本編
1話
「リエル、お前の結婚相手はアブラサム・ギッターニ侯爵に決まった。式は一月後だからな。ドレスと式場、その他の物は先方が用意してあるそうだ。覚悟を決めておけ。」
「っつーー、はい・・・。」
「これは王命だ。その事を心に良く刻んでおけ。」
「ーーーはい。」
アブラサム・ギッターニ侯爵。離縁は一度しかした事は無いが、妾が10人以上おり、市井にも手を出している方が何人もいて、子供は妊娠が分かると堕胎させ、堕とさなかった母親は捨てる。お金を湯水のごとく使い、陰では高利貸の真似事、人身売買等、非、人道的な事もしている。後、ロリコンの気、有り。後継者は離縁した元妻が置いていった現在8歳の男児一人のみ。ですか。
はぁ。
つい、溜息が漏れてしまいます。こんな事になったのはどうしてでしょう。あぁ、申し訳ございません。申し遅れましたが私はリエル・ヘルグナーと申します。ヘルグナー公爵家の長女で先日の学園主催の卒業記念パーティーでこの国の第一王子、そして私の元婚約者だったアルフレッド殿下に婚約破棄を申し渡されてしまった者です。
お父様は何故か、殿下のお心を繋ぎ留めれなかった私をあまり責めませんでしたけど。
そして先程、悪名高いギッターニ侯爵の元に(王命で。)嫁がされる事になりました。
私がこうなった元凶はあの寝取り女・・・いえ、失礼いたしました。エレノア様でしたね。えぇ。未来の王子妃、下手をすると王太子妃、王妃になるお方に《寝取り女》等という不敬な言葉は言ってはなりませんものねぇ。ふと、先日の婚約破棄の場の事を思い出します。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「リエル!お前は王子妃に相応しくない。よってこの場において第一王子、アルフレッドの名において、私はリエル・ヘルグナーと私の婚約破棄を宣言する!」
突然殿下に婚約破棄を告げられた私はとても混乱しました。ひょっとすると顔に出てしまっていたかもしれません。まあ出てしまっていても一瞬で元の愛想笑いに戻っていますが。それにしても私が『相応しくない』とはどういう事なのでしょうか。全く心当たりが有りませんが。
「どうして殿下は私が相応しくないと?」
「なっ!心当たりが無いとは言わせないぞ。お前が学園で行っていた様々な事についてだ。」
様々な事ですか。全く心当たりが有りません。流れからすると『未来の王子妃として相応しくない』行動なんでしょうが私は『相応しくない』行動の浮気や過度な贅沢、虐め等をした覚えが全く・・・
「おい!聞いているのか?」
「はい。失礼いたしました殿下。ところで様々な事とは何でしょうか。全く心当たりが無いのですが。」
「エレノアに対する虐めだ。」
「虐め、ですか。」
虐め、とは一体・・・。というか殿下が腰を抱いている方がエレノア様ですか。
名前は名簿で見ただけなので知っていましたが顔は初めて見ましたね。
っは、そういえばしばらく前に子爵令嬢が殿下や高位貴族の方々と懇意にしているという噂を聞きましたがありえないという事で無視していましたが、本当だったのですね。殿下たちの後ろに騎士団長様のご子息のアラン・ツェケル様や宰相様のご子息、ヴィクター・キリアム様等、王国の名だたる名家のご子息の方々が沢山おります。皆さんあの方に心酔しているように見えます。
?、今ふと思い至りましたが、私、今状況悪くありませんか?婚約破棄されているのですよね?完全に状況は悪いです。これだとお父様に叱られてしまいます。下手をすると勘当も・・・。ですが、この国において王族の言う事はほぼ絶対。逆らう事は許されません。どうすれば良いのでしょうか。ですがせめて最善と言われる行動をしなければなりません。この状況における最善は、
「ところで殿下は私と殿下の婚約を破棄する、とおっしゃられていますが、この婚約は陛下と我がヘルグナー家当主の間で結ばれたものです。陛下からの了承は取られていらっしゃいますか?」
そう、陛下を持ちだす事です。おそらく殿下は国王陛下の了承を取られていない、いえ、取れないからこそ殿下は公衆の面前で婚約破棄を宣言した筈です。多くの貴族がいる中で宣言してしまえば陛下でも落ち着かせることは難しい筈です。だから殿下は今婚約破棄を宣言したのでしょう。けれどこれはあくまでも推測。もしも了承を取られていたら・・・
「父上からの了承は取れている。」
まずいですね。と言いますか、もう先が真っ暗です。せめてこれ以上殿下の機嫌を損ねないようにしなければなりません。
「承知いたしました。では私はこれからお父様へこの事を伝えに参ります。それでは失礼してもよろしいでしょうか?」
逃がしては・・・
「待て、その前にエレノアに対する謝罪をしろ。」
くれないようですね。謝罪と言われても本当に心当たりが・・・あっ、そういえば半年ほど前に夜会で殿下と三回以上踊っていらっしゃったご令嬢に踊ってはいけないと注意したり、図書室でしゃべっていたご令嬢に迷惑だと伝えたりしました。今思い出しましたがあのご令嬢、エレノア様ですね。もしかしてあの事を虐めと勘違いしているのではないでしょうか。謝っておきましょう。
「エレノア様を不快にさせてしまった事、謝罪いたします。これでよろしいでしょうか。早くお父様へ伝えなければなりませんので。」
「あ、あぁ。早く行け。」
拍子抜けしたような反応ですね。謝っただけなのにどうしてこんなに驚いているのでしょうか。まぁいいです。早く屋敷に帰ってお父様へ伝えなければなりませんから早く帰れるに越したことは有りません。殿下の脇を通り過ぎる時、エレノア様が私に小さい声で言いました。
「自分よりも立場が低い人物に上から見下ろされる気分って、どうだと思う?」
わかりました。エレノア様、いえ、《寝取り女》は純粋に私を下に見たいがために殿下を篭絡したようです。そんな事の何が楽しいでしょうかね。そんな事のために私が妃教育などに費やした時間を奪われました。勝手にあの《寝取り女》が私に抱いていた劣等心等に。まぁ、私は根に持ったりしませんよ?うふふふふ?
そうこう考える内にいつの間にか屋敷に着きました。部屋に帰って屋敷用のドレスに着替えるとお父様の執務室に参ります。お父様の執務室に行くのも久しぶりですね。ここ最近、いえ、1年は行っていない気がします。
執務室に着いたのでノックをして入室の許可を求めます。直ぐに入室の許可が出たため、部屋に入ります。部屋の中央にある机にはお父様が座っており、こちらを冷たい目で睨みつけています。まさかもう報告が行ったのでしょうか。いくら何でも早すぎるかと思うのですが。
「・・・今日、お前が学園に行った後、王宮から使者が来た。その理由は勿論知っているな?」
何と!王宮から伝達が有ったから知っていたのですね。
「はい。第一王子、アルフレッド殿下と私の婚約破棄についてですね。」
「何故陛下が了承したか分かるか?」
「私の体が未熟、だからですか?」
私の体は何故か現在16歳なのにも関わらず12歳にしか見えません。10歳の頃から何故か成長が殆ど止まってしまっているのです。16歳の今、何とか12歳には見えるのですがまだ初潮さえ来ていません。1年後に備えた結婚式までに私の体が子供を作れるようになるのかは確定できませんし、来ても出産に耐えれる身体とは限りません。ですが私はあくまで正妃になるだけ。そういう事は側妃等に頼めばいいです。私の場合もあの《寝取り女》が側妃等になれば良かっただけなのですが他に理由が有るのでしょうか?
