星まとう君に
賑わう街の中心部からは遠く外れた、山の裾野に広がる町。ぽつぽつと灯る家々の灯りよりも月の光のほうがずっと明るい。
「和樹さーーん!」
はやくはやく、と少し遠くから急かすゆかりの声に和樹は思わず苦笑を浮かべる。
「ゆかりさん、暗いんですから足元気をつけてください」
口に手を当てて言葉を返すが、ゆかりは気にする様子がない。
「大丈夫ですよ~。私、こう見えて目がいいんですか、らッ!」
言った傍から何もないところで転びそうになったゆかりの腰をすかさず支えた。
「だから言ったんですよ……」
「あ、あはは……」
バツの悪そうに笑ったゆかりをゆっくりと立たせる。和樹はその自然な流れのままゆかりの手をそっと握った。
「また転ばれては大変ですからね」
「もう大丈夫ですって!」
薄く頬を染めたゆかりの手が微かに和樹の手を握り返す。それだけで愛おしくてどうにかなりそうになる。
久しぶりに取れた連休を使って旅行をしようと和樹がゆかりを誘ったのは三日前のことだ。急な頼みにもかかわらず、ゆかりはなんとか都合を付けてくれた。
目的のコテージへ向かう途中で、和樹は少し足を止めて時計に目をやった。
「和樹さん?」
「ゆかりさん、今日は何の日か知ってます?」
「え? 何の日だろう……」
「ヒント。天気予報」
「天気予報……?」
しばらくの間、握った右手を口元に当てて真剣に考えていたゆかりは、ううん、と唸った後でパッと笑顔を浮かべた。
「分かった! 流星群の日!」
「正解です。そろそろ極大を迎える時間ですが、この辺ならよく見えそうですね……あ、ほら!」
「え、どこ!?」
キラリと滑る光の筋。ゆかりはわーっと声を上げると、なぜか繋いでいない方の手を懸命に伸ばした。まるで落ちてくる星を受け止めようとしているかのように。
「綺麗な星空ですね!」
高い建物も何もない空いっぱいに満天の星。ゆかりの声も、その笑顔も、星空の中に響き渡ってまた星が零れた。その光景があまりにも美しくて和樹はしばし言葉を失う。彼女が転ばないように、そっと握った手を引き寄せて、腰にもう片方の腕を回した。
「か、和樹さん?」
思考より先に身体が動く。放っておいたらそのまま星になってしまいそうな彼女を腕の中に閉じ込める。
「……空に昇らせてなんてやらない」
ぼそりと呟いた言葉が聞こえたのか、ゆかりが不思議そうな顔を向けた。そんな彼女を星にも月にも見られないよう抱き込んで、和樹は緩く抱きしめた。
その夜、何も言えないままで抱きしめる和樹と何も言えずに抱きしめられたままでいるゆかりの上に、星たちは幾度も幾度も降り注いだ。
執筆中BGM:V6「ある日願いが叶ったんだ」
この曲、歌詞がそのまま流れ星がテーマの短編小説になりそうなんですよね。
こぼれ話。
ちょっと調べてみたところ「流星群の日」という記念日はございませんでした。
ご都合ワードです。
流星群自体は年がら年中とまではいきませんが、観測しやすい時期はそれなりに多いようなので、タイミングが合うなら旅行先に選ぶのもいいですね。