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第4話 終焉

 夕方になって薄暗くなってきたので、私は帰ることになった。


 私は愚痴をこぼす。


「もっとずっと詩織と居たいのに」

「俺だって麻弥といたいさ。けど、俺の家に麻弥を泊めるのは、親父とお袋が許さないだろうからさ。まあ、また会えるさ」

「そうだね」


 名残惜しさを感じながら、私はマスクを付けて、パーカーを着て、フードを目深に被った。詩織も同じ格好に着替えている。


 声を出せるのはここで最後なので、私たちはお互いを抱きしめる。

 詩織の体温が伝わってくる。

 そして私は彼女に伝えた。


「今日は本当に楽しかった。ありがとう」

「俺も楽しかった。ありがとな」


 私と詩織は準備を終え、2人で彼女の家を出た。

 アパートを出ると、街は人で溢れていた。昼間にもそれなりに人はいたけれど、この時間はそれ以上のようだ。

 私は詩織を見失わないようにしながら、彼女について行った。本当は手を繋ぎたかったけれど、女だとバレないようにするためには、繋がない方がいいって詩織が言っていたから、繋がなかった。


 10分ほど歩いていた頃、私は男の人にぶつかって、転んでしまった。


「きゃっ」


 その時に思わず声が出てしまった。それが私の最大の失敗であった。

 ガラの悪い男数人にすぐに囲まれてしまう。私が転んだことに気づいて駆け寄ってくれた詩織と共に。


「おいどこ見てんだ、てめえ。つーか、お前、女か」


 そう言うチンピラの声を聞いた。

 やばい。バレた。一気に血の気が引いていくのがわかった。


 すると、すぐに手を詩織に掴まれるのを感じた。


「走るよ」


 詩織は私にそう声をかけ、チンピラ1名に唐辛子スプレーをかけた。


「痛え。痛えよ」


 そう悶えてるチンピラの脇を通り、私たちは包囲網を突破した。詩織と私は精一杯走った。


「おいくそアマ。待てや、ごらぁ」


 後ろから男たちが追いかけてくるのがわかった。


「どうしよう、詩織」


 そう私は半泣きで詩織にすがってしまった。

 そんな私に対しても彼女は、毅然とした態度でこう私に言った。


「大丈夫。必ず逃げられるから」


 けど、15歳の女の子の足の速さと、男性の足の速さを比べたら、どうしたって男性の方が速い。女の子の願いなんて男の力の前では無力なのだ。


 結局すぐに追いつかれてしまった。

 ガラの悪い男たちにまた囲まれる。


「お嬢さん。さっきはうちの舎弟がお世話になりました」


 身なりの良い男がそう言う。


「そりゃどうも」


 そんな風に強気な返事を詩織はする。けど、その言葉とは裏腹に、私の手を握ってくれている詩織の手は小刻みに震えていた。彼女は怖がっている。それでも、強くあろうとしている。こうなったのも私のせいなのに。


 男が言葉を続ける。


「こちらも手荒な真似をしたくはないんだ。おとなしく降参して、私たちについてきてくれないか」

「何が降参だ。俺らを連れて行って、レイプする気しかないだろ、お前ら」

「ほう。俺っ子とはまた珍しい。強気な子は好きだよ。私は」


 男がそう言い終わる前に、彼女は男に唐辛子スプレーをかけようとした。

 しかし。


「同じ手は2度通用しないよ。お嬢さん」


 詩織はそう言う男に腕を掴まれてしまった。そして、男に唐辛子スプレーを取られてしまう。男は詩織を掴んでいた手を離してから、興味深げにそれを眺める。


「ほう。唐辛子スプレーか。なかなかいい選択だ。初見の暴漢ではこれに対応することはできないだろう。だが、スプレーを持っていると知ってしまえば対処は簡単だ。さて、まだ降参しないかね?おそらく手持ちの装備はこれだけだと思うのだが」


 詩織の私の手を握る強さが増したような気がした。多分、男の言う通りなのだろう。詩織はどうするのか。私は横にいる彼女を見る。


 少し間を置いて、詩織は答えた。


「俺を連れて行くのは構わない。だが、こいつは見逃せ。それが条件だ」

「何言ってるの、詩織。一緒に逃げなきゃだめだよ」

「無理だ。このチンピラどもの包囲はもう抜けられないし、恐らくこの男だけでも、すぐに俺ら2人は捕まえられる」


 詩織は自分を犠牲にすると言っているのだ。私が悪いのに。私のせいなのに。

 だが、それに対する男の答えは非情だった。


「残念だけど君たちに選択権はないよ。来てもらうのは2人共だ。ただ、手荒な真似をして君たちを傷つけたくないから、この提案をしているにすぎない」


 長い間を置いて、詩織は答える。


「わかった。ついて行く」

「賢明な判断をありがとう。お嬢さん」


 その後、私と詩織は持っていたものを全て没収され、手首には結束バンドが巻かれ、口はガムテープで塞がれてしまった。さらに、黒い布を頭から被せられる。私は誰のものだかわからない手に腕を掴まれて、どこかに連れていかれる。


 すぐに車のドアを開ける音が聞こえてきた。促されるままに車に乗り込む。あの男の声が聞こえてきた。


「この2人のスマートフォンは破壊した上で、捨てておいてくれ」

「了解です。兄貴」


 その声がした後、パリンと何かが割れる音が2回聞こえた。多分、私と詩織のスマホが破壊されたのだろう。私と詩織をつないでいたスマホが、誰だかわからない人に壊されてしまった。


 それからのことはよく覚えていない。

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