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第二部22話目・地に足のついた鍛え方で天井知らずに強くなった男たち


 ◇◇◇


 さて、今日も元気に銀ダンだ。


 だが今日は、銀ダンに入る前に寄るところがある。


 俺は弟子3人を連れてハウスを出て、途中で合流したメイベル(ティナ)を連れて街中を歩き、高級菓子店「和味庵(なごみあん)」に入る。


 そこで一番人気の「ふっくらこし餡まんじゅう」の30個入り箱を購入した。


 風呂敷に包んで所持品枠に入れていると、ユミィが話しかけてくる。


「タキ兄ぃ、それって確か、予約しとかないと買えないめちゃくちゃ高級なやつだよな?」


 ああ、そうだよ。


「そんなの買って持っていくってことは……、タキ兄ぃ、もしかしてこれからすごい人たちに会いに行く感じなのか?」


 そういうことだ。


「虹ダンの最先端を攻略しているパーティーの一つ、四闘神(てんじょうしらず)の皆さんに会いに行く。……良いかお前ら、マジで失礼のないように気をつけろよ?」


「……てんじょうしらず?」


 ツバサ、お前たちにも分かりやすく言うとだな。


 生身同士の戦いなら、カマーンさんが100人いても四闘神(てんじょうしらず)の4人には勝てない。


 それぐらいには強い人たちだ。


 そして幻想体同士の戦いなら。

 カマーンさんが1000人いても鎧袖一触だ。


「え、そんなにアルカ?」


 カマーンさんのクンフーを知っているモコウが驚く。


「ああ。武器や戦法の相性の問題とかもあるが、それを抜きにしてもあの人たちはクッソ強い」


 ほんとに同じ人間なのか、疑わしくなるほどだぞ。


「たまたま分かりやすいからカマーンさんの名前を出したが、例えば姉貴の人形が何千体いても勝てないし、フレスピークならデコピンで瞬殺だし、コン=ペイトのおっさんでも片手であしらえる強さだ」


