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0話 part4

「すず、ケイくんとコウくんが応援に来てくれるんだーってずっと言ってたのよ。ほんとうにケイくんとコウくんには迷惑かけてばっかで。」と玲おばさん。

「いやいや、浩介なんてずーっとだらだらしてばっかなんだから。無理やり連れ出されてちょうどいいくらいよ。それにしてもあのちっちゃかったすずちゃんがもう高校生で、しかも全国大会なんてねぇ。」と返す律おばさん。


 新幹線の向かいの席でそんな会話に花を咲かせているのはすずのお母さんの玲おばさんと浩介のお母さんの律おばさんだ。僕の隣では浩介がスマホをいじっており、通路を挟んだ向こう側ではそれぞれの父親に付き添われながらすずと浩介の妹が二人仲良く遊んでいる。


 今日は水津家、森ヶ谷家と一緒に滋賀に向かっている。

 それはもちろん明日のすずの全国大会の応援に行くためなのだが、最初は僕と浩介の二人で大会当日に始発の新幹線で行く予定だったのだ。だが、それを聞きつけた浩介のお母さんが水津家全員で行こうと言い、すずの家族が前日から前乗りする予定だったため、どうせなら一緒にと、僕たちも前乗りして一泊することにしたのだ。

 ちなみにすずは他の部員と一緒に学校のバスで行くことになっており、ここにはいない。



 滋賀に着いたらまずホテルにチェックインしておくことになった。

 その後、水津家と森ヶ谷家は観光に出かけるようだったが自分は遠慮しておいた。この暑いのにわざわざ外に出て歩き回る気にはなれない。浩介も同様だったらしく今は二人でテレビを見ながらだらだらしている。

 心地のいいのんびりとした時間にまどろみ、うつらうつらしているとスマホの着信音がポコンとなる。すずからだった。

“ホテルにいるんだよね〜。すぐにロビーまで出てくること!”

 まさかここにきているのだろうか。弓道部が泊まるホテルはここではなくもっと明日の会場に近い場所だったはずだ。このホテルの場所は玲おばさんに聞いたらわかるだろう。でも、ここにくる理由に思い当りがない。また何かに付き合わされるんだろうかと考えながらベットを降りて靴を履く。


「どうしたんだ?」


 僕が外に出ようとするのを不思議に思ったのだろう。浩介が聞いてきた。


「うん、すずがロビーに来いって。浩介は?」

「あぁ、すずか。いや、俺はパス。外暑いから出たくねえし」

「えー・・・浩介も行こうよ。って言うかあんまりいい予感がしないって言うか・・・」

「ますますいかねえよ!呼ばれてんのはお前なんだから一人で行ってこい!」


 部屋から押し出された。くそう、絶対今度仕返ししてやる。


「おそーい!すぐきてって言ったじゃん!」


 ロビーに行くと予想通りというか、なんでここにいるのというか、すずが待っていた。


「いや、これでもすぐきたつもりなんだけど・・・。でも、すずが泊まるホテルはここじゃなかったと思うんだけど。どうしたの?」

「ん、琵琶湖に行こー!せっかくの滋賀だよ。楽しまなきゃ。ところで浩介は?一緒じゃないの?」

「あぁ、浩介は暑いから外に出たくないらしい。僕はちゃんと誘ったんだけど一人で行ってこいって追い出されたよ。」


 僕を一人で行かせた罰だ。後でたっぷりと叱られたらいいんだ。

 すずは少し考えるそぶりを見せて、スマホでメッセージを送っていた。相手は多分浩介だろう。

 だがそうやって少しせいせいした気持ちですずに告げ口をしても、なぜかすずは少し笑っただけで上機嫌だ。前に僕が遊びの誘いを断った時はあんなに怒ったのに。

 なんとなく釈然としない。

 っていうかちょっと待て、浩介に仕返しをすることに夢中になって大事なことを聞き落としてないか?

