12月25日『もみの木』
『ピアス』の主人公より
「かんぱーい」
そう言いながら、グラスをかち合わせるが、もちろんあの透き通った音は聞こえない。エリナ達の持つグラスはプラスティック製。中にはキャラメルマキアートやカフェラテ、カフェモカチップと言う名の珈琲が入っている。
「ていうか、なんでここ?」
そう言うサヤカに対してエリナはにこやかに答える。オープンな店内にはティアラ館内に響くクリスマスソングに対抗しようとジャズ風クリスマスソングが流れている。
「だって、アキはアルコールだめだしさ。この三人だとここって感じがするのよね」
そう言ってストローを突っ込んだカフェラテをすいっと吸い上げる。エリナにとってここはなんとなく節目にはやって来ておきたい場所だった。
「まぁ、アキのアルコールだめは仕方ないとしてさ。クリスマスだよ。もっとさ、お洒落なレストランとかカフェとか」
サヤカの言い分も分からなくない。大学三回生になって、それぞれバイトもしている状態だ。年に一度のクリスマスの日にどうしてここなのか。しかし、アキは別に何にも気にしていないようだった。
「別に良いじゃん。だって、まぁ、アルコール弱いのはあたしの体質なんだからどうしようもないんだけど、この三人だとここって感じ? なんとなくそれは分かるから」
「それは、彼氏がいるから言える言葉なんじゃない?」
そう、アキには今、彼氏がいる。エリナもサヤカもそれを聞いた時、自分たちの耳を疑ったものだ。ボランティア部というものに入ったアキはそこで、彼に出会ったらしい。
「なんだよ。サヤカだって最近までいたじゃん」
確かに、大学生になったサヤカは毎年彼氏が違うという現象が起きていた。大学に入って最初はテニスサークルのイケメン先輩。二回生の時は同じ学部の同級生。そして、先ほど話題にも出た彼氏はナンパで出会った、やはりイケメン男子らしい。エリナは二人の会話をふんわり眺めながら、なんとなくアキと彼の付き合いはこれから長く続くのだろうと勝手に思っていた。
「いいなぁ。だって、今夜は彼氏と一緒なんでしょ?」
「ご飯一緒に食べるだけだよ」
「そんなの分かんないでしょ?」
いや、アキの場合おそらくそうなのだろう。アキの顔は本当に何を羨ましがっているのだろうかという表情だ。多分、先約が私たちだったら、彼氏の方を断っていたのだろう。エリナはアキの性格を鑑みた結果そう結論づける。一見男勝りに見えるアキだが、誰よりも恥ずかしがり屋で、そういうシチュエーションになったとしても、なにかと言い訳をして、逃げ帰りそうなのだ。女ばかりでいると一番はっきりしている性格なのに、不思議なものだ。そして、そんなアキと付き合っているのだから、同情はしてしまうが彼の方もご飯を食べて本気で帰りそう。まぁ、サヤカからすればいいとこ高校生、悪くて中学生かと突っ込みそうな付き合い方である。
「エリナは? そんな話ないの?」
不意に話を振られてしまったエリナは慌てて「ないない」と否定した。
「だって、私進学組だし。院にも行きたいし。それどころじゃないよ。それにもし、彼氏がいたら……」
彼氏がいたらこの土日か昨日に約束してそうな気がする。おそらく、その微妙なニュアンスが通じるのはサヤカだけだ。うん、きっとアキはクリスマス当日に会うというミッションをクリアしただけなのだ。サヤカもそれを感じ取ったようで話を綺麗に変えてきた。
「でも、エリナかっこいいよね」
「そうかなぁ。サヤカの公務員もいいと思うけど」
恋愛では出入りが激しいサヤカがお堅い公務員を選ぼうとしていること自体、エリナの半分自分探しよりもかっこいい気がしていた。
「いやいや、だって公務員だったらこの一年自由に出来るでしょ」
そう、この理由がなければ。公務員試験は卒業の年しか受けられない。こんな理由で公務員を選ぼうとする人ってどれほどいるだろうか。でも、きっと面接も試験もうまく切り抜けそうな気がしてくるのはサヤカの強みだ。
「そこんところはサヤカっぽいよな」
カフェモカチップという甘ったるい象徴のアイスコーヒーを啜るアキは、そのままメニューに目を流す。
「なぁ。サヤカ、あれ食べようよ。あれだったらクリスマスっぽいしさ」
もみの木の抹茶チョコが載せられたカップケーキだ。アキなりにサヤカの言ったお洒落を見つけたのかもしれない。
そして、誰の同意も得られていないのに、一人で立ち上がってレジへと並ぶアキをエリナとサヤカが一瞬呆然と、そして、すぐさまくすくすと笑い出す。
「一人分だよね」
「だと思うけど」
誰の目も気にせずに行動できるのはアキらしい。
「エリナの薬剤師、似合ってると思うよ。でも、あたしは最初てっきりティアラに就職希望でも出すのかと思ってたけどね」
本当にそうだろうか。薬剤師になりたいのだろうか。
「うーん。ティアラのドラッグストアに入るかもよ」
これは冗談。だけど。
サヤカがスマホを触り出す。
「見て。雨の予報が雪に変わってる」
「本当だ」
「え、何が?」
カップケーキを一つお盆に載せているアキが帰ってきた。
「雪だって」
「え、うそ。マジ? あ、でも雨よりましか」
三人の笑い声が店内に響き雑踏に掻き消されていく。エリナは誰にも頼らずに生きていきたい。だけど、ずっとこのままの自分でもいたい。このままの三人でありたい。
店内に『もみの木』が流れる。
「ほら、アキ、ホワイトクリスマス。いいじゃん。恋人同士にぴったり」
サヤカがにたりと笑うが、そのにたりに全く気づかないアキが目を子どものように輝かせている。エリナはそんな二人を眺める。
でも、本当はみんな変わらないのかもしれない。夏も冬も緑の葉を持ちすくっと天を目指すもみの木のように。そして、空から舞い落ちる無数の星をその枝葉で受け止めて着飾る針葉樹のように。
ただ、力強くまっすぐに生きていくだけ。
本日はホワイトクリスマス。
小さな星が空から降ってきた。そんなあなたを祝福するために。
お付き合い下さりありがとうございました。皆様にも祝福がありますように。
良いお年をお迎えください。
お読みくださりありがとうございました。
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