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12月19日『赤鼻のトナカイ』

「たったそれだけの躓きでも」の主人公より

 

 朝早くに起きて丸一日寝かしてあるラム酒漬けナッツを冷蔵庫から取り出して、強力粉、薄力粉、砂糖にお塩。あれ? そして、気がついた。

 あ、勘違いしてた。時計を見ると九時半過ぎ。今から行けば朝一番にちょうどいい。

 コートを羽織り、首巻きを巻いて、私はティアラへと走り出す。

 お菓子作りをしてみようと思ったのは、肩こりが酷くなくなってきたから。それから、なんとなく自分で作ってみたいと思ったから。作り始めると意外と楽しかった。甘すぎると次は砂糖を控えてみて、ふんわりが足りないと混ぜ方を前よりもしっかりとしてみて。ほんの少しの変化だけで何かが変わる。

 きっとそれが嬉しかったのだろう。

そんなにわかお菓子作りの私はネットで色々調べる。ネットをさらっていて作りたいと思ったものを作るのだ。手始めがパウンドケーキだった。そして、にわかである証明として、ドライイーストをベーキングパウダーと読み間違えてしまったのだ。

 だって、シュトーレンはケーキの仲間で、パンの仲間だなんて思っていなかったのだもの。そんな言い訳を自分自身にしながら、白い息を吐き商店街を小走りで抜けていく。

 ティアラの地下なら100%ドライイーストがあるだろうし、普段使いのスーパーと距離も変わらない。

 クリスマスまで一週間。シュトーレンを作るにはちょうどいい時期だと思う。これもネット情報。作ったシュトーレンを薄く切って、一切れずつ食べてクリスマスを待つらしい。そして、毎日少しずつ変わる味を楽しむ。そんなことをしたくなったのだ。

 なんだか良いことが起こりそうな気がして。

「あ」

ちょうど新しい惣菜屋さんの前だった。商店街にクリスマスソングが鳴り始めた。十時になったようだ。

「赤鼻のトナカイ」

なんだか私のことみたい。

 いや、もちろん特別な人っていうわけじゃないけど、きっと出会ったんだろう。何の詮索もしないけど、私のことを知っている人。ただ、そこで挨拶をしてくれるだけの人。

 それだけだけど。

 赤信号で止まりながら考えた。

 カッコウの信号が鳴り始める。空を見上げる。曇り空だった。まだ傘立ては出ていないけれど、もうすぐ出てくるかもしれない。期待しながら待ってみた。あ、ほら。まるこい顔のおじさんが、よいこらしょと、傘立てを置いた。

挨拶をすると駅員さんが同じ返事を落ち着いた声で返してくれる場所。ただそれだけの場所だけど、来年からは毎日ここから電車に乗って出勤するんだ。

 カッコウの音とともに歩き出した私。

 もうキャリーケースで躓くこともない。身軽になった私はひょいと東山出口の段差を登り切り、挨拶をする。

「おはようございます」

優しい笑顔のサンタさん。


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