第2話 ちょっとした恐怖心
今回は任務のために現場前乗りであるため、任務2日前はつまり出発1日前である。その前日であっても彼らはその準備を欠かさない。
センター敷地内にある『射撃演習場』と書かれた施設。
そこでは2人の少年少女が得物を構えていた。
片膝を立てて上体起こし、やや大きめのライフルを構える新谷。今までは安定性を考慮し寝転がって構えてはいたのだが、中距離射撃では自らの自衛・回避を考える必要性が出たことでこうした構えだ。反動の大きな狙撃銃でこれができるのはさすが新世代の身体能力の為すところ。ただその発想に至ったのは、前回任務で死にかけたからだろう。よほどメンタルにきたらしい。
その横には退院したばかりの稲嶺。
彼の得物は今まさに足元に立てかけてあるサーベル。それと同時に拳銃も保有している。どっちがメインでどっちがサブかは決まっていないらしい。相手によって使い分けるとか。そんな彼も本日は拳銃での訓練である。空見から「やぁ。私と一回、くんずほぐれつな訓練しない?」と色気満載(本人談)で、くんずほぐれつな近接白兵訓練を提案されたが、さすがにそこまでの元気はないらしい。その代わりとして猪原が首根っこ掴まれて、訓練目的に連行されている。今頃、彼は木刀あたりで彼女にボコボコにされているところだろうか。
「う~ん。やっぱり久しぶりだとぶれるなぁ」
一方の銃撃班。ターゲットから大きく逸れた着弾点を見て首をかしげる。その一方で隣を見ると、こちらもあまり着弾点がよろしくない狙撃手。あくまで本命は敵の牽制や誘因なのだから、これでも十分と言えばそうなのだが。
「稲嶺さん。正直、銃よりも白兵の方が得意なのでは?」
「う~ん。そう言われるとそうなんだよね」
拳銃を目の前の棚に置きつつ、足元にある刀を手に取る。空見の用いている自称・村正ほどクオリティの高いものではないが、それでも自らの命を託すにふさわしい業物。彼もそれを扱うにふさわしいほどの技術を持っており、入院前のブランクがない状態では空見と真正面からぶつかり合えるほど。性格面の問題から空見の方が前衛寄りだが、彼だって十分に敵前線に突っ込める切り込み隊長的スキルがあるのである。
「でも……」
だが彼は手首に手を当てる。
「以前、あまり前に出て壊しちゃったからね……次にやったらどうなるか。もうあまり前には出たくないね」
「制御器の故障に伴う、体内バランスの崩壊。ですか」
「力の代償ってことだよね。それでも二度とあんな目に会いたくないよ。入院するまでは特になんともなかったから、まさかあんなことになるとは思わなかったかな。症状が出る前に事前投薬で力を制御したのがうまくいったみたいだね」
「その制御した結果があれですか」
制御できてないじゃないですか。と肩を落とす新谷。しかしそれだけやったからこれで済んだというのもまた事実なのだろう。
「あまり無理しちゃダメだよ。あれ、死ぬほどつらいから」
「大丈夫です。私が壊すほどの事態になれば、十中八九もう死んでるので」
「間違いないね」
彼女も前線に出てくるとはいえ、他3名ほどアクティブではない。そんな人間が制御器を壊す事態となれば、それはもう劣勢どころの問題ではないだろう。あるとすれば敵に腕ごと持っていかれるとか、そういったところだろうか。それはそれで悲劇だが。