「それも有る。だが、エレノア嬢を妃に迎えることに陛下が強い価値を見出した。」
「価値、とは?」
「エレノア嬢は『特殊魔法系統:固有魔法:再生』を発現した。」
「特殊、魔法系統の固有魔法ですか。その『再生』は一体どんな力を?治癒魔法や回復魔法に近しいものだとは思うのですが。」
特殊魔法系統。それは数十種類ある魔法系統の中でも特に異彩を放っております。これには個人に稀に発言するその人個人のみが使うことのできる『固有魔法』等が分類されます。一部例外はございますが。私の成長が止まった時、この魔法の存在が疑われましたが私は所持していませんしかけられてもおりませんでした。『固有魔法』はまさに千差万別です。攻撃魔法系統に近いのが有れば防御魔法系統とに近いもの、他の魔法系統とは全くの別物まであります。また、所持者が生きている内は同じ魔法の持ち主は絶対に存在いたしません。
『固有魔法』の他に特殊魔法系統で有名なのは『血縁魔法』です。これはその名の通り血によって受け継がれていく魔法です。『固有魔法』が1代限りで強力なのに対し、『血縁魔法』は『固有魔法』程強力では有りませんが普通の魔法に比べると遥かに強力です。複数人持てるという利点も有ります。普通の魔法も術者によって全然変わるのですがね。
「あぁ。大体はその様なものだ。見た目だけはな。」
「見た目だけ、ですか?」
「『再生』は物の、いや、生命や意志ある者、無いものを含めた実体有るものの状態を制約は勿論あるが術者の任意の時間まで巻き戻す力だ。」
「え・・・?時間を、巻き戻す?それは神のみの為せる御業のはずでは・・・?」
「私もこの話を聞いた時には驚愕した。神の御業を何故人が扱えるのかとな。だが1度の発動に膨大な魔力がかかる他、巻き戻す時間もほんの僅かしか彼女の最大魔力量をもってしても無理らしい。その上彼女自身の魔力を用いなければ発動しないと来た。だが・・・」
「有事の際、彼女に十分な魔力を魔晶石か何かで貯めて貰っていればどうにかなる可能性がある。ですよね。」
「あぁ。その通りだ。それで話を戻すが何故側妃でもダメだったかだ。リエル、婚約破棄を宣言された時、どの様な事を殿下に言われた?」
「私が未来の王子妃として相応しくないと言われました。正確には私がエレノア様を虐めていたと・・・」
「お前は虐めていたか?」
「いえ、ですが過去に夜会や学園の図書館で礼儀が余り良くない方がおり、注意したのですがその方がエレノア様だったと記憶しております。」
「どんな言い方をしたんだ?」
「『3回以上他の殿方と踊ってはなりません。』や、『他の方のご迷惑になるので静かにしてくださいません?』位ですが。まずかったのでしょうか。」
「ったく・・・。いや、何でもない。お前の次の婚約者は王宮が指名するらしい。部屋に戻れ。後日王宮から伝達が来たら呼ぶ。」
「はい。かしこまりました。お休みなさいませ、お父様。」
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・・
・・・
・・・・
・・・・・
あぁーーー今更ながらイラついてきますね。と言うよりもよりにもよってギッターニ侯爵に嫁がなければならないなんて、夜会で何度か気持ちの悪い目で話しかけられ、絶対結婚したくないとは思ってはおりましたがまさか本当に結婚することになるなんて思ってもみませんでした。結婚の猶予はたった1ヶ月です。それまでしか私には自由が有りません。逃げる、事などしてはなりませんし一介の公爵令嬢ができるはずも有りません。私は一体どうしたらよろしいのでしょうか。
2話
半月が経過いたしました。さて、どうすれば私は結婚を免れるのでしょうか。魔法を使えばこの屋敷から逃げれるかもしれません。ですが私は何故か成長が止まった時から魔法が使えないのです。魔力は十分にあるのに。あら?普通魔法が使えなくて子供も産めないというのは・・・いつ婚約破棄されていてもおかしくなかった気がします。い、いえいえ。最後の一押しをしたのはあの《寝取り女》ですから。えぇ、あの《寝取り女》のせいですよ。
・・・、現実逃避していても仕方ありませんね。真剣に考えなければなりません。魔法、使えませんかね。試しに6年前の要領で魔力を掌に集めてみます。何処かに吸い出されていく感覚です。やっぱり魔法は発動しません。どこに消えているのでしょうか。
《魔力量が規定値に達しました。これより特殊魔法系統:固有魔法:私の世界を展開します。最初の世界の創生・・・成功しました。ステータスにかけられていた隠蔽を解除・・・成功しました。》
・・・え?急に声が聞こえました。何でしょうかこの声は。不思議な声がステータスが何とかおっしゃっていましたが・・・、試しにステータスを開いてみましょう。
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名前:リエル・ヘルグナー
年齢:12歳
種族:人族
体力:1500/1500
魔力:10/7000
魔法:特殊魔法系統:固有魔法:私の世界
攻撃魔法系統:水属性魔法:火属性魔法:風属性魔法:土属性魔法:重力魔法
治癒魔法系統:水属性魔法:光属性魔法
防御魔法系統:水属性魔法:火属性魔法:風属性魔法:土属性魔法:光属性魔法
生活魔法系統:全属性魔法
状態:成長遅延(私の世界の効果):状態異常
技能:家事の心得
礼儀作法
魔力増大(効果:枯渇するごとに+100)
魔力回復(効果:1分につき+100)
体力増大(効果:枯渇するごとに+100)
体力回復(効果:1分につき+100)
称号:エルミナ王国貴族
ヘルグナー公爵家長女
公爵令嬢
固有魔法所持者
異世界の創造主
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---っえ?特殊 魔法 系統の固有 魔法?異世 界の創 生 主?一体どういうことですか?
3話
改めてステータスを見てみます。
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名前:リエル・ヘルグナー
職業:未定
種族:人族
体力:1500/1500
魔力:10/7000
魔法:特殊魔法系統:固有魔法:私の世界
攻撃魔法系統:水属性魔法:火属性魔法:風属性魔法:土属性魔法:重力魔法
治癒魔法系統:水属性魔法:光属性魔法
防御魔法系統:水属性魔法:火属性魔法:風属性魔法:土属性魔法:光属性魔法
生活魔法系統:全属性魔法
状態:成長遅延(私の世界の効果):状態異常
技能:家事の心得
礼儀作法
魔力増大(効果:枯渇するごとに+100)
魔力回復(効果:1分につき+100)
体力増大(効果:枯渇するごとに+100)
体力回復(効果:1分につき+100)
称号:エルミナ王国貴族
ヘルグナー公爵家長女
公爵令嬢
固有魔法所持者
異世界の創造主
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やっぱりです。私が特殊魔法系統持ち?先程の不思議な声が隠蔽とやらが何とか言っておりましたが・・・、まさか、私の魔法が使えなかったり成長が遅いのは・・・、試しに私の世界の部分をタップしてみます。
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私の世界
⇒効果:世界を創造する。なお、魔法所持者は魔法の覚醒から最初の世界の創造までの期間、一切の魔法が使用できない。この期間、常に魔力が世界創造の為消費され、最低限必要な分のみ魔法所持者に残される。また、状態異常:成長遅延にかかり、ステータスにはこの魔法に関する情報は全て隠蔽される。解除は魔法所持者本人が死亡するまですることが出来ない。
権能
⇒世界創造:この魔法の権能の一つ。『最初の世界』、『第一の世界』、『第二の世界』・・・などの種類が有る。数字が増えるごとに創造に必要な魔力量が増える。また、世界を消す場合は、魔力として(消費魔力の半分)還ってくる。
⇒創造:この魔法の権能の一つ。魔法所持者が創った世界の中のみ発動する。創造するものによって必要魔力量は変化するが、必要魔力量を満たせばほぼどんなものでも創造できる。ただし一部を除いた創造物の一部は世界の外に持ちだせない。創造後、1年以内ならば魔力として(消費魔力の半分)が還ってくる。
