第1話 安全な? 警備任務
新世代は事実上の公務員であり、設立背景もあってそこそこの給料はもらっている。せいぜい義務教育よくて高卒と、決して学歴に恵まれていない彼ら彼女らであるが、その一転についてはかなりの上流なのである。もっとも危険性については下手すれば国内屈指であるが……
そんな彼らは思いっきりお金を引き出し、食糧を買い込んでの飲み明かし。国内情勢の関係で物資は豊かではなく、物価も高いのだが、それができるのが超危険職公務員パワーというものである。
「いやぁ~、あんたも大変だったのねぇ~」
ジュース片手に稲嶺の背中を何度も叩きつつ絡み始める空見。稲嶺は半笑いで対応しつつ、猪原と新谷は彼女の飲み物にだけアルコールが入っているのではないかと疑い始める。
「ははは。でも無事リハビリも済んだから、これからまた役に立てるよ」
「でも実際は入院していた方がよかったんじゃないですか? 下手すれば死にますよ」
新谷は珍しく意地悪気味の問いかけ。確かに戦場に出ることになれば、一つ間違えれば死に直結する。それこそ新谷自身、先の戦いで歯車一つ違えれば死んでいたところであった。
「いやぁ、でも入院中もしんどかったよ。急に体のいたるところが痛んだり、吐き気に襲われたり。ろくに眠れない日もあったから、正直なところ戦場の方が楽かも」
3人それを聞いて「うげぇ」と同情の声を出す。なにせ戦場経験のないものが比喩で言っているわけではなく、戦場経験のあるものが本気で言っているのである。死のリスクがあっても戦場の方がいいとは、それだけ入院生活がしんどかったというわけである。
そこで新谷はふと思い出したようにカバンの中から手帳を取り出す。
「そういえば稲嶺さん。その楽な『戦場』についての話ですけど、さすがにリハビリ戦は軽めの方がいいですよね。もちろん」
「え? もう用事入ってるの?」
「えぇ。海岸警備任務です。夏ですから」
「あぁ、なるほど……」
新谷が口にした海岸警備任務。新生物は海を中心に出現する傾向があることで、平和な昔ほど海の近くに人が寄り付くことはなくなった。だが海洋研究を始めとした学術的理由や、さらには海水浴などの娯楽目的で海に出向くことはないわけではない。その場合の護衛・警備任務というわけである。こんな戦時にわざわざやるべきではないといえばそうでもあるが、これだけ緊張切迫した環境下だからこそ、そうした息抜きも必要なのである。
「久しぶりの任務だしそれくらいがいいかも。警備任務なら何もなく終わるかもしれないしね」
「だったらいいです」
「まったくね」
「同感だ」
楽観的な稲嶺に対し、以前の警備任務で大戦闘&大事件に巻き込まれた3人は悲観的。何もなく終わるかもしれないが、何かあるかもしれないから派遣されているのである。
「ちなみに今回は娯楽現場です」
「そっか……大変だね」
そんな警備任務でも海水浴などの娯楽現場は大変である。というより学術研究の援護が楽なのである。やはり研究者はこちらの活動に理解があるし、命令系統による統率というものがある。一方で『一般客』というものはどうも浮かれているし、命令系統なんてあったもんじゃない。前者が軍人をやればいいだけ、後者が軍人+警備員をしなくてはならないといったところか。
「で、それはいつかな?」
「3日後です」
「「「早っ」」」
「普段からそんなものでは?」
戦時とは忙しい物なのである。