1.決別と落胆
始二は昔から周りを気にすると言う事を嫌っていた。
「なんで、人に合わせなきゃいけないんだ、好きにさせてくれ」当時、自分の感覚がズレているなど
気付いていなかった彼にとってそんな想いが強くなるきっかけは高校時代の進路決めの時であった。
「進路決まっていないの、貴方だけよ? 何かやりたい事ないの?」担任に呼び出され、説教じみた声色で
そんな事を聞かれた。 今でこそ自覚はあるがバイト禁止の学校に関わらず遅くまでバイトをし
登校するのは昼間、来たかと思えば部活に行くだけ。叱ろうにも授業態度だけは良い為叱るにしかりずらい
正に問題児な俺をこれ見よがしと問い詰める。
「はぁ・・・、進路の提出がそんなに大事ですか? 急かしても何もいい事ありませんよ?」
いつもの調子で遠慮なく身勝手な事を言う始二。 担任が激怒するのも当然だった。
「何その態度! 先生は貴方のためを思って!!」火に完全に油を注いだ事を今でも覚えている。
あの時はスンマヘン。
そんな説教(?)が30分ほど続き、なんとか解放されそのまま所属する合唱部へと向かった。
「始二、また呼び出しか? あんまり先生を困らせるなよ?」と部室にあるストーブの前で
背を丸めながら顧問の先生が声をかける。
困らせたいんじゃなくって、本当の事を言っているだけですよと軽口を叩きながら
譜面立てを準備し、ウォーミングアップをする。
11月のこの時期まで3年である始二が通っているのは極めて稀だなんて言われているが
理由は2つあるが、そのひとつは1年の時から問題児出会った始二をこの部活に勧誘し
父親の様に接してくれる顧問がいるからだ。向こうも始二の事を慕ってくれているらしく
それも始二を他の先生が叱りずらい理由でもあるらしい。
そんなある日、いつもの様に昼間に登校すると臨時の職員会議をやっているのが廊下で聞こえた。
「えー、今日はいまだに進路表を提出していない生徒についての正直な問題ですが・・・」
俺やんけ、と始二は興味本意から廊下で立ち聞きをすることにした。
何人かの生徒が名指しされる中、遂に始二の名前が挙がった。
「最後に、3年の始二ですがこいつには正直手を焼いています。 あと1日休めば留年の教科が複数、進路表も
今だに提出していない。正直、目の上のタンコブですな。」
ウルセェこの正直正直野郎、と苛立ちを覚え立ち去ろうとする背中に聞きたくなかった人から聞きたくなかった
言葉が聞こえて来た。
「そうですねぇ、部活にはしっかり来るし熱心に取り組んでいるので言わなかったんですが
他の生徒の目もありますし、私から強く言います。はっきり言って迷惑でしたしね」
その日は部活に行かなかった。どうしても最後の言葉で今まで感じたことのない
失望感と嫌悪感、そして悲しみが渦巻いていた。 あの人だけはわかってくれてると思ったのに・・・
目の前が真っ暗になり、途中の帰り道もどうやって帰って来たか覚えていない。
同時にうちにこみ上げて来る熱い何か、この感情が今後の人生の根幹となる部分であると言う事を
この時の始二は知る由も無く、とある所へ電話をするのであった。