⇒絶対支配者:この魔法の権能の一つ。魔法所持者が創った世界の中のみで発動する。魔法所持者の創った世界で絶対的な権能を持つ。この世界に入った者、又はこの世界の中で生まれた者に魔法所持者はLv.1~5を与えることが出来る。Lv.は、魔法のLv.とは違い、『権利』と定義される。Lv.1は所持者の生死、Lv.2は活動の自由、Lv.3は他者への危害を加える事、Lv.4は魔法、技能の使用の自由、Lv.5は世界間の移動の自由、である。魔法所持者はLv.を与えることも剝奪することも自由であり、Lv.を含め、あらゆるモノに囚われず、その世界において全てを支配する。
⇒異界への門:魔法所持者本人が行ったことのある世界と自分が存在する世界を繋ぐ門。消費した魔力量によって門を通れる人数が変化し、一定の魔力を消費すると、門の二つ目を創造することが出来る(この場合も前記の条件は適応される。二つ出す場合、門それぞれに一人が通れるだけの魔力を与えると、それぞれの門から計2人入ることが出来る。)。また、魔法所持者以外も魔法所持者本人がみとめた場合のみ門を通ることが出来る。ただし魔法所持者が創った世界に行く場合、Lv.を与えなければ移動者は死んでしまう。(後、生き返らせることが可能。)魔法所持者本人は魔力消費1000で使用可能。
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す、凄いです。これが私の固有魔法?夢のような魔法です。過去にある例と比べてみてもこれほど破格なものは相当珍しいはずです。この魔法が有れば私は・・・ですが、どうせここで国へ申告してもまた王家に搾取されるだけなのではないでしょうか。不敬だとはわかっています。ですがどうしても思ってしまいます。「王家とは絶対的なものではない。あの家は搾取するだけで何も与えない。」・・・と。逃げてもいいのでしょうか。私はどうすればいいのでしょう。逃げるか。これからも奪われ続けるか。
4話
そしてさらに1週間が経過いたしました。私はまだどうするか決め切れておりません。
それでも出来ることはしようと、魔法の検証に努めました。けれどあちらの世界で創造したものを持ち帰れる判定ラインはまだ分かりません。あちらで食べた物はさすがにと言いますが持ち帰れます。試しに大きめの宝石を創って持ちだしてみましたが持ちだせました。他の物は流石に試しておりませんがもし逃げても金銭的な問題は特に無い様です。
どうしましょうか。逃げた方が良いのか、貴族として王家に従うか。結婚までの猶予は残り1週間です。私が逃げると用意している先方に迷惑をかけてしまいますし、お父様は恐らく悪くて投獄、良くて謹慎か隠居、そしてヘルグナー公爵家は降格し、財産の一部を剝奪されることでしょう。そして逃げなかった場合はあくまで推測ですがギッターニ侯爵家でひどい目に遭い、あの女に(恐らく王妃として)ずっと上に立ち続けられるでしょう。
・・・あの女の下につくくらいなら・・・よし、逃げましょう。よくよく考えるとお父様やお兄様、ギッターニ侯爵には悪いですが逃げても王家には余り不利益は無い、と言いますかむしろ王家からすれば厄介払いが出来るのでは?何もできる筈の無い温室で育てられたか弱い公爵令嬢が(それも魔法が使えない)逃げても野垂死にしているだけだと思われるのではないでしょうか。体面上捜索はされると思いますがある程度王都から離れて私の世界の中に逃げ込み、しばらく待って少しづつ移動したら捕まらないのではないでしょうか。家には創造した宝石でも置いて、置き手紙を書いておけば少しは迷惑が掛からないかと思います。
よし。思いつけばすぐに実行するべきですね。いつも書いている日記の最後のページをちぎってペンを取ります。どのような内容にしましょうか・・・・。
・・・
・・
・・・
書き終えると次に私の世界の異界への門を発動します。行先を最初の世界に設定し、門を潜るともう見慣れた美しい花々が咲き誇る庭園が有ります。この庭園は私の理想そのもの。何度も魔力を枯渇させながら創造しました。すでにここは私だけの、私が一番安心できる場所になっています。
もう少しここに居たいと思いますがばれると困るどころでは済まされないので早めに創って帰るとしましょう。ダイヤモンド、ルビー、トパーズ、エメラルド、様々な宝石が有りますが私が持っていて不自然がなさそうな物と言えばやはり青系統ですね。私の髪は銀から毛先にかけてアリスブルーに変化しています。目は毛先と同色のアリスブルー。ですので贈り物などでは青系統の物がよく贈られます。
とりあえずサファイアですかね。親指の先程の大きさのものを10個、握りこぶしほどの大きさのものを2個創造します。これをお父様がお詫びとして王家に献上すればある程度減刑はされると思います。
街に視察に行ったときに平民の人が着ていたような少し汚れた薄い生地の服に踵の無い靴。あまり艶の無い茶髪の鬘と王都を出る時、違和感の無いようにするための枝などを入れるようの籠を創造し、身に着けて部屋に戻ります。書いた手紙を大きめの封筒に宝石と共に入れ机に置き、部屋の窓を開けると『防御魔法系統:風属性魔法:エアウォール』を普通より少ない魔力で発動します。実は私、私の世界の隠蔽が解除されてから魔法を使えるようになったのです。まぁ、最初の世界がちゃんと創られたのですから使えないと逆に文句を言いたくなるのですがね。
で、実は普通より少ない魔力でエアウォールを使うのは私が魔法を使えた頃に編み出した裏技のようなものなのです。この方法を考え付いた方は他にもいるかもしれませんが私は自分で思いついたことを密かに自慢に思っています。
それで効果なのですが、魔法は魔法に注がれる魔力が規定に満たない場合、数秒維持された後、霧散してしまうのです。また、出現させる場所は勿論制限は有りますが自由な場合が多く、魔法は発動に失敗すると、発動していないことになります。
裏技魔法はこの事を利用していて、足元に出し、消えない内に、同じように発動し・・・・・・と、例として『技能:連続発動(効果:同じ魔法、違う魔法をクールタイムなしに発動できる。)』を錯覚的に再現できるのです。
裏技魔法を使って見つからないまま屋敷を抜け出し、平民の方々が使う門の方に行くと外へと出る門を通って外に出ました。この国の王都の平民用の門は基本的に明らかに怪しい者以外は素通りです。私も無事何も言われず通れました。暫く行って誰も見ていないのを確認して道をそれ、異界への門を発動します。門を潜り、庭園に無事着き、門の消滅を確認すると、思わず座り込んでしまいました。私は、私は、自由になれました。もう、この世界に引きこもって、外には行きたくありません。この世界は私だけの世界。誰も侵すことはできない。私が侵させない。私は、私が思う幸せを、この世界で自由を送ります。
5話
王都を脱出して1ヵ月、こつこつと夜中に人目につかないように(生活魔法系統:全属性魔法:光学迷彩を使って。)移動し、とうとう隣国の中小国、「アイリスクォーツ公国」との国境前まで来ました。事前に街でとっておいたギルドカードで無事国境を通過するとそこにはのどかな農園が広がっていました。エルミナ王国は鉱山が多く、鉱物が主産業の中小国ですが、アイリスクォーツ公国は農業が主産業の国です。その生産力と質は大陸でも屈指の物で、「農業と言えばアイリスクォーツ公国」と完全に定着しています。4大国には流石に及びませんが、中小国の中でもトップ君臨する国の一つです。それで私がこの国に向かった理由ですが、それは勿論「治安が良いから」と、「エルミナ王国程度では手出しできないから」です。もしも追手が来た場合、簡単には手出ししにくい場所ですので少しでもと安全性を考えた結果、アイリスクォーツ公国一択となりました。この国の貴族はエルミナ王国と違い腐敗しておらず、貴族の責務をきちんとこなしていますし、公家も温和で誠実と謙虚をモットーとしている国です。商売気質でなかなか強からしいですが。
とりあえず街の近くまで行って、数年間引き籠りましょう。数年ほどしたら一介の公爵令嬢の捜索位、取りやめたり懸賞金が出ていても撤回されるでしょう。
そして進むこと数日、街が見える所まで着きました。と、いう訳で、誰にも見つからないように茂みに隠れて異界への門を発動します。着いた場所はいつもの庭園。東屋が創造され、天蓋付きの上等なベットも有ります。私も女の子ですからね。フカフカのベットで眠りたいという欲位持っていますよ。ベットに思いっ切り不作法を承知で飛び込みます。はふーーーーー。最高級のベットは最高ですね・・。ぐう。Zzzzz
6話