「ほへー……! すごーい!」


「いや、フレスピは絶対に無理だろ……」


「コン師範が片手……!? それはヤバいヨー……」


 俺たちとは強さの次元が違う。

 まさに達人。武の極致だ。


 あの人たちとまともに戦えるのなんて、暴れ竜のスペードさんか、最硬の騎士ブロトーンさんか、超人グッド=ジョーさんあたりぐらいだろう。


 抑え込めるという意味なら堕天組の傷物聖女(スカーフェイス)様とかもだろうが、それは生身の戦闘力という意味ではないし、


 タイマンでならまともに戦える人も何人か知ってるが、それも相性が良い相手ならの話だ。


 大盾と巨大鬼鎚(オーガハンマー)を使う鬼神ユウギさん。


 長短ブレードの二刀流剣士、剣神ムサシさん。


 雷長斧槍(サンダーボルト)を使う雷神トオルさん。


 そして大弓の弓士(アーチャー)、弓神ヨイチさん。


「ただでさえクソ強い武芸の達人たちが、4人揃って完璧な連携をする。四闘神(てんじょうしらず)はそういうパーティーで、だから虹ダンに挑めている」 


 長年磨き上げた技術とそれによって裏打ちされた強さを、完璧に重ねてより大きな強さにしているわけだ。


 そしてその強さの形は、俺が理想とする探索者像とも重なる。


「だから俺は、あの人たちには最大限の敬意を払っているし、間違っても敵対するようなことはしたくない」


 それにあの人たちは寛容だが、その気になれば生身のままで俺たち全員を10秒かからずに八つ裂きにできるだけの武力を持っている。


 万が一怒らせたら、命はないものと思え。


 と、バカ弟子たちをさんざん脅しながら歩き続けていると、四闘神(てんじょうしらず)のパーティーハウス前まで来た。


 だが、そこでは、不可解な光景が広がっていた。


「なんだ、ありゃ……?」


 俺は首を傾げる。

 というのも、そこには死屍累々といった様子の惨事が広がっていた。


「ううっ……、痛ぇ、いてぇよぉ……」


「も、もう無理だ……、俺には、無理……」


「こ、こんなとこいられるか! 俺は村に帰るぞ……!」


 いい歳した男たちが、どいつもこいつも顔を腫らして目に涙を浮かべ、地面に横たわっている。


 何人かは這々の体で這いずり、ハウスの前から離れようとしている。


「ま、待つでござるよ!? これしきのことでへこたれるなんて、それでも其方らは武士(もののふ)か!?」


 唯一、元気な様子の黒髪おかっぱ頭(背が低くて貧相な体つきのやつだ)が、逃げようとする男たちの服を掴んでわめいていた。


「ほら、拙者ごときに負けたままでは男が廃ろう!? もう一度立ち上がって! 挑んでくるでござるよ!」


 おかっぱ頭のチビが興奮した様子で男の肩を掴んで揺する。


 額に巻いた白ハチマキがヒラヒラと揺れ、腰に吊った2本の細剣がカチャカチャと鳴っている。


 ……生身でも武装してるタイプか。


 それに、あれだけ揺らしているのに、体の真ん中に芯が入っているみたいにブレが少なく、立ち姿にも隙がない。


 コイツ、今のモコウに負けてないぐらい、手練れなんじゃないか……?


 ……よく分からんが、絡まれたら面倒だな。


 俺は、腰のポーチに忍ばせてある寸鉄(鉄の棒に指通しの輪がついたものだ)と分銅付きの革紐に手を伸ばしつつ、


 反対の手ではタグプレートに触れ、いつでも幻想体になれるようにしながら、様子を見る。


「ほら! さっきはちょっと拙者もやり過ぎたでござる! もっかい! もっかいやったら大丈夫でござるよ!」


「い、嫌だ! 放せ! お前みたいなションベン臭えガキに憐れまれながらボコられるなんて、もう懲り懲りだ!」


「だ、誰がションベン臭いガキか!? この、不届者め!」


 ボカリ、と殴られた男はそのまま「ぐえーっ」と気絶した。


 その様子を見た他の男たちは、さらに顔を青くして逃げ出していく。

 蜘蛛の子を散らすとはまさにこのことだ。


「に、逃げるんじゃなーーい!!」


 おかっぱ頭の叫びも虚しく、残ったのは意識を失ったか体力が尽きたかで動けなくなった者たちばかりだ。


 そしていつの間にかハウスの玄関先に出てきていたヨイチさんが、口を開く。


「かはは。みょん子は相変わらずだなぁ。そんなんで、ほんとにやれるのか?」


「よ、ヨイチ殿!? これは、ちょっとした手違いというやつでござる! ま、まだチャンスは残ってるはずでござる!!」


「いや、良いんだけどさぁ。オイラは、先にそっちのニイちゃんに用があるんだよ」


 ヨイチさんが俺を指差す。


 するとおかっぱ頭のチビがグリンと音の鳴りそうな勢いで首を回してこちらを見た。


 おいおい。

 目ぇ血走ってんぞ、コイツ。


 なんだかよく分からんが、キマり過ぎだろ。


「こ、こちらの方々は?」


「愉快な後輩ちゃんたち、だなぁ。ほら、こっち来いよター坊。後ろのネエちゃんと、嬢ちゃんたちもな」


 呼ばれて、俺たちは四闘神(てんじょうしらず)のパーティーハウスに入るのだが、


「…………っ!!」


 その間、ずっとおかっぱ頭に睨まれていて、全然良い気はしなかった。


 だがヨイチさんは気にした様子もなく扉を閉める。


 仕方がないので俺は、ひとまず、所持品枠からまんじゅうを取り出して深く頭を下げた。


「これ、つまらないものですが」


「かははっ! それ、ほんとに言う奴いるんだな! おうおう、まぁ、遠慮せず上がりなよ」


 そして俺は、緊張した様子の弟子たちとともに応接室に入った。


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