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「初めまして!」

「は、はじめまして……」


 その太陽のように元気いっぱいな少年の笑顔に、リコリスは気圧されながら挨拶を返した。


 それがふたつ年上の少年──ヒューゴとの出会いだ。

 ヒューゴは笑顔のキラキラした、明るくてカッコいい男の子だった。燃えるような赤い髪と、意志の強そうな金色の瞳が印象的で、対面したリコリスはわけもなくドキドキとした覚えがある。


 正式に婚約者として紹介されたわけではない。

 それでも、いつか婚約者になるかもしれないと、貴族の子どもとしてお互いが理解していた。


 ヒューゴは大人しい引っ込み思案のリコリスの手をぐいぐいと引っ張ってくれるような存在で、リコリスはヒューゴの隣にいると楽しかった。

 鬱々とした人生の中で、ヒューゴの存在だけがリコリスの救いになっていった。





「リコリスは、自分の家のことが嫌いなのか?」

「えっ……」


 ヒューゴと出会って三年ほどたったある日のこと。

 突然のヒューゴの問いに、リコリスは目を丸くした。隠してきたはずのリコリスの苦しみを見透かしていたらしいヒューゴの言葉に、リコリスは驚きを隠せない。


 マーガレット中心に動く家の中はリコリスにとって地獄にも近かったが、外面のいい家族はそれを表に出したことはなかったはずだ。もちろん、その『家族』には一応リコリスも含まれている。


(どうしてわかったの?)


 うまく言葉を紡げないリコリスを、ヒューゴの金色の目が真っ直ぐに見つめてくる。

 リコリスはおろおろと目を泳がせた。


「それは、その……」

「嫌いなんだろ?」

「…………はい」


 リコリスが消え入りそうな声で返事をすると、「やっぱりな」とヒューゴが頷く。


「ウィンター伯爵家にいると、リコリスはいっつも暗い顔してるもんな。マーガレットが傍にいるときは特に」

「わかるの……?」

「わかるに決まってるだろ。婚約者なんだから」

「ま、まだ婚約者じゃないでしょ!」

「でも、その内そうなるだろ」


 さらりと言って、ヒューゴは庭園の芝生の上に寝転がる。行儀はあまり良くないが、リコリスはヒューゴのそういうところが嫌いではなかった。


 今日、リコリスはテランド伯爵家に招かれて、ヒューゴとお茶会をしていた。

 なんてことはない。婚約者候補として親睦を深めるためのお茶会だ。


 リコリスは芝生の上に寝転がったヒューゴの整った顔を無言で見下ろす。


「…………」

「なんだよ?」

「別に……」

「俺と結婚するのが嫌なのか?」

「そういうわけじゃ……」


 ただ、ヒューゴも本当はマーガレットの方が良いと思っているのではないかと、そんな不安があった。

 言葉を濁すリコリスを見上げ、ヒューゴは口角を上げて笑う。


「ならいい。あと数年の辛抱だ。俺がウィンター伯爵家の婿になって、お前を守ってやる。マーガレットもロベルトと結婚して家を出ていくんだから、いまよりずっと暮らしやすくなるぞ」


 ヒューゴの言葉にリコリスは呆気に取られて、目をぱちぱちと瞬かせた。

 その五秒後──リコリスの顔がじわじわと赤くなっていく。


「なっ……と、突然、なにをっ……」

「どうした? 急にプロポーズされて照れてるのか?」

「~~~~もうっ!」


 リコリスは真っ赤な顔を隠すように、ふいっとそっぽを向いた。

 背後からヒューゴの笑う声が聞こえてくる。でも、決して不快ではない。


 ヒューゴが守ってくれると言ってくれて、リコリスはうれしかった。早く大人になって、ヒューゴと結婚したいと思った。


 ……しかし、それから一週間もしない内に、悲劇が起こる。

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