この世界に引き籠って外の世界の時間で3年ほどの時間が経過しました。実は絶対支配者の権能で外部時間と内部時間の比率を変えられることに気がついたのです。正確には内部時間を早くしたり遅くしたりしているだけですが。それを使って、今はこちらを2倍速にしています。閉じ籠って1週間ほどで機能に気がついてそれからずっと2倍速なので内部の時間では約6年経っています。ちなみに何故か身体の年齢は外にいた場合の時間と同じだけ進んでいます。それで私が何をしていたかと言うと、ずっと魔法が使えなかったので出来なかった魔法の修行です。ちなみに今のステータスは、
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名前:リエル
年齢:13歳
種族:人族
体力:5000/5000
魔力:10300/10300
魔法:特殊魔法系統:固有魔法:私の世界
攻撃魔法系統:全属性魔法
治癒魔法系統:水属性魔法:光属性魔法
防御魔法系統:全属性魔法
回復魔法系統:光属性魔法
浄化魔法系統:水属性魔法:光属性魔法
生活魔法系統:全属性魔法
複合魔法系統:全属性魔法
精神魔法系統:闇属性魔法:光属性魔法
状態:成長遅延(私の世界の効果):状態異常
技能:家事の心得
礼儀作法
魔力増大(効果:枯渇するごとに+100)
魔力回復(効果:1分につき+100)
体力増大(効果:枯渇するごとに+100)
体力回復(効果:1分につき+100)
魔法取得(効果:魔力を消費して一部の魔法系統、属性魔法、魔法を取得)
成長補正(効果:魔法の位階、Lv.の上昇の+補正)
魔法創造(効果:魔力を消費して、新たな魔法系統、属性魔法、魔法を創造)
称号:淑女
固有魔法所持者
異世界の創造主
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と、このような感じになっています。
暫くして気がついたら苗字が消えていました。恐らくお父様が勘当か鬼籍にして戸籍を消してくださったんだと思います。一般的な平民はどこの国でも苗字が無いので助かりました。
全属性魔法に出来る魔法は全て全属性にしました。魔法取得、成長補正、魔法創造という技能を習得したのは一番欲しいと思ったからです。
技能の習得のは大まかに分けて3つあります。一つはひたすら技能に関係のあるものを磨くことです。私の『家事の心得』や、『礼儀作法』がこれに当たりますね。2つ目は先天的に得ることです。私の『魔力増大』や『魔力回復』、『体力増大』、『体力回復』がこれです。最後の一つは『技能書』という書物を読むことです。技能書は『ダンジョン』と呼ばれる4大国の一つ、ヴァーミリオンにしかない、神々の創った建造物からしか手に入れられません。そしてダンジョンでは、
・ 中で死んだ人はダンジョンの外か、ダンジョンの中にある『セーブポイント』と呼ばれる場所で生き返る。
・魔力の消費なしでダンジョン内のセーブポイント(登録しているポイントのみ)からもう一つのポイントに転移できる。
・宝箱があり、アイテムや、魔晶石、ポーション、技能書、魔法書等が出てくる。
・魔物に似たモンスターと呼ばれる生き物(?)が出てきて、倒すと身体が霧散し、『ドロップアイテム』と呼ばれる加工済みの魔物の武器と、魔石が出てくる。
・10層ごとに『ボスモンスター』と呼ばれる個体が居て、そのモンスターは『ボス部屋』と呼ばれる部屋にいる。
・基本的に20層~100層まであり、最後まで攻略されると消滅し、新たなダンジョンが生まれる。攻略された時内部にいた人は外に転移させられるか、新しく生まれたダンジョンの中に場所はランダムで転移される。
等、普通ではありえない事が起こっているのです。
7話
それで技能についての話に戻しますが、技能書とはその名の通り、技能を読むだけで取得できる書物です。同じようなものに魔法書が有ります。
魔法書は、魔法系統を取得できるもの、属性魔法を取得できるもの、魔法を取得できるものに分かれています。魔法系統を取得できるものは取得した後、ランダムで属性魔法を取得でき、属性魔法を取得できるものは使用者が持っている魔法系統に付与でき、魔法を取得できるものはその魔法が分類される魔法系統と魔法属性に付与されます。ただし、使用者が取得できる魔法が分類される魔法系統、そして魔法属性を持っていない場合は、取得できません、魔法書の効果もなくなるという事も有りません。
技能書は単純に技能を取得できるだけです。
また、『書』は取得することが出来る人数に制限の無いもの、人数に制限に有るもの、取得できる者に制限のあるものなどが有ります。希少価値は人数制限が無いものほど高く、効果が高いものほど高価になります。
それでどうして私がこの話をしているのかと言うと、実はダメもとで創造を試みてみたのです。するとなんと!技能書や魔法書を創造できたのです。つい調子に乗って持っている魔法系統を出来る限り増やしてはっと気づくと魔法系統まで取得してしまっていました。まずいと思ってすぐ魔力に戻したのですが何故か効果は消えず、仕方なくそのまま鍛えることにしました。今は殆どの魔法が中級以上になっています。
そんなこんなで技能も技能書もいくつか取得しました。実は使った技能書、外で売れば最低10億セトいくと言うとても希少な品です。オークションなどに出すと下手をすると50億セトは行くかもしれません。一つ創り出すだけでそこそこ贅沢な生活を一生続けられます。まぁ売りませんけどね。お金持ちでもない平民がどこから手に入れたのだという話になって、身元が調べられてあっという間にエルミナ王国に連れ戻されそうです。あの国にはめったなことが無い限り近づかない、行かないと心に決めていますから。
8話
フカフカのベット、見ていて飽きない庭園、沢山の魔法について書かれた本、外の世界のあれこれ。沢山の物が有ります。ですが、寂しい、人と触れ合いたい、誰かと話したい、そう願ってしまいます。人は一人では生きていけないとはこういう事なのですね。自分で引き籠りましたがそろそろ引き籠るのに飽きてきてしまいました。
魔法を鍛えることは暫く私の気を紛らわせられるだけです。ただの暇つぶしになっているだけに過ぎません。外で出来る、娯楽、ご飯、読書、魔法の鍛錬、これらは全てこの世界でできますし、外と違ってこの世界は絶対に安全です。何でも好きな事、やりたい事が出来ますし、猫を被らなくても何の問題もなく、貴族時代には許されなかった素を出すことだって自由です。この世界で私は私が望むことをほぼなんだって叶えられます。
けれど引き籠っていると絶対に叶えられないことがこの世界には存在します。
しばらく前、寂しくて生き物を生み出してみようとしました。結果は失敗です。魔力は霧散し、ほんの少しの形さえ見られませんでした。権能の説明には『必要魔力量を満たせばほぼどんなものでも創造できる。』とあります。その『ほぼ』の部分に生き物は含まれるのでしょう。どれだけ凄い力でも、所詮は人の持っている力。神々のみが為せる『生物創造』には到底及びません。
あの経験で私の願うものはこの世界にずっと居る限り叶えられないと分かりました。そろそろ決めなければいけません。外に出るか、ずっとここに居るか。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・三日後
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・・・
・・・・
・・・・・
決めました。外に出ようと思います。よくよく考えれば私は怖いと言いながらあまり外の事を知りません。貴族時代も国外へ出たことは有りません。本来は外交関係で行った方が良いのでしょうがエルミナ王国は閉鎖気味な国で王族も、大国の戴冠式などの一大イベントの招待が無ければ行こうとしません。ですから、私が婚約者だった時にそんなイベントは無かったので国外に出たことが有る訳が無く・・・。そうですね。せっかくですし各地を旅してみるのも良いかもしれません。美味しいものを食べて、きれいな光景を見て、人と触れ合う。前にはできなかったことをしてみるのも良いかもしれません。
9話
そうと決まれば早速どこに行くか決めましょう。
この大陸の名前はエレヴァルです。4大国と呼ばれる頭がいくつも抜き出た国が有り、その他に幾つもの中小国が有ります。どんなに大きな中小国でも4大国には到底及ばず、戦争を仕掛けようものなら周辺国が巻き添えを食らうのが怖くて先に叩くという状況になるほどです。4大国同士が戦争をした時、周辺国が巻き添えを食らうのが恐ろしくて、遠くの国へ国民ごと一時亡命したという逸話が有ったりするほどです。(まあここ百年は動いていないらしいですが。)とりあえず4大国には是非行ってみたいですね。でもその前に、まずはこの国、『アイリスクォーツ公国』の各地を巡ってみましょうか!
