魔王?
果てなく続く黒い空間。
その中で一か所だけ、星の煌めくように明い場所。
光に下にはまた、一人の青年の姿。
――「魚真 能城津さん」――
例のごとく、私は天から舞い降りる。
やはり見惚れてますね。
なんたって私は女神ですからね!!
シュタッ(着地)――決まったっ!
「ようこそ死後の世界へ。私は女神アテナ――」
「おお女神様!!!!」
「にゃ!?」
なんですか!?
私のセリフを遮りやがりましたよこのやろう!?
もう優しくしてあげませんよ!?
「私はついに!! 深淵に辿りついたのですね……!!!?」
「はぃ?」
「この力をもって私は世界を破滅へ導く!!――」
チョットナニイッテルカワカリマセン……
え、えーっと、この青年の情報は――
魚真 能城津20歳
学力――高い
運動神経――高め
対人関係――なし
――なし……?
ボッチですらなく、なしですか……
死因は――――山に籠もり、滝に打たれ、飲まず食わずで過度な修行を続けた末に、餓死。
天使からの補足――頭おかしいですこの人
なるほど……?
推察するに、深淵?とやらに至ろうと修行をしていたのでしょうか?
とりあえず、頭おかしいことだけは確かですね。
中二病をこじらせてるというか……
邪気眼の覚醒をしたかったのでしょうかね?
というか、勇者になっちゃダメな人ですよね?
勇者というよりむしろ――
「――そう、魔王としてな!! はっはっはっ ああっはっはっ――」
「…………」
そう、魔王です。
はっきりと魔王になるって言いましたね……
うわぁー、痛い。
痛すぎます。
どうしよう。
こんな危険人物、記憶を消去して魂を漂白して、純粋だった頃からやり直した方が――
いやいや、ちゃんと話を聞いて、魂を導くのが私の務めです。
一応お話くらいはしませんと。
対話できるのか怪しいですが……
さっき私の言葉を遮られたこと、まだ許してませんからね?
どういうわけか、私に対する敵意というのは一切感じられず、むしろ熱心な信仰心を感じます。
もしや、『同志』みたいに思われているのでしょうか?
魔王を志す自分を呼んだのだから、女神は魔王の協力者となる者……みたいに。
私の担当は勇者側なのですが……。
うまく魔王を倒す方向にまるめこめないものでしょうか。
「魚真 能城津さん。一度死んだあなたは、異世界の勇者候補に選ばれました。『魔王を倒す』勇者です!!」
「――その異世界には、私以外の魔王が君臨している、ということでありますか?」
「ええ、そうですけど……」
もしやこの青年……
「ならばお任せください!! 私が腑抜けた旧魔王を打ち倒し、新たなる魔王として世界を混沌の渦に墜としてみせましょう!!」
青年の中で勝手に今の魔王が臆病で、私が暴虐を望んでいることになっている……
なんと思い込みの激しい青年でしょうか。
でも、魔王を倒す意志だけは溢れているんですよね……
まあもし青年が魔王になっても、実は問題ないですしね。
あっちの世界は、"魔王と勇者が戦う世界"なのですから。
むしろ一人二役なんてありがたいです。
魔王側は私の担当ではないですけれど。
この妄想青年にはせいぜい勇者vs魔王の戦いを盛り上げていただきましょう。
願い事で釣る必要もなさそうですしね。
魔王になるという願いで。
魔王の次に強かった者が魔王の力を受け継ぐのを、勇者に変えてやればいいことです。
こちらとしても都合がいいですね。
ということで、武器か才能の一つだけを選んでもらいましょうか。
青年の言っていた深淵――超能力的な力を得た、とでも言った方がやる気が出ますかね?
やはり魔法の才能でしょうか。
厳しい修行の末に魔法を使えるようになり女神様に見初められて魔王となる――
――完璧ですね!!
なんか『解脱』みたいですね、仏教の。
輪廻に還らず、異世界で生き続けるのですから。
では、この美しき女神アテナ様が青年をおだてまくって勇者にしてしまいしょうか。
魔王を倒すやる気をアップさせる、私の腕の見せ所ですね。
「ありがとうございます!! あなたは厳しい修行によって、極めて強い破壊魔法の力を会得しました。もはや破壊魔法の才であなたに並ぶ者はおりません。必ずや古き魔王を打ち倒し、新たな魔王として君臨することでしょう!!」
「破壊魔法……!!」
なんとなく雰囲気をだして、破壊魔法の才能を選んでみましたっ!!
破壊魔法。
あらゆるものを破壊し、塵と化す魔法。
扱いが難しく多彩さに欠けますが、その分効果は強力です。
女神が与える何者にも負けない最高の才能があれば、使いこなすのも容易でしょう。
青年の性格にも合ってますし、怪物が生まれることでしょうね。
それでも単騎で魔王は倒せないでしょうが……
これで青年は勘違いしたまま、勇者となってくれるでしょう。
本人も嬉しそうですし、いいですよね?
ということで最後の決め台詞!!
「さあ勇者よ。あまたの勇者候補者の中で、あなたが魔王を打ち倒すことを祈っております」
「お任せください。女神様」
今回は速く終わりましたね。
女神の闇を見た?
――女神が必ずしも勇者の見方とは限りませんよ?
私は魂を導く女神であるとともに、世界の均衡を保つための勇者側の担当です。
ただ戦闘員を送るだけの。
一つ、面白い話を教えてあげましょう。
歴代の魔王となった者の中には、元勇者も多くいるのですよ。
魚真 能城津
反対から読むと、「次の魔王」です