさんは、ムミョウが来る数日前からどこかに行ってしまっていて、いまだにアカシアの街に帰ってきていない(四闘神(てんじょうしらず)の活動も放り出している)ようだ。


 そしてムミョウは、四闘神(てんじょうしらず)のハウスを訪ねて、出てきたヨイチさんにこう言われた。


『かはは。まぁ、オイラたちはこの街では弟子を取らないようにしてるからなぁ』


 すげなく断られて、それでもムミョウは随分と食い下がったらしい。


 そうすると、最終的には仕方がないなぁと折れたヨイチさんに「それならまずは、ウチに弟子入りするに足る実力を示しなよ」と言われたようだ。


 それはつまり、この街で探索者としての実力を示せ、と言われたということであり、


 だからムミョウは、そこらへんでダラダラしてるカスども(やる気もなければ実力もない底辺チンピラ探索者たちのことだ)を誘って探索者パーティーを組もうとしていたようだ。


「いやお前、なんでそんなカスどもを誘ったんだよ」


 あいつらは探索者登録をしてあるだけの犯罪者予備軍で、衛兵の見てないところでだけ威勢がいいような奴らだぞ。


 誘うにしても、もうちょいマシな選択肢はいくらでもあっただろ。


「拙者以外が弱っちければ、拙者の実力がよりハッキリ際立つと思ったのでござる。……まぁ、あそこまで弱っちいとは想定外だったでござるが」


 あまりにも惰弱で軟弱すぎて、パーティー組む前の力試しで軽くシバいたら、皆ケツまくって逃げ出してしまったらしい。


 それで、あの惨事か……。


「親切心で教えておいてやるが、お前、生身の戦闘力はこの街の中でもかなり上位クラスだと思うぞ。大半の人間は生身でお前と戦うことはできん」


 俺だって、生身同士でお前と戦おうとは思わないからな。

 絡め手とハメ技使って十数秒足止めできれば上等ってぐらいだろ。


「そうでござるか? 其方は、かなりやれそうに感じるが?」


「それは俺が幻想体になってるからだよ。幻想体の戦闘力は生身とは比べ物にならないからな」


 そして幻想体だと装備品が使える。

 武器系の装備品もそうだし、お前みたいに幻想力を使うやつを察知できるレーダーとかも使える。


「……なるほど、それで」


「逆に言うと、俺は幻想体にならざるを得ないほどお前の戦闘力を警戒してるってわけだ。……頼むから、不用意に剣を抜くなよ? 俺も、お前相手だと少しばかり手加減が難しそうだ」


 勢いあまって怪我させたり、万が一殺しちまったら困るからな。

 お前もムサシさんに会う前に余計な怪我はしたくないだろ?


「……分かったでござる」


「そのうえで、確認だ。お前はムサシさんに会いたいがムサシさんはお前に会いたくない。ムサシさんに取り次いでもらえそうなヨイチさんからは、先に探索者としての実力を示せと言われている」


 そしてお前は、いまだパーティーを組むこともままならない状況であり、そこに現れた探索者として一定の実力を有する俺たちと話がしたくて、俺たちが四闘神(てんじょうしらず)のハウスから出てくるのを待ち構えていた。


「間違いないな?」


「そのとおりでござる」


「で? お前は俺たちにどういう話をしたかったんだ? 単刀直入に言ってみろよ」


 余計なこと言わずに一言でまとめられたら、検討するのもやぶさかじゃねーぞ。


 そう伝えて、しばらく待つ。


 ムミョウは、何度か口をモゴモゴさせたあと、抹茶を一口飲む。


 それから真剣な表情を浮かべて、深く頭を下げた。


「タキオン殿。拙者を、探索者として導いてほしいでござる……!!」


 良いぜ。

 しょーがねーから、まずは仮弟子ってことにしてやるよ。


 ということで、また仮弟子が増えてしまった。


 四闘神(てんじょうしらず)の皆さんとの銀ダン潜りを進めるためにも、ちょいとばかし頑張ろうと思う。


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