まずは外に出ると一番最初に見える街、ヘルト侯爵領都、『ヘルティア』にいきましょう!
・・・
・・
・
・・
・・・
「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ、」
やばいです。ずっと引き籠っていたので体力が落ちています。100メートルも歩いて進めていません。体力が落ちていると言いますか、そもそも筋肉が全然ありません。筋肉が、筋肉が仕事をしないのです。無理です。帰りましょう。異界への門を発動して最初の世界に帰ります。
・・・まずはリハビリをしないと生活がままなりません。リハビリをしなくてはいけませんね。ガチで死活問題なので。この世界で移動するときは、意のままに動く羽を創造して、ろくに歩いてもいませんでした。まあ、こんなにだらけきっていては筋肉も無くなりますよね。
10話
そして1か月後、やっとリハビリが完了しました。きつかったです。ですが今は一日10キロ以上歩いても少ししか疲れませんし、力もついた・・・気がします。何故かあんまり体形が変わっていないんですよね。まぁ、良いです。早速『ヘルティア』へ行ってみましょう。
・・・
・・
・
・・
・・・
ヘルティアのすぐ前まで着きました。門の前に並んでいる列に並んで順番を待ちます。ヘルティアは街に入る時、許可証が要るらしく、確かめるのに(始めて来る人には発行)時間がかかるため、どうしても数十分~数時間待たなければならないそうです。その代わり治安が良く、一度入って許可証を貰えば期間内は、出入りはほぼ自由だそうで、初めて行く街としては申し分のないほどに良い条件が揃っています。
あっーーー、順番がそろそろ回ってきますね。
「この街に来るのは初めてか?初めてじゃないなら前回発行した許可証を引き続けられるんだが・・・?」
「この町に来るのは初めてです。」
「そうか。じゃあ、あっちの列にもう一度並んでくれ。あっちで許可証の発行手続きが出来る。」
「はい。ありがとうございます。」
教えられた方に行くとまた数人並んでいる列が有ったので暫く待っていると衛兵さんに呼ばれました。
「次、こっちに来てくれ。」
「はい。」
簡単な部屋に連れて来られました。連れてきてくれた衛兵さんが少しして髪と水晶玉のようなものを持ってきました。あの水晶は恐らく魔道具の一種ですね。
魔道具とは魔法の力が込められた道具でダンジョンのモンスターや魔物からとれる魔石などを材料としています。起動し、発動させるには魔力が必要ですが持っていない魔法系統や属性魔法、に属する魔法を使えたり、威力の調整を使用者に依存することなくできます。ですのでどこの国でも高額で取引されています。と言っても今の技術で作れるものは庶民でも頑張って手を伸ばせば届く値段ーーー10万セトから100万セトほどです。(庶民の平均的な年収は約200万セト~500万セト)と言っても本当にピンキリで、今の技術では再現できない古代遺跡などから出土する魔道具や、ダンジョンの宝箱から稀に出る希少な魔道具は私の知っている限りでも安めでも10億セトはいっています。そんなものはめったに市政には出回らず、国の宝物庫に国宝として秘蔵されているものがほとんどです。手に入る確率が一番高いのはヴァーミリオンですね。ダンジョンが有りますし。
ちなみに魔道具を作る方法は、魔石、土台になるもの等を用意し、付与する魔法を発動し、魔石に込めて土台と合成するだけです。それだけですので簡単だと勘違いする人がしょっちゅういるのですが実は全く簡単ではありません。魔法を制御するは本当に繊細にしなければなりませんし、魔石も魔法の属性に有ったもの、そして付与される魔法の規模に合わせた質の物を用意しなければなりません。最後の合成は一番の難所で、魔石、魔法との相性はあまり必要ないのですがより良い効果を引き出すには相性が大切です。もちろん大きさや形も相性に入っています。そして合成の成功率は完全に作成者の技量に依存します。作れたとしても暫くすると爆発したり、効果が消えていたり、弱まったり、ちゃんと安全が確認されるまで売ること、譲渡することはどこの国でも禁止されています。
11話
「この水晶に手をかざしてくれるか?」
「?はい。」
水晶から青い光が出てきます。これは何でしょう?
「青か。よし、大丈夫だな。」
「あの、青の光だと何かあるんですか?」
「あぁ、この水晶は何でも魔法具らしくてな、人が触れて青い光が出ると何ともなし、赤い光が出ると犯罪者らしい。」
「へぇ、そんなのが有るんですか。すごいですね。」
結構希少な機能だと思いますよ。さぞお高いんでしょう。それを秘蔵せず、貸し出す(?)とは太っ腹な領主様ですね。
「あぁ、ここの領主のヘルト侯爵様が街の治安維持のために下賜してくださったんだそうだ。」
「良い、貴族なんですね。」
「あぁ、あんたが知ってる貴族は良くない貴族だったのか?」
「えぇ、特定の人物に媚びへつらって、ご機嫌伺して、最後には逃げたどうしようもない貴族でした。」
私は、貴族としての役割も果たさずに逃げましたから。
「そうか・・・。他国か?」
「はい、エルミナ王国です。」
「あぁ、あそこか。あそこから来る奴は多いなぁ。俺の女房もエルミナ王国出身なんだがよく、貴族が仕事をしてくれなかったと愚痴ってたよ。」
「・・・そうなんですか。私もエルミナ王国出身です。偶然ですかね?」
「いや、そうでもないらしい。なんでも3、4年前、王国でも珍しい良い貴族のヘルグナー公爵の娘が第一王子に婚約破棄されたらしくてな。それに公爵が怒って娘を勘当したらしい。ついでに王はその王子を王太子に立太子しんだと。それでその公爵の娘がなかなか国民に人気だったもんで、国民が怒って、エルミナ王国の賢い国民の一部が国を見限って色んな近くの国に流れてるんだと。上司によれば後10年かそこらしたら潰れるかもとさ。」
私の事ですね。殿下は王太子になったのですか。エレノア様も今頃王太子妃になっているでしょう。
---、お父様はやっぱり私を勘当なさったのですね。いちいち手紙に書かなくても良かった気もしますがまぁ、大丈夫ですか。もう、会う事が無い人達ですから。少しだけ、家族との縁が切れたと思うと寂しくなりますが。
「・・・貴族って酷いんですね。」
「あぁ。実の娘を婚約破棄されたからって勘当するのは流石になぁ。あぁ、雑談している場合じゃない。名前、年齢、性別、出身国は、っと、エルミナ王国でいいな。後、この街に来た理由と大まかな滞在期間だな。」
「はい。私の名前はリ、いえ、エリー。年齢は14歳です。性別は見ての通り女ですよ。街に来た主な理由は観光ですね。後、短期間の仕事をギルドで探そうと思っています。滞在期間は・・・1ヵ月位だと思います。」
危なかったです。一応危険性は少ないからと言って油断していてはばれてしまうかもしれません。ちなみに『エリー』と言うのは私が勝手に考えた偽名です。『リエル』の、『ル』を抜いてひっくり返して伸ばし棒を付けただけなんですけどね。エリーはよくある名前ですしまぁ、怪しまれないでしょう。リエルもあんまり珍しくありませんが。
「了解。これが許可証だ。ヘルティアを楽しんで行ってくれ。」
「ありがとうございます。あ、そこそこ安くていいサービスで、比較的安全な宿ってありますか?」
「そうだな、少し割高だがここを出たところから4つ目の道に入ってすぐに『猫と止まり木亭』って言う宿があるんだ。看板が有るからわかると思う女主人が元冒険者のテイマーでなんか強い鳥と猫がいるんだ。女性専用、とか言っていたな。飯も旨いらしい。それと嬢ちゃん、顔が綺麗だから目立つぞ?ここでは大丈夫だと思うが他の国に行くなら隠しとけ。フード付きマントとかが少し高くても街の東にある商業広場で売っているはずだ。」
