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デッド・エンド・カウント  作者: 美咲
第1章 病院生活から
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第1話 バイトの初日

真夏の容赦ない暑い日差しを背に大きさの割にとんでもなく重たい段ボールを両手でなんとか抱え上げてトラックの荷台へと乗せた。

これが最後の荷物だ。


ったく、どれもこれも重かった。

何をどれだけ詰め込めばあんなに重たくなるんだ?

思わずその場にしゃがみ込んでしまった。

下を向いた途端に俺の顔から滝のように流れる汗が数滴地面に落ちてシミを作る。

こんなに汗をかいたのは運動会ぐらいだ。


引越しのバイトは…きついって聞いてたけど…

思った以上に…きついなぁ…

暑いし、重たいし…

そして時給が高い。

夏休みの間に稼いで秋から発売のゲームを買いまくってやる。

この汗の一滴一滴がゲームに変わると考えれば労働も悪くない。

むしろもっとやってやる。

新しいゲームがもっと欲しいから。


「よぉ新入り、終わったか?」


「はぁ…はぁ…

 んん、はい、乗せ終わりました、高島さん」


俺は息を整えながら顔を上げた。

そこにはピンクと黄色の遠くからでも目立つ制服を着た太めの中年男性が笑顔で両手にペットボトルのお茶を持って立っていた。

この人は俺を雇っている引越し業者の正社員である高島さんだ。

今日は俺のバイト初日でベテランである高島さんとペアを組んで現場に来たのだ。


俺よりも倍以上の荷物を運んだはずなのに少し汗ばむ程度でとても余裕があるように見える。

プロって凄い。

エレベーターがないアパートの最上階から地上まで何度も荷物を持って往復したのにまだまだ元気そうだ。


「おぅ、ご苦労さん。

 日陰でこれでも飲んで少し休んでろ」


高島さんは持っていたペットボトルのお茶の一本を俺の方に差し出した。

優しい。

俺、あんまり役立てなかったのにお茶までくれるなんて。

俺は感動しながら高島さんにお礼を言って俺の柔肌を焼き続ける日差しから逃げた。

そろそろ昼時なのか影がとても狭い。

アパートの壁に寄りかかるように影に入るとペットボトルの蓋を開けてお茶を頂いた。


…あぁ、生き返る!

重労働した後の冷たいお茶がこんなに美味しいなんて。


高島さんはペットボトルのお茶を飲まずにトラックの荷台に乗り込み荷物の整理をしている。

入ったばかりの俺じゃ荷物が動かないように固定するのは難しいからな。

本来は俺も加わって仕事を覚えるべきなんだろうけど。

今は高島さんに甘えて休ませてもらおう。


俺は今ハマっているゲームの事を考えながらぼうっとしていた。


突然、上から叫び声が聞こえた。

頭に衝撃そして痛みが伝わった。

何だ!?

何が起きたんだ!?

俺はそう思いながらどんどん近付いてくる地面を見る。

そして意識を失った。


#####


『アクマ は タオれて しまった。

 シイン は ハチ が アタマ に ラッカ。

 シーワード を エラんで フッカツ しよう!』


『サイセイ・ツチクレ・ショウゲキ』


軽快なのに妙にリズムがズレた聞き覚えのある曲が聞こえる。

目の前には見覚えのある特徴的な文字がデカデカと浮かんでいる。

その文字の下に発光色で彩られた骸骨がクルクルと横回転しながら宙に浮いている。

それ以外は何も見えない暗闇が広がっている。


なんで、DEC(デック)の死んだ時に出る文章が目の前に浮かんでいるんだ?

それにアレってDJスカル、だよな?

俺はさっきまで引越しのバイトをやってたのに!?


(え、え?

 アクマ、さん?)


はい?

何故か見知らぬ、幼い女の子の声が辺りに響く。

周囲を見渡しても文字とDJスカルしか見当たらない。


(選ぶって…下の3つから、ですか?)


少女の困惑したような声音が響く。

待ってくれ!

あんたは誰なんだ!?

それでもって選ぶならツチクレかショウゲキにした方が良いぞ!


だってこのゲームは…


俺は姿の見えない少女の声に戸惑いつつもゲーマーとして親切心で伝えようとした。

しかし、俺の声は少女に聞こえていないのか話が進んでいく。


(サイセイって…もしかして先生が話してたアレ?

 怪我や病気が治るって。

 倒れたって事はアクマさんは怪我をしたの?)


違う!!

怪我じゃない死んだの!

それにサイセイを選んじゃ死に難く(・・・・)なるだろ!?

このゲームは如何に死にやすい状態を維持したまま強くなるかを…


(それにフッカツって…主のみわざ、かな?

 ママが話してたお話しの。

 凄く良い事、だよね?

 ………分かりました!

 必要なのはサイセイですね!

 サイセイを選びます!)


あ゛ぁ゛!?


#####


「ッカハ!?」


俺は叫びながら目を覚ました。

正確には叫ぼうとしてむせた。

喉に違和感がある。

声が出ない。

しかし咳ばかりが出て苦しい。

それに高熱が出ているのか全身が熱く、何か小さな…虫のような何かが体の中で暴れているような感覚がある。

激痛と痒みと不快さで暴れたいのに体が思うように動かない。


「ゲホッゴホッ!?」


何が起きてるんだ?

苦しい、苦しいぞ。

今も痛みで叫んでいるはずなのに声が出ない。

暴れたいのに動く事もままならない。

俺の身に何が起きてるんだ!?


(あ、あれ?

 苦しくない?)


ふと幼い女の子の声が聞こえた気がした。

しかし今はそれどころじゃない。


周囲は暗くてよく見えないし、機械の駆動音と空気が抜けるような音が側から聞こえてくる。

自分がどうなったのか、この場所さえも分からず、どんどん戸惑いと恐怖が膨らみ、俺はパニックに陥っていた。


(うぇ!?

 なんかモヤモヤします!)


何度目かの咳で喉から何かが取れたような感覚があった。

喉に冷たい空気が抜ける感覚とジクジクと痛みが走る。

ピー、ピーと高い音も聞こえ始めた。


「カナちゃん!

 大丈夫!?」


それから数分もしない内に誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。

引き戸を開けると同時に誰かの名前を呼びながら女性が入ってきた。


俺は体が動かないから目だけを向けると彼女は急いで俺の方へ近付いてきた。

彼女はナース服を着ていた。

どうやら看護師らしい。

ならここは病院か?

痛み止めでも良いから早くなんとかしてくれ!

そう叫びたいが出るのは激しい咳が出るだけ。


「外れてる!」


彼女は俺を見ると顔色を変えて壁に付けてあるボタンを押して他の人を呼び始めた。

誰でも良いから早くなんとかして!


(あわわ、どうしよ、どうしよ!?

 大変な事になっちゃった!)

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