1 お姉様
母親に手を引かれ、豪華な馬車に揺られて辿り着いたのはそれはそれは豪壮な格式高いお屋敷だった。
「よくいらっしゃいました。エリザベス様、ミッシェル様。私執事長をさせていただいておりますキックリと申します」
そう言って腰を深く折った初老の男性を未だあどけない6歳になったばかりの少女ミッシェルは訝しげな顔で見つめた。
自分たち親子に頭を下げていい人には到底見えなかったからだ。
昨晩から気合いを入れて着飾った母親に、自らもいつもよりは小綺麗な格好をさせられていたが庶民というのは隠せるものではない。
複数人のメイドと執事長に恭しく迎えられ居心地悪さを感じたミッシェルは母親にぎゅうっとしがみつき顔を隠してしまった。
「ご機嫌よう。今日からよろしくお願いします。ほら、ミッシェルもしっかり挨拶をしなさい」
グイッと顔を剥がされ渋々と頭を下げると声がかかった。
「やぁ!きたね!私の愛しいエリザベスそして可愛いミッシェル」
「ダルオン!あぁ、会いたかったわ」
「私もこの日をどんなに待ちわびていたことか」
突然の抱擁とキス。
驚き凝視すると、この男性は時々ミッシェルの家に訪れてくるおじさんだった。
「さぁ、疲れただろう。中で休むといい」
ダルオンにエスコートされ、さっさと歩いてゆく母親に置いてかれまいとミッシェルは小走りに後をついてゆくが気後れして仕方がない。
そもそもなぜこのような場所に連れてこられたのか母親であるエリザベスから何一つ聞いてはいない。
周りのメイドも執事長のキックリも明らかに歓迎している表情とはいえないのをミッシェルはヒシヒシと感じていた。
高級そうなソファに座らされ居心地悪いったらない。
先程から目の前ではダルオンとエリザベスがやたら近しい距離で話している。
どうやらこの2人は夫婦になるらしい。そして母親の相手であるダルオンは自分の実の父親であるということらしい。所詮庶子というやつである。
侯爵であるダルオン・ヴィルヘルム。
金色の髪を後ろに撫でつけ涼しい目元はスッキリとしている。
以前から家に訪れていた時はもう少し崩れた髪型に格好だったからダルオンがそのおじさんだと気づくのに遅れてしまった。
どうやらお忍びでエリザベスの元へ逢瀬に来ていたらしい。
ベタベタと2人の距離が近づくほど周りの目が冷たくなっていっているようでミッシェルは縮こまるしかなかった。
明らかに歓迎されていないとわかっているのにここに住むことになると告げられ、不安でしかない。
「そうだミッシェル、お前に姉ができる仲良くしてやってくれ」
「お姉ちゃんですか?」
「2つ歳上なのだそうよ。私もまだお会いしてないのよ」
継母になるというのに挨拶もまだしていないのはどうゆうことか。
貴族とはそんなものなのだろうか。
元々奔放な母な気はしていたが、順番を間違えているのではないかと幼いながらに思う。
しかし母親が働いている間はずっと1人で過ごしていたミッシェルにとって姉ができるというのは喜ばしい事だった。
「あの子はまだ部屋か?」
「はい。お嬢様は自室で勉強をなさっておられます」
「こんな日にまで勉強など。ここへ呼んでくれ」
「かしこまりました」