やっぱり顔は目立つんですね。フード付きマントで気に入った物が有ったら買っておきましょう。魔法を使わなくても髪を隠せますし。実は今、私は魔法で茶髪に髪の色を変えています。銀髪は目立ちますからね。それと良さそうな宿屋が有って良かったです。
「お気づかい、ありがとうございます。気を付けます。」
「あぁ、気をつけろよ!」
手を振って衛兵さん(優しい)と別れると早速言われた宿に向かいます。確か『猫と止まり木亭』ですよね。猫ちゃんと鳥さん。触ってみたいですね。
12話
猫と止まり木亭に着きました。看板にきちんと『猫と止まり木亭』と書かれています。外から見ても素敵な宿ですね。お花などが植えられていてとても良い雰囲気です。
コンコン「すみませーん。」
「あ、はーい。」
思い切ってノックをしてみると中から返事が有ったので扉(可愛い)を開けて入ってみます。カウンターが入ってすぐ目につきますが、ご主人は居ないのでしょうか?でもさっき返事がーーー
「ふぇ・・・!?」
「うーん、いいねぇ。外見年齢は13~15位かな?それにしては十分過ぎる位だよ。だが変に大きすぎず、小さすぎず。将来有望♪美乳間違いなしだね。」
後ろから思いっ切り胸を揉まれました。
「なっ、なっ、なっ、ななーーー!?」
顔が羞恥で真っ赤に染まっていくのがよく分かります。声色からして女の人、ですよね?パニックになっている間もどんどん揉まれています。
「形も良し、弾力も良し、柔らかみも有るのか、ここまでの一品は滅多に会わな、ゴフッーーー、」
「サクラ、またやってるの?お客さん(?)に逃げられちゃうわよ?」
私の後ろにいた人が変な声を上げて離れていきます。
「だ、誰ですか・・・?」
身体を抱きしめるように胸を抑えて恐る恐る後ろに振り向くと手で後頭部を抑えている女の人と魔術師風の格好をした女の人が居ました。
「あ、私はエルナ、冒険者で魔術師よ。この人と違って怪しい人じゃないから安心して。で、この頭抑えてるのがこの店の女主人のサクラ、テイマーよ。ちなみに変態。」
「どうもーーー、サクラでーす。」
魔術師風の格好をした女の人がエルナさん、頭を抑えている人がサクラさんらしいです。
「って、この子、めっちゃ美人さんじゃん!凄い!睫毛長ーい。髪さらっさら、肌白ーい!」
「愛でるのは後でにしなさい。それで泊のお客さん?それとも食事?」
「あ、泊です。」
「やった!美少女を愛でられる!」
「あんたは黙ってなさい。あ、サクラにセクハラされたら庇ってあげるからちゃんと言ってね?」
状況がよく分かりません。取り合えず座らせていただけないですかね?
13話
「いやー、ごめんねー。滅多に見られないレベルの美少女に興奮しちゃってー。」
「い、いえ・・・。」
私は今、猫と止まり木亭の食堂に居ます。サクラさんの膝の上に居る猫ちゃん、可愛いですね。モフモフしたいです・・・。エルナさんは冒険者で、玄関での一悶着の後、仕事をしに行ったので今は居ません。ちなみに昼頃に居たのは仕事道具を取りに来たからで、本当に居たのは偶然だったそうです。
私は私の容姿が普通より整っていることは自覚しています。今は亡きお母様はとても美しく、社交界の華と呼ばれていました。そして私の容姿は12歳(16歳)の時点ではその年だったお母様にそっくりだと言われています。ですから私の容姿が良いのは間違いないのですが、貴族って、見目の良い遺伝子とか取り入れているので殆ど程度の差は有れど見た目が良い方ばかりで、一般的な見目の良さがいまいち正確に分からないのです。けどサクラさんの目が正しければ私の容姿は相当良い方だという事になります。
私を通してお母様を褒められていると考えると、とてもうれしくなりますね。
「あの、それで・・・」
「あぁ、そうだった、何日泊まる?」
「ヘルティアに滞在するのは大体一月位ですね。何日か外に出るかもしれないのでまず最初は3日位でしょうか。」
「あれ?冒険者なの?」
「はい。登録していますよ。お金は稼げる余裕がある時に稼いだ方が良いですから。薬草の採取の依頼でも受けてお金を稼ごうと思っています。」
「へぇ、そうなんだ。そういえばお客さん。名前何だっけ?」
「エリーです。」
「何歳?」
「13歳ですがなにかあるんですか?」
「ううん、何でもない。それで三日だよね。」
「はい。」
「それで、コースは何にする?」
「コース?」
「うん。部屋のタイプは雑魚寝、シングル、ダブル、が有って、それぞれに朝食、お弁当、晩御飯を付けるか選べるよ?勿論全部無しもオーケイ。ご飯の分だけ料金が減るよ。」
「ご飯は3つ共とか、2つだけとか、この日はこれ、この日はこれとこれ、みたいに選べるんですか?」
「うん、勿論。けどご飯に関しては事前に決めていたのをキャンセルする場合、一日前には申告しておいてね。色々困っちゃうから。それと、2つの時はもう一つ分、3つの時はもう2つ分の料金が加算されるよ。」
「分かりました。では、シングルで朝、昼、晩、三日間お願いします。」
「了ー解。今日の分の朝と昼は無いから全部で9500セトでーす。あ、料金は前払いだよ?もし、払った後に引き払うなら、余った分の料金の約半額が返金されるから。泊まらなくて荷物を置いている時は勿論料金は返金されないからね。ご飯も同じ感じかな。約半額返金されるよ。場合によって少しずつかわるけどね。それと部屋代に共同の浴場、トイレも勿論入ってるよ。有料で衣類の洗濯、装備の汚れ落としとかも有るから、ぜひ使ってね?」
「機会が有れば。えぇーーっと、9500セトっと。」
財布から9500セトを出します。実は6年前、国境を超える前に冒険者ギルドで登録をして、そのギルドがある街の雑貨屋で安い宝飾品を創っておいたのを幾つか売ったので、(結構高値で売れました。)そこそこ懐に余裕が有るのです。なので9500セトくらいは許容範囲内。全然破産しない範囲ですね。ちなみに所持金は30万セトです。
「4、5、っと、確かにお受け取りしましたー。じゃあ、部屋に案内するね。」
「はい!」
14話
案内されたお部屋は簡単なカーペットが敷いてあり、ベット、チェストが有る素朴だけれども何処か落ち着く部屋でした。
「ここがエリーちゃんのお部屋。さっき渡した鍵見てみて。」
「あっ、はい。」
「6って書いてるでしょ?」
「確かに書いてますね。」
「ここがこの宿の6号室だよ。扉にもちゃんと6って書いてるから。この宿は、ほぼ全部の部屋に番号が書いてて、鍵は同じ番号の部屋にだけ使えるんだ。ちなみに私は緊急時用に全部の扉の鍵が開けられるマスターキーを持ってるから。」
「あの、ご飯の時間とかって決まっていますか?」
「あぁ、言ってなかったね。基本朝食は朝、6時から9時まで、晩御飯は5時から10時までだよ。お弁当は朝か、宿を出る前に手渡しだよ。」
「そうなんですか。」
「そーだよ。じゃ、また後でね。」
「はい。ありがとうございました。」
サクラさんが部屋を出て行った後、ベットに腰かけて何をするか考えます。
やっぱり外にワンダーワールドで創ったものを持ってくるのは止めておきましょう。どうしてそう考えたのか、その理由は、お母様が生きていた頃、言った言葉に有ります。
・・・
・・
・
『リエル。どうしてお勉強を放り出したの?』
『だって、おかあさま。おべんきょうがむずかしいもの。まほうだってつかれるし。もうなんにもやりたくないわ。』
『そうなの。じゃあ、リエル。どうして今あなたがお勉強をしているのか分かる?』
『しょうらいのため、だよね?』
『確かにそうね。けどね、将来の為の事を、どうして今やっているのか分かる?』
『わかんない。』
