第20話 おいでませ、メイド様!
「うぉ…でっか」
(おっきいね)
俺は目の前の壁、いや…人を見上げながら固まっていた。
おやつの時間に突然、部屋に不審者が入ってきたからだ。
「初めまして、クァンナドーニャ様。
この度、メイドとして参りました大門 静と申します」
ガラガラの掠れた野太い声で丁寧に自己紹介した人をマジマジと見る。
指で摘める程しか無い短い髪に巌のような角張った顔は天井の高さスレスレまであり、それでも部屋の高さが足りないせいか少し俯き気味。
服を張り裂かんと膨れ上がった肉体は脂肪ではなく鍛え抜かれた身体であると見ただけで分かる。
特に上半身と腕の太さは中に人が入っていてもおかしくない程だ。
下半身は丈の長いスカートを履いている為、見えないがきっと丸太を彷彿とさせる太さに違いない。
成人男性の複数人分もあるような巨体はドーンさんと比べても二回りは大きく感じる。
そんな巨人が長袖ロングスカートのメイド服を着てる様子はギャグにしか見えない。
しかも黒い革製の手袋をしているせいか、格闘ゲームのキャラクターのコスプレのようだ。
「いや、ちょっと何を考えてんですか!?
人には言えない秘密とかどうする気です!?」
そんな縦にも横にも大きな人を見て驚きのあまり呆然と固まってしまった。
正気に戻った俺は横でドーンさんが揚げたばかりのドーナツを食べてる妙さんに俺は叫んだ。
しかし、妙さんもドーンさんも突然現れた巨人メイドに慌てた様子はなく落ち着いていた。
「彼女は身内だから安心して良いわ。
事情も既に話してあるから。
明日から私達は仕事を再開しなきゃいけないから呼んでおいたわ」
…女性?
これが?
どう見ても女装した屈強な漢にしか見えないけど?
屈曲な漢メイドに家事を?
スーツを着てボディガードですと紹介された方が納得がいくぞ?
「はい、お嬢様から全て伺っております。
誠心誠意、務めさせていただきます」
お嬢様。
それはやはり妙さんの事を指しているのだろうか。
妙さんって名家の出とかなのか?
今まで動いた大金の出どころって二人の資金以外にもあったりするのだろうか。
名家から借金という言葉が脳裏を掠めていくが知らないふりをしておこう。
俺には縁の無い話、うん、そういう事にしよう。
それよりも…全てを伺っているというけれど。
どこからどこまでなのだろうか。
俺がカナちゃんの体に憑依している事も?
それとも死んでも生き返る能力?
それを遠回しに聞こうと妙さん達に近付こうとしたが大門さんの言葉で遮られた。
「それでは早速、仕事をさせて頂きます」
そう言って壁…巨人…大門さんが俺に音もなしに近寄って来た。
ヒェ、無音で迫り来る壁、怖っ。
「えぇ。
娘を頼んだわ、大門」
「えっと…何を?」
あまりの巨体さに思わず後ずさってしまったが大門さんは俺を割れ物でも扱うかのように優しく抱き上げて部屋から連れ出して行く。
その時に見えたドーンさんの悲痛な表情に嫌な予感がした。
何をするのか恐る恐る尋ねたが大門さんが答える事はなかった。
というかこちらを見もしない。
ただ安定感は素晴らしかった。
流石は漢メイド、筋肉は伊達じゃない。
移動した部屋には何も無かった。
備品も窓も無い。
有るのは照明と扉のみ。
何も無い部屋だ。
(ここはどこ?)
カナちゃんも見覚えは無いらしい。
大門さんからそっと降ろされた俺は初めて入る部屋を見渡す。
何もない部屋で何をするのか。
ドーンさんの悲痛な表情を思い出して、ようやく思い至った。
俺は今からこの人に殺されるのだ。
自殺の手伝いを二人にお願いしてはいたが、まさかその手のプロを呼ぶとは思わなかった。
自分から頼んでいた事だが、やはり死ぬのは怖い。
思い出すのは病院で死んだであろう、あの時。
熱と苦痛に苛まれた、あの瞬間。
決めていたはずの覚悟がどんどん剥がれ落ちるような感覚に足が震える。
思わず出そうになった弱音を口を抑えるが荒くなった息は隠せない。
工程を見せない為か顔に細い布で目隠しをされた。
悲鳴を抑える為か口枷をされた。
震える体を大きな何かが覆う。
そして顔にも冷たい感触。
これは、まさか…顔と全身を掴まれているのか?
(もしかして、殺されちゃうの?)
カナちゃんもようやく理解が及んだらしい。
しかし、今は肯定する事すらできない。
声を上げる事も身動きもできないのだから。
だが、それで良かったのだろう。
今は絶対に声が強張ってしまう。
感情が声に出てしまう。
動ければ逃げ出そうとするだろう。
殺される直前の恐怖は思った以上に俺を蝕む。
とうに決めた覚悟を嘲笑うかのように。
長く感じた静寂の後、硬い物が擦れるような音が全身に響いた。
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『アクマ は タオれて しまった。
シイン は タシャ に よる ケイツイソンショウ。
シーワード を エラんで フッカツ しよう!』
『カイリキ・インペイ・ワイキョク』
痛みは無かった。
ただ、硬い物が擦れて折れるような、そんな音が全身に響いただけだった。
(わぁ…
カナ達、殺されちゃったね)
もちろん、死ぬ前はとても不安で怖かったが、こんなにもあっさり殺されるとは思わなかった。
流石はプロ、素人だろうカナちゃんの両親だと、かえって苦痛を味わったかもしれない。
(えっと…
カイリキって力持ちの事かな?
オオカドさん、すごい大きかったもんね)
そう考えると来てくれて良かったのだろう。
しかし、殺人に抵抗の無い身内とは?
もしかして妙さん、極道とかそっちの人だったりするのだろうか?
うーん、確かに大門さんは護衛よりも殺し屋と言われても納得してしまいそうだ。
(インペイとワイキョク?
こっちは分かんないなぁ。
でもシーワードは状況ってアクマさんが言ってたから…
別の部屋に行くって事?
それとも抱っこされる事?)
…カイリキはカナちゃんと同じ意見だけどインペイは隠蔽、つまり隠す能力だろう。
自身を隠すのか他者を隠すのかまでは分からないけれど。
ワイキョクは…なんだ?
咄嗟に浮かぶのは磁石のS極N極なんだが、違うよな。
(あ!
いんぺいこうさく!
せーじかの人がみんなやってる!
テレビで言ってた!)
うん、まぁ、否定はしない。
悪い政治家はやっててもおかしくは無いけど。
ただ、能力としては良い部類だと思う。
だって俺達は秘密を抱えている。
それを隠せる能力はあっても損はない。
でも、カイリキも捨てがたい。
シンプル・イズ・ベスト。
単純な効果であれば他の能力とも合わせやすいし。
(う〜ん。
カイリキを選ぶと力持ち。
オオカドさんみたいに体が大きくなるのかな?
インペイは悪い事)
能力に体は反映されない、と言いたいがゲームと現実で違うかもしれないからなぁ。
女の子が突然、筋肉ムキムキになって喜ぶかと聞かれたら否定する人は多そうだ。
まぁ、カナちゃんなら喜びそうな気もするけど。
(ワイキョクってなんだろ?
…きょく?
もしかして音楽かな!)
いや違うと思うぞ?
さっきの状況で音楽関連の要素は皆無だぞ?
(ワイキョクを選びます!)




