プロローグ
「やぁ」
「「「誰⁉」」」
「ひどっ」
第9課の事務室に入ってきた小さな男。腰に差しているのは量産品の安価な刀。空見や12課の籠谷が用いているような日本刀とは違うもの。そしてその反対側の腰にはこれまた量産品の拳銃。
「うそだって。稲嶺、退院おめでとう」
空見や新谷と共に冷たい態度を取っていた猪原だったが、すぐに明るい表情に変えて彼の背を叩き歓迎する。
この稲嶺と言われる少年。今まで4人には足りなかった第9課、その残る1人のメンバー。入院中であったが、無事リハビリを終えて本日より復帰となっている。
「もう……ほんとにひどいよ。みんな」
相当苦しい入院生活を強いられた彼には厳しい仕打ちであったが、友人だからこそできる対応ともいえる。
「ニヒヒ。ごめんね~、お詫びと言ってはなんだけど……リハビリついでに胸貸してあげようか?」
机に足を上げて大きい態度の空見は、自らの得物を目の前に突き出しながら提案。しかし見る限り、むしろ自分が相手してほしい模様。こうみるとただの戦闘好きである。
「遠慮します。まだまだ退院したばかりだし」
「そうですね。制限解放器も真新しいですし」
話に割って入る新谷は彼の腕に付けられた解放器に触れる。猪原らが使っているそれらはまったく同じもののはずであるが、明らかに傷だらけで古いものである。一方で稲嶺が用いているそれは傷ひとつない。
さかのぼることしばらく前に、それが壊れてしまったゆえに入院であり、それに伴う離脱でもあった。猪原たち3人はそれを体験したことはないだけに、その話は聞きにくくもあるが聞きたい話ではある。もちろん彼以外にも経験した者はいるが、新世代全体でみればかなり少数。それこそ新世代の黎明期においては、データ不足から死者が連発したほど。それだけに早期の入院と対応を求められ始め、今ではめったに死に至ることはない。まったくないわけではないが……
「まぁ、ぜひともそこらへんを聞かせてもらいたいね」
猪原の図々しい要望にも稲嶺は微笑む。
「話せる限りでね。目も当てられないこともあるからそこは……ね?」
深くは聞くなと言いたそうな様子であるも、それを肯定と見た空見は強引な提案。
「よぉぉし。じゃあ、今日はみんなで飲み明かすぞぉぉぉぉ」
もちろんソフトドリンクで。