『じゃあ、お母様が教えてあげるわ。それはね、貴方がこれからの人生をより楽しむために有るのよ。』
『たのしむため?』
『ええ。そうよ。そして苦労はね、楽しい未来をさらに楽しくするためのスパイスなの。』
『すぱいす?こうしんりょうのこと?』
『そうよ。お料理に香辛料をかけると、とってもおいしくなるでしょ?』
『うん。けどかけすぎると、からくてとてもたべられないわ。』
『その通り。闇雲に突っ走って、苦労しすぎるのは絶対にダメなの。楽しくなるはずだった未来が全然楽しくなくなる。けど反対にね、なんの苦労をしないのもダメ。より美味しくなる筈の料理がただ普通に美味しいだけの料理になるように、より楽しくなるはずの未来がなんでもなくなっちゃうの。』
『よりたのしいが、ただのたのしいになる・・・。むずかしくてわかんない。』
『今は分からなくても大丈夫。きっとその内分かるようになるわ。これだけは覚えておいて、何でもかんでも楽をするのは一番自分の為にならない。苦労してつかみ取ったものこそ本当の価値が有る。ぽっと出の物に囚われちゃダメ。それは自分の物じゃないから。だからリエル、自分の為にお勉強に戻りましょう?』
『はぁーい。おかあさま。』
・
・・
・・・
「『苦労してつかみ取ったものこそ本当の価値が有る。ぽっと出の物に囚われちゃダメ。それは自分の物じゃないから。』ですか。考えればあの魔法もぽっと出の物ですから。自分の努力の結果では有りません。あの力にばかり捕らわれていてはだめですね。自分で苦労して生活位は何とかしなければいけません。相当なことが無い限りこっちにいる間は使わないようにしましょう。まあ、3年前のアクセサリーとか、宝石の事は例外にしておきましょう。」
そう、決意を決めて少し夕方まで仮眠を取る事にしました。6時には起きた方が良いですね。明日はギルドへ行って、依頼を受けて、宿代を稼がなければいけませんから。寝すぎると夜、ちゃんとした睡眠がとれません。
15話
「んーーー」
時間は6時、きちんと決めた時間に起きれました。起き上がって軽く服を整えます。早いとは思いますがそろそろご飯を食べに行きましょう。
・・
・
・・
「あ、エリーちゃん意外と早いねー。」
「そうですか?」
「一回見に行ったら熟睡してたから9時くらいまで寝てると思っていたよ。」
「え?どうやって寝てるってわかったんですか?」
「え?普通に部屋に入ってだけど。」
「私、鍵を閉めてたはずですよね?」
鍵、ちゃんと閉めたはずですよ?
「?普通にマスターキーを使ってだけど。良い寝顔してたねー。」
「ちょ、客のプライバシーはどうなっているんですか?」
「えーと、エリーちゃんが可愛いのがいけないんだと思うな?」
「責任転嫁しないで下さい。」
「ただいまー。ん?サクラとえーと、昼のお客さんじゃない。睨み合ってどうしたの?」
「あ、エルナさん。お昼ぶりです。」
頼りになりそうなエルナさんが帰ってきたようです。助かりました。
「それで何かあったの?サクラにセクハラされた?」
「実はサクラさんが私が寝ている間にマスターキーを使って部屋に入って来たらしくて・・・。」
「あちゃー。ごめん。言い忘れていたわね。生活魔法系統:土属性魔法:施錠使える?」
「はい。」
「位階とLv.は?」
「位階は上級でLv.は3です。」
「え、凄いわね。今何歳だっけ?」
「13歳ですよ。」
「えー、その年で上級って、凄いわね。」
「そうですか?うふふ。」
魔法を褒められるのはとてもうれしいです。それで施錠が何の関係が有るのでしょうか?
「上級なら大丈夫。毎晩寝る前魔法をかけておいた方が良いわ。サクラの解錠は中級だから開けられないから。」
「魔法使っても開けて来るんですか?」
嘘ですか?嘘ですよね?
「えぇ。開けて来るわよ。私がここに初めて泊まった時も何か物音がするかと思ったらサクラが部屋に侵入してたのよ。それで慌てて次の晩に施錠を施したらまた開けられて、サクラが開けられない位階とLv.になるまで安心して寝られなかったわ。めっちゃ頑張って特訓したの。」
エルナさんも被害者だったんですね!良かったです。仲間が居ました。
「ちなみにこの宿に泊まっている客はほぼ全員がこの洗礼を受けているの・・・。」
エルナさんはどこを見ているのか分からない遠い目をして呟いていました。って言うか、全員被害に遭っているんですね・・・。
「ちなみにお金に困った時は料金の割引を条件にサクラが趣味で作った服を延々と着せ替えさせられたわね。」
また、遠い目をしています。一体どんな服を着させられたんでしょうか。私が利用するのは絶対に避けたいですね・・・。
16話
「ま、まぁ、エルナ。その話はほおっておいて、晩御飯、出すね~。」
サクラさんが焦ったように急かして、晩御飯を出してきました。エルナさんが私に耳打ちします。
「私がサクラのセクハラを受けてもこの宿を出ない理由には、ここのご飯が含まれているの。」
「そうなんですか?」
「えぇ。非常に悔しいんだけどね。公都のご飯よりも美味しいのよ。」
アイリスクォーツ公国の公都には公国中から様々な食材が集まってきます。そして公国は古くから美食の都としても栄えてきました。そんな公都の料理を凌ぐ料理はとても気になりますね。どんな料理なのでしょう。
「ちなみにサクラ、公家からも公族専属のお抱え料理人としてお誘い受けた事が有るらしいわ。手紙持って自慢してたもの。」
・・・マジですか。
「あ、ちなみに名前何だっけ?まだ聞いてなかった気がするんだけど。」
「あ、エリーです。これからよろしくお願いしますね。」
「ええ。勿論。じゃあ早速一緒にご飯食べましょうか。」
「はい!」
「今日の晩御飯は、ミートパスタとコーンスープ、ポテトサラダだよー。ミートパスタとコーンスープはお変わり自由!マヨネーズはあそこの台の上に置いてあるから勝手にとって良いからね。」
わあ、とても美味しそうなご飯です。生まれてからほとんど毒見をして冷めている物や、適当に創造した味気の無い物ばかり食べていたのでこんなに美味しそうなご飯は始めてです。
「「頂きます。」」
エルナさんと二人並んで座り、手を合わせて・・・
「「あれ?」」
「ど、どうしてエルナさんも『頂きます』って?」
「い、いやエリーちゃんこそなんで『頂きます』を知ってるの?」
「お母さm、お母さんにご飯を食べる前にはこう言いなさいって、教えられたので。」
危ないです。お母様の事を『お母様』と言いかけました。母親の事を『お母様』と言うのは良い家のお嬢様の場合が多いですからね。些細な言動でばれてしまうかもしれないので気を付けなければいけません。どうしても少しだけ丁寧になってしまう口調はもう仕方がないと割り切っていますが。
それで、私はお母様にこう言いなさいと教えられていたのですが、他の人は何故かこの習慣を知りませんでした。お母様が少し普通じゃないんだと(元、貴族令嬢とは思えない程に破天荒な人物でしたし。)割り切って心の中で教えを守っていたのですが、どうしてお母様独特の食前の挨拶をエルナさんがしているんでしょう。
「私はサクラにこの宿屋のルールだって強制されてやっている内に、染みついちゃったんだけど。」
サクラさんが言っていたんですか?厨房に居るサクラさんを呼びます。
「サクラさーん。あの、聞きたいことが有るんですけど今、大丈夫ですか?」
「ん?なーにー?」
「『頂きます』って、サクラさんはどこで知ったんですか?」
「それはね、の、前に、どうしてその話になったか教えてくれる?」
「何故かエリーちゃんが知ってたのよ。それでサクラはどうして知っているんだって話になってね。」
「え?どうして、エリーちゃんが知ってるの?『頂きます』はあっちの人しか知らないのに・・・、」
あっちの人って、何でしょうか?