 そうだ、すずは琵琶湖に行こうって言ったんだ。


「すず!?明日試合だよ!?琵琶湖なんて行ってていいの!?」


 思わず大声で聞き返してしまう。

 それに対してすずは「ここまできたらすることなんて何もないよ。試合前はリラックスすることが大事なの。部長とかも出かけてるしいいのいいの。ほら、行くよ。」と何処吹く風だ。

 僕は全国大会なんて大舞台に立ったこともないためわからないがそんなもんかなぁと思いつつ、すずが機嫌を悪くしないよういそいそと着いていくことにした。


 琵琶湖は大きかった。想像をはるかに上回っていたと言えるだろう。

 湖面からは風が吹き付けており、対岸がはるか遠くに霞んで見える。まるで海かと見紛う景色なのに、あの磯臭い匂いがしない。


「すごいな。」


 その初めて感じる独特な空気に思わず言葉を漏らす。


「ふふっ、来て正解だったでしょ?」すずが楽しそうに笑いながら覗き込んでくる。

「うん、きて良かったと思うよ。浩介はもったいないことをしたな。」


 暑いのが嫌だとかいう理由でこの景色を見逃すなんて損をしているとしか言いようがない。


「わぁ、気持ちいいー!」


 隣でしゃがんで湖に手を浸けたすずが歓声を上げる。


「ほら、ケイも、ケイも!」


 すずの濡れた手が僕の腕を掴み引っ張る。


「あっ、ちょっと」


 急に引っ張られてよろけながらも、すずの隣にしゃがみ湖に手をつける。

 湖の水はひんやりと冷たくて、夏の暑さが消えていくようだった。

 湖は微かに波立っておりリズムよく足元の護岸ブロックにぶつかっている。それは同じことが単調に繰り返されているにすぎなかったけれど、すずと並んで座るこの時間はとても気持ち良くてずっとこうしていられる気がした。


「ねえ、ケイ。浩介はどうして一緒に来なかったんだと思う?」


 突然すずがそんなことを聞いてきた。あまりにも唐突だったので質問の内容を理解するのに手間取ってしまう。


「そりゃあ、暑いのが嫌だったんじゃ無いの?ああ、別にすずに付き合うのが面倒くさいってわけじゃ無いと思うよ・・・?」

「んー、全然違うよ。もっとちゃんと考えて。」

「いや、なんですずが答えを知っているみたいになってるの?ちゃんと考えてって言われてもなぁ・・・。」

「じゃあ、ヒントをあげる。ほら、これ。」


 そうやってすずが見せてきたスマホの画面には浩介との個人チャットが表示されていた。

 そこにはすずが一言、ありがとう、と。それに対して浩介は、どういたしまして、とこれまた一言。


「これはさっきホテルのロビーで私が送ったメッセージです。筆者の考えを100文字以内で説明しなさい。」


 そう言われても訳がわからない。チャットが成り立っているのが怖いくらい脈絡がないのだ。筆者の考えも何もないだろう。


「回答期限は明日までだからね。いい、ちゃんと答え考えといてよ。」


 すずはそういって毎度の如く無理難題を突きつけてくる。


「わかったわかった。考えとくよ。」


 後で浩介にでも聞いてみよう。正直に答えてくれるかはわからないが、少しはすずのいう「答え」に近づけるだろう。


「じゃあ、そろそろホテルに戻らないといけないから帰るね。ケイは?」

「あぁ、僕も帰ることにするよ。」


すずが帰るのに一人で残る理由も特にない。



 駅まで一緒に歩いて、そこからは乗る電車の方面が違うためここで別れることになる。先にホームに着いたのはすずが乗る方面の電車だった。


「ねえ、ケイ。さっきの質問のことなんだけど・・・」


 電車に乗ろうとしていたすずがどこか不安そうに振り返る。


「わかってるって。ちゃんと明日までに答えを考えておくよ。」


 こんなことで明日に試合が控えているすずの気を乱すわけにもいかず、はっきりと答えると少し安心したようで、それでもやはり不安を残した顔で電車に乗っていった。

 この「答え」はすずにとってそんなに大切なことなのだろうか。

 そんなことを考えながら電車を待つのだった。


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