あなたはそちらを選ばれるのですね?
ごきげんよう、皆様。私は…そうですねぇ、とある悪役伯爵令嬢とだけ言っておきます。これだけで察しのいい皆様はお分かりいただけたかと思いますがええ、私はとある乙女ゲームに転生してしかも騎士団団長子息の婚約者になってしまいましたの。
先にさらっと元の乙女ゲームの内容をお教えしますと第一王子を始め宰相子息、魔法師団団長子息、大商会跡取り息子そして騎士団団長子息なんかを攻略対象に貴族の隠し子であることが判明したヒロインが学園でキャッキャウフフなありきたりなゲームです。
攻略対象ひとりひとりに悪役令嬢がおり、本来であればハーレムルートはございません。悪役令嬢友情ルートはございましたけどね。
さてさて、これでさらに皆様お分かりになったかと思いますが、はい。今から学園卒業パーティーが始まろうとしています。はい、開催間近になってゾロゾロとやってきたヒロイン達。
は~元はハーレムルートなんてないしあの事もあるんだからこれだけは絶対にないと思っていたのに…これがお花畑ってやつか…。
…コホン、気を取り直しましてとっくに入場時間は過ぎておりますのに先生方や来賓の方にこれといった謝罪をする様子もなくズカズカと檀上に上がろうとするヒロイン一派。恥知らずですわね~。これから婚約破棄される身としてはいなくなってくれて嬉しいのですが巻き込まれる皆様にはちょっと申し訳ないです。
先生方が止めようとしてますがヒロイン一派に第一王子がいることで完全には止められないようですね…。先生方お疲れ様です…。
「悪役公爵令嬢はいるか!いるなら出てこい!!」
あっと、名誉のためにお名前はこちらで伏せさせていただきますわね。ご了承をば。
…悪役公爵令嬢様がしずしずと前へと出てきました。あの方も大変でしたわね。ルールもマナーも知らないヒロインに教えてさしあげようと近付けば泣かれ第一王子に報告されまんまと二人の恋のスパイスにされ、放っておけばヒロインに我慢ならなかった令嬢に突き上げられてとお可哀想でしたわ。ちなみに悪役公爵令嬢様は現宰相様の娘でもありまして宰相子息様の姉でもありました。休まる場所がどこにもなくて儚くなってしまいたいと弱音を出していた時もありました。そんな時は私の乙女ゲーム知識を生かして結成された悪役令嬢同盟でみんなで励ましていました。
…おっといけない、今は物思いにふけってる場合ではありませんでしたね。
「悪役伯爵令嬢、前へ」
あら、騎士団団長子息に呼ばれました。前をみれば他悪役令嬢の皆様はもう呼ばれている様子、いけないいけない。
私が前へと出るのを確認してから檀上にいる男性方が声あげる。
「「「「婚約破棄だ!!!!」」」」
私達を代表して悪役公爵令嬢が声を返します。
「…なぜでしょうか、理由をお伺いしても?」
するとヒロインがフルフルと震え始めて周りの攻略対象達と一緒に私達がどんないじめをしたかどんな暴言を吐かれたかなどの証拠もなにもない悪行を列ね謝ってくれればそれでいいなんて宣います。テンプレ通りも通りですね。
さて、そろそろ…
ばたん!!!!!
…お、やってきましたね。
「なにをやっているのですか、兄上!」
はい、第二王子登場。白々しいにもほどがある。めっちゃ扉前待機してたの知ってるんですよ。…はい、第二王子登場はこちらの計画通りですね。さて、ここから…
「なにってヒロインをいじめた悪役公爵令嬢を国母にするわけにはいかぬ、婚約破棄ののちに処刑か国外追放の刑に…」
「…悪役公爵令嬢殿と婚約破棄、されてしまったのですか?」
たずねるように聞く第二王子、まだ婚約破棄まででヒロインと婚約とか宣ってないからもう少し待って…
「ああ、そうだ!悪役公爵令嬢とは婚約破棄しヒロインと新たに婚約を結ぶ!」
あ、完全にやっちまいましたね。第一王子終了のお知らせ。
ここで皆様に少しこの世界の事情をお教えしますと…
ばったーん!!!!!
おっと、王様の登場ですね。これは計画にないですがざまぁ婚約破棄モノにはテンプレ展開なので予想の範囲内です。
「ばっっっかもーーーん!!!!!」
と王様泣き崩れてしまいました。まぁ、溺愛の側妃の子でしたものね。これは、悲しい。あ、ちなみに第二王子は王妃の子です。
さて、ちょっと切られてしまいましたが少し事情をお教えします。
これは、私達より前の世代やもっと前の世代にもあったことですがヒロイン攻略の乙女ゲーム展開があるあるな世界なんですよ。
そして、ハーレム展開もあるあるで婚約破棄が横行したんですね。ある時、それを止めようとある大神官様が言ったのです。
『これは神の試練である。』
と、これでは婚約破棄が加速するのでは?と思うかもしれませんが逆です。ヒロインは神の使いであり将来神に直接遣える神官を探しに来たことになっているんです。
つまり何が言いたいかっていういと…ハーレムしちゃうと神の使い扱いされて取り巻き共々身分なんかが剥奪されて天に迎えられる。んですよね。つまり、死。
なんで王様が泣き崩れたかもお分かりですね?可愛がってた息子が死んじゃうことになっちゃったんですね…。御愁傷様です。
ハーレムルートがないのに無理矢理ハーレムしてはいけませんね。
…あ、なんかヒロインが暴れてる。あーあ、意地の悪い第二王子が私がトリップしてる間に全部説明しちゃったらしい。
檀上にいた攻略対象達はみんな顔が真っ青で悪役令嬢達に助けを求めてますが知ったこっちゃありませんよ。
これは、平民でも知ってる常識でしたし内々にすませばまだよかったものをこんな来賓客もいるパーティーで大々的にだせば撤回も揉み消しも無理。
ヒロインも元々ないルートを無理矢理開拓しなければこんなことにはならなかったんですし自業自得です。
責任は取ってください、そちらを選んだのはあなた達ですよね?