17話
「『あっちの人』って、なんですか?」
「それは、えと、エリーちゃん!」
「は、はい!?」
きゅ、急に大声で呼ばれてびっくりしました。
「お、お母さんが『二ホン』とか、『チキュウ』とか、とにかく何のことか分からない単語言っていたか覚えてる?」
「あ、あんまり覚えてないです。その、お母さんは数年前に流行り病で死にましたから。」
「あ、ごめん・・・。つらいこと聞いたね。」
「だ、大丈夫です。踏ん切りもついていますから。」
「そっか・・・。他にも仲間が居るかと思ったけどもういないのか。」
「仲間?」
「ううん。何でもない。こっちの事。それでお母さんの髪とか目の色ってわかる?」
「あ、はい。どちらもアリスブルーですよ。私の目はお母さん譲りなので。」
「そっか。じゃあ転生者か。」
「転生者?」
転生者って何でしょう。初めて聞く単語なんですが。何なんですか?」
「そ、れ、は、秘密!もしエリーちゃんがミニスカメイド服着て、猫耳付けて、『にゃん』って語尾を付けてご奉仕してくれるなら、考えちゃうけどね。」
ミ、ミニスカメイド服って、た、確か、あ、あの、男の人が行く不埒なお店の人が着ているんですよね?そ、そんなもの着れません。破廉恥です。どこかで聞きましたがああ言うお店とかの衣装って下着が本当に見えるか見えないかの短さらしいです。下にスパッツやスコートを履かないとふとした拍子に下着が、・・・、い、いくらお母様の事だって言ってもこればかりは絶対に無理です。それにサクラさんは『考える』だけで『教える』なんて一言も言っていません。貴族の世界ではこういう風に相手を騙す(?)のは当たり前の手口、確証が得られないままぬか喜びしていたらあっという間に足元をすくわれます。伊達に何年も殿下の婚約者してきたわけでは有りません。私は騙されませんからね。
「そ、その注文は絶対に無理です。お断りします。」
「ふーん。それでエリーちゃん。何を想像したのかな?顔が真っ赤になってるよ?」
「へっ?」
そう指摘され、慌てて顔に手を当ててみると言われた通り熱くなっていました。ろ、6年、いえ、3年前はちゃんと閉じ込めれたはずなのに思いっ切り表に出てしまっています。ポーカーフェイスが剥がれてしまっています。体中の筋肉だけでなく表情筋まで鈍ってしまっているとは、時間とは本当に恐ろしいものです。血の涙を流すようなお稽古の成果のほぼ全てが無駄になってしまうのですから。
それにしてもどうして猫耳と『にゃん』の語尾が居るのでしょうかね?
18話
「それは置いておいて、どうしてサクラさんが『頂きます』を知っていたんですか?」
「あぁ、それは私の故郷の習慣だよ。」
「故郷って、サクラさんが言っていた、『あっち』の事ですか?」
「ま、まあそんな感じかな。」
「ご馳走様。」
「あ、もうエルナさん食べ終わったんですか?早いんですね。」
「そう?そういうエリーちゃんだってあと少しで食べ終わりそうじゃない。」
「え?」
気がつくとお皿の中身が殆ど無くなっていました。全然気がついていませんでした。サクラさんの料理、凄いです。しゃべりながらもついつい食べてしまい、はっと気がつけば殆ど無くなっているんですから。公家に誘われたというのも頷けます。
「分るわ。私も最初にサクラの料理を食べた時そうなったの。無意識に口に運ばれていくのよね。」
「はい。そんな感じですね。」
「って、あら、もう7時ね。私は明日の準備が有るからお暇させてもらうわ。」
「あ、はい。お休みなさい。」
「お休み。」
「私もそろそろ部屋に帰りますね。
「はーい。あ、言ってなかったことが有るんだけど、廊下に出て突き当りに番号書いてない引き戸があるでしょ?」
「はい。有りますね。」
言われた通り、廊下の向こう側を見ると大きい引き戸が有りました。あそこは何でしょう。
「あそこがお風呂。朝は4時から8時まで、晩は5時から11時まで開いてるからすきに入ってね。で、そのすぐ左手にまた扉が有るでしょ?」
左側に目を向けると確かに扉が有りました。
「2階の同じ場所にも扉が有って、そこと2階の方がトイレ。」
「へー。そうなんですね。」
「うん。?」
「どうしたんですか?」
急にサクラさんが黙り込んで何かに集中しています。
「そっかー。そろそろ来るんだったな。」
「えーと、何がですか?」
「驚かないで「サクラ、久しぶりなのじゃ!」
サクラさんの声を遮って誰かがしゃべりました。いったい誰なのでしょう?食堂の扉を大きな音を立てて開き、クリーム色の髪をした女の子が食堂に入ってきました。あの子があの声の主ですかね?
「ローザーリー。大きな音を立てて扉を開けるなって言ってたよね?」
「まぁ、まぁ、良いではないか。」
「よーくーなーいー。」
どうやら女の子の名前はロザリー(?)と言うようです。やっぱりあの遮った声はあの女の子の物だったようですね。
「あ、エリーちゃん。この子はロザリ-だよ。知り合いの娘さんで時々この宿に遊びに来るの。で、ロザリー、この子は今日初めて来たお客さんでエリーって言うの。」
「エリー、よろしくなのじゃ!」
「はい。よろしくお願いしますね。ロザリーさん。」
やっぱり名前はロザリーであっていた様です。それにしてもサクラさん、元冒険者とは聞いていましたが何者なんでしょう。ロザリーさんの服は明らかに上等なシルクですし、髪も丁寧に手入れされているのか全く傷んでいません。絶対に良い所のお嬢様です。そんなロザリーさんのご両親と知り合いという事はそれなりの人脈を持っているという事です。冒険者はその職業柄、人脈が形成されるケースが多いです。そしてよりランクが高い冒険者になるほど、冒険者としての信頼度が上がり、貴族や商人、果ては王族などからの依頼も受けられるようになります。そして冒険者時代に作ったとは限りませんが、お金持ちの(恐らく)ロザリーさんのご両親との人脈を持つサクラさんは一体冒険者の時、何ランクだったのでしょうか。最低Cランクは有るはずです。もしかするとAランク、下手をするとSランクの可能性も、って、それは流石に有りません。Sランクはこの大陸の中でも2桁は居ないと言われている程の実力者たちです。そんな人がこの街で宿屋をしている筈有る訳有りませんからね。
19話
「そういえばエリーはどうしてこの宿に来たのじゃ?」
「この街にの門で衛兵さんとお話しした時にいい宿が無いか聞いて、ここが良いって言われたんですよ。」
「ふふふふ。なんだかうれしいのう。この店には父上達も出資しておるからな。衛兵にお勧めされるほどに評判というのは父上達の目が正しかったという事にもなる。」
ロザリーさんのお父さんはやっぱりお金持ちなんですね。『出資』とか言っていますし。正体、一体何なんでしょうか。物凄く気になります。少し聞いてみましょう。
「そういえばロザリーさんのお父さんって商人とかなのですか?」
「うーん。それは秘密なのじゃ。まぁ、『質問権』なら教えてやらないこともないぞ?」
「質問権、ですか?」
『質問権』とは、権力者から庶民まで誰もが知っているゲーム、のようなものです。このゲームは簡単に言うと、『ゲームでするゲーム』のようなもので、明確なルールは存在していません。ですが少しだけ、確かなルールが有ります。それは、
・ゲームに使用する物は、ゲーム参加者全員が同意の上で決めたゲーム、又は勝敗を完全に決定できる物ですること。
・事前に同意し決めたゲーム、又は勝敗を完全に決定できる物、で決まった勝者は、自分以外のゲーム参加者(敗者)の内、一人に事前にゲーム参加者全員が決めた範囲で質問が出来、指名された敗者はその質問に決められた範囲以内の内容でその質問に答えなければならない。
・ゲーム開始前にゲーム参加者全員の前でその時決めたルールの確認をその都度する事。
です。ちなみにゲームに特に指